第16話 再会の喜び
「いやぁ〜、帰って来たんだねぇレオ!」
「相変わらず元気そうで良かったよルミナーレ」
豪邸の玄関から駆け寄って来たルミナーレは、久しぶりの再会を果たした私の両手をガシッと掴み、ブンブンと上下に振っていた。
相変わらずの腕力で、私の腕は今にも引き千切られそうだ。
「レオ、何か若々しくなった?髪は白くなったけど、顔色がよくなったんじゃない?」
「そんな事はないと思うが。きっと長く歩いてきたから健康になったのかもしれないね」
「やっぱ運動かぁ〜!私は家事と子育てで手一杯だわ。どこかの英雄様は毎日仕事で忙しいみたいだし」
そう言ってルミナーレは背後で様子を伺っているレクスの方を睨んでいた。
その瞬間だけレクスの体が三十センチぐらいにまで小さくなったように錯覚してしまう。
それにしてもルミナーレは相変わらずのようだ。
なにせ彼女も私達と同様に”魔王を討伐した英雄パーティー”の内の一人。
つまりは死ぬまで寝て暮らせるだけの財産と名誉を手に入れているのだ。
しかし彼女は全ての家事を使用人に任せたり、権力を振りかざして自由気ままに生きる事を選択はしなかった。
あくまでも”自分の世話は自分でする”という心の基盤を持っている彼女は、さきほど私の顔に投げて来た寝巻きの洗濯を始め、その他の家事などもメイド達と共にこなしている。
良い意味で”偉く見えない”
それは彼女の最たる魅力の内の一つだった。
「あれ、ちょっと待って。知らない子供がいるわよ?」
だがそんな彼女が、とうとう私の隣でポツンと立ち尽くすセナの存在に気付いた。
どうやら先ほどの寝巻き砲撃がよっぽど衝撃的だったのか、セナは少し怯えた様子でルミナーレの顔色を伺っているように見える。
「レオ。あなたまさか……隠し子を連れて来たの!?」
「違う、話をややこしくするな。砂漠で拾っただけだよ。詳細はレクスも含めて後で話す」
だが私が子供を連れて来た事に相当驚いたのか、ルミナーレは訝しげな表情でセナに顔を近づける。
その圧のある眼光が、セナのトラウマにならなければいいが……。
「あなた名前は?」
「……セ、セナです」
「セナちゃん。可愛い名前じゃない!私はルミナーレよ、よろしくね!それで?レオみたいな変人に連れ回されて疲れてない?」
何を言っているんだこのバカは。
本当なら頭を叩いてやりたい所だが、命が惜しいのでここは我慢を選択した。
だがここで意外にもセナの方がルミナーレに鋭い言葉の一撃を入れる。
「レオはやさしいよ。あの……るなみーるさん」
「ルミナーレよ。難しい名前でごめんねっ」
「る、ルミナーレさんは……わるい人なんですか?」
「わ、悪い人!?」
「だってこわいカオでいきなりレオにバーン!ってこうげきして、レオをころそうとしたもん!」
それを聞いたルミナーレは、一瞬で顔を真っ赤にしていた。
それもそのはず、出会って数分もしない子供に怖い顔を見せた挙句、”悪人”と認定されたのだ。
昔から子供が好きな彼女には、さぞかしダメージが大きかった事だろう。
「……ねぇレオ。この子に【時間回帰】の魔法使ってもいいかしら?」
「ダメに決まってるだろう。そう安易と禁術を使おうとするな。君が言うと冗談に聞こえないぞ」
ルミナーレはこの国に二名しかいない”神級魔道士”の内の一人だ。
ちなみにもう一人の神級魔道士はというと、王立カタリス騎士学院の魔術コース学院長。つまりはルミナーレの百歳の祖母になる。
なので魔法ランクで最も難易度の高い”古代魔法”の内の一つ・時間回帰の禁術を使うという発言は、ルミナーレが言うと冗談にならないのが凄い所なのだ。
もちろんこんな場所で使えば一瞬で国にバレて、カタリス双翼騎士団や
さすがに彼女もそこまでバカではない。
「ね、ねぇセナちゃーん!?さっきの忘れてよぉ!お姉さん、いつもあんな怖い顔してないんだからっ!ほら、ギューってしてあげるから!ほらギューッ!!」
「わぁぁっ!!」
焦ったルミナーレは、セナを自身の大きな胸に埋もれさせて無理やりにでも母性を感じさせる暴挙に出ていた。
彼女の着ている赤いエプロンごと胸の中に巻き込まれたセナは、ほとんど頭が見えなくなってしまっている。
人見知りをしない、なんともルミナーレらしい愛情表現とでも言っておこうか。
「さて、可愛い子供の口を塞いだ所で……。改めておかえりなさいレオッ!今夜は最高のディナーを用意するわよっ!」
「それはありがたいんだが……。その前にセナに息をさせてやってくれ」
「あら、ちょっと強く抱き寄せすぎたかしら」
その後ルミナーレの胸から顔を放したセナが「ぶはぁあ!」と大きく息を吸ったのは言うまでもない。
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