第10話 アルドルとの再会
新団員お披露のパレードは続いていく。
長い長い列の後半には、露出の多い衣装を着た女性たちが華麗なダンスを披露しながら進んでいた。
するとそれを見たセナは、ウズウズした様子で私に語りかける。
「レオ!セナもようちえんでダンスした事あるんだよ!」
そう言って彼女は短い手足をバタバタさせながら、おそらくダンスのような動きを私に見せてくれていた。
パレードの踊り子に比べればクオリティの低いダンスだが、目が離せないのはセナのダンスの方なのだから不思議なものだ。
「どう?じょうずだった?」
「あぁ、非常に趣深いダンスだった」
「おもむきぶかいー?」
「楽しませてもらったと言う事だ」
それを聞いたセナは、上手とは言ってもらえなかったのが不満だったのか少しだけ不貞腐れている。
周りの人いわく、私は昔から女性への返答を間違える事が多いらしいので、今回もどうやら間違っていたようだ。
だがそんな落ち着いた時間も束の間、私は背後から変わった気配を感じ取る。
パレードを見にきた一般人とは違う、異質な気配。
だがどこか懐かしい”生意気な子供”の顔も思いだす。
「よぉ先生。ガキなんか連れて楽しそうじゃねぇか」
後ろから私を呼びかける声。
やはり”あの子”の気配で間違いなかったようだ。
「久しぶりだね、”アルドル”」
振り返った私の目に映ったのは、黒い着物のような服の上に白と金を基調としたコートを羽織った”女性”だった。
黒い髪が腰あたりまで伸びており、前髪も少し目にかかるぐらいの長さ。
だがその奥に見える赤い瞳は、気怠くも鋭い眼光を放っている。
だがそんな事よりも、彼女の吸うタバコの煙が濃い。
その煙のせいで彼女の顔を認識するのに少し時間がかかったぐらいだ。
「覚えててくれたんだな先生。俺みたいな落ちこぼれなんて忘れてると思ってたぜ」
「まさか。君ほど裏で努力していた子はいなかった。だからよく覚えているよ。それにしてもその服を着ているという事は、強くなったんだねアルドル」
そう。彼女が着ている白の布地に金の刺繍が多く入ったコート。
これはまさに世界最強との呼び声も高いこの国最強の騎士団、”カタリス双翼騎士団”の部隊長以上の人間にしか着る事を許されない、特別なコートなのだ。
見習い騎士を含めれば千人を優に超える騎士団において、部隊長以上は八人しかいない。
まさにこの国を守護する精鋭中の精鋭の証なのだ。
「褒めるのはやめてくれ。体がかゆくなるだろ」
そう言ってアルドルは吸っていたタバコを地面に捨て、それを足の裏で踏み潰した。
うーん、なるほど。背丈は大きく変わってしまったとはいえ私の元弟子だ、これを見過ごす訳にはいかない。
「アルドル、拾いなさい。君が守るべき街を君が汚してどうする」
「あぁん?……確かにそれもそうだな」
そう言ってアルドルはタバコを拾い直し、そのまま指先で燃やし尽くして灰にしていた。彼女が使ったのは火属性の魔法のようだ。
とまぁ……このように口も目つき行動も悪い彼女だが、言えばちゃんと聞いてくれる素直な子なのは変わってないようで安心した。
「相変わらず真面目だなぁ、先生ぇ?」
「それは君の方じゃないのかい。だってタバコを踏んで消そうとした時、とても嫌そうな顔をしていたじゃないか。大方私に大人になった所を見せたくてやったという所かな?どう見ても"消し慣れている"ようには見えなかったね」
するとそれを聞いたアルドルは苦虫を噛み潰したかのような表情で私を睨みつける。
怒っているのではない。これは図星だった時に彼女が見せる表情のクセだ。
「くっそぉ!相変わらず変態並みの人間観察力だな先生」
「君は特別分かりやすいけどね。でも観察は戦闘においても非常に重要だ。君も普段から人をシッカリと見ておきなさい」
そう言って私は少しだけ口角を上げる。
それを見たアルドルは少し悔しそうな、だけど恥ずかしそうな、そんな表情に変わったような気がする。
「でも先生、俺タバコは吸ってるんだぜ?それはホントなんだぜ?」
「体に悪いからやめなさい」
「親みてぇな事言うなよ!だって吸ってる方が強そうだろ?カッケェだろ?」
「うーん、そうかなぁ……。タバコを吸っていない私は弱そうに見えるかい?」
「そりゃあ……見えねぇけど……」
う〜んと唸りながら考える仕草を見せるアルドル。
彼女が良い子なのは間違いないのだが、相変わらず少し抜けているな。
少し……いや、かなり……いやとんでもなく……。
ま、まぁ元気そうなら問題はない。
◇
「色々と聞きてぇ事はあるけどよ、とりあえず英雄サマがレオ先生の事呼んでこいって言ってんだ。だから一緒に来てもらうぜ?もちろんそのガキも一緒にな」
アルドルはセナを指差しながらそう言った。
かくいうそのセナだが、多少アルドルの方を見たりしていたものの、結局はパレードの行進に夢中だったようだ。
人混みの隙間から見える派手なダンスに目を奪われ、一緒に手を動かしたりしている方がよっぽど楽しいらしい。
「なぁセナ。楽しんでいる所すまないが、用事ができた。少し移動しようか」
「えー!?まだおまつりおわってないよっ!!」
「それはそうだが……。あの1番大きな城の所に行きたくないかい?」
すると口をすぼめながら短い腕を組んで考えるセナ。
そんな彼女の出した答えは……
「おしろに王様はいる?」
それに対し、なぜかアルドルの方が答えていた。
「王様よりもっとオモシレーのがいるぜ。この世界の英雄サマだ!!」
「えいゆうってスゴいひと?」
「そりゃースゲェぜ。だってあの魔王を倒した張本人だからなぁ!」
するとそれを聞いたセナの目は、早くも"英雄を見たい"という欲の目に変わっていた。
まったく、これぐらい純粋に生きられたらどれだけ楽だろうか。
私はきっと、セナの事を尊敬している。
「じゃあ行くか!おいガキ、背中に捕まれよ。こっから城までぶっ飛んでやる!!!」
「おいアルドル、危ない事はやめ……」
だが私が全てを言い終える前にセナは走り出し、そのまま膝を曲げて待つアルドルの背中へとダイブするのだった。
「んじゃ先に行ってるぜ先生ぇ!杖でもついてゆっくり来な!!」
こうしてアルドルは火の出るようなスピードで宙へと飛び上がり、そのまま流れ星のように城の方へと飛んで行くのだった。
……ジジイ扱いしよって。まだ私に杖など必要ないわっ。
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