第12話 剣聖への不信感
あまりに突然放たれた英雄レクスの殺気。
ラーナと呼ばれた青年は、突然上司から向けられた殺気に戸惑いを隠せない様子だ。
「レ、レクス様。大変申し訳ございませんでした」
「謝る相手は俺じゃないだろ?」
「は、はい」
そう言われたラーナ君は、私に向き直る。
いやいや、別に私は怒っていないんだけどな。
「レオ様。大変失礼な事を申してしまい……」
「いや待ってくれ。別に私は怒ってなどいないよ。”濁った血”だったか?それを言われても仕方ないとすら思っている」
だがラーナ君の顔色は晴れず、腰が直角に曲がるほどに頭を下げ続けていた。
おそらく彼は非常に真面目でウソをつけない性格なのだろう。
事実、顔を上げた彼の目は私に対する不信感が拭いきれてはいなかった。
「レクス。彼は一体?」
「あぁ、コイツは【
「なるほど。それで濁った血か……」
他にはアルドルが部隊長を務める【
火と雷に関しては剣術を中心に戦う攻撃部隊、他の水・地・風に関しては魔法を中心に戦闘や補給などを担当するなどの役割分担がなされている。
つまり目の前のラーナ君は、雷属性の魔力を使った剣術を得意とする剣士という訳だ。
歴代の雷部隊長は、非常に優秀な剣士が名を連ねていた。
きっとラーナ君も優秀な剣士なのは間違いない。
……ちょっと気になるな。
「レクス、私は本当に怒ってはいないよ。だけど一つだけお願いしてもいいかな?」
「ん?もちろんだ、なんでも言ってくれ。今なら何でも聞くよ」
「よし。それじゃあ……ラーナ君と戦わせてくれないか?」
それを聞いたレクスとラーナ君は、ポカンとしたまま私を見つめているのだった。
◇
「な、なぁレオよ?やっぱり怒ってるんだろ?生意気言ったラーナをボコボコにしたくなったんだろ?何とか俺に免じて溜飲を下げてはくれないか?」
なぜか本気で焦り始めているレクス。
どうやら私の意図とは違い、完全に勘違いされているようだ。
「いやいや、私がラーナ君の力量を知りたいという単純な理由さ。昔から雷の部隊長は優秀だからね。それに……私の鈍った体を叩き起こすにはこれ以上ない相手だ」
するとそれを遠くで聞いていた火部隊隊長のアルドルが、”火の部隊長の方が優秀だけどなっ”と叫ぶ声が聞こえてきた。
だがここはあえて無視をして話を進める。
「どうだい?もちろん私は木刀しか使わないよ」
「……レオ、戦う理由は本当にそれだけか?」
「本当にそれだけだ。だが"彼の方"はどうかな?」
そう言って私はラーナ君の方を見た。
相変わらずクールな表情のままだが、その目には私への疑心と怒りが見え隠れしている。
「ラーナ君。君は私の事を心の底では軽蔑しているんだろう。いいんだ、それでいい。だからこそ、その気持ちを剣に乗せて私にぶつけてみてくれ。少しはスッキリするかもしれないよ」
すると少し考えた様子を見せたラーナ君は、何かを決心したかのように息を大きく吸い、そして一言だけ吐き出した。
「お手合わせ願います」
こうして急遽私とラーナ君の模擬戦が始まるのだった────
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