王都ドルーローシェ

第9話 王都ドルーローシェ

 砂漠のラクダと別れて早五日。

 私とセナの二人は、いよいよカタリス王国の王都・ドルーローシェへと繋がる最後の橋を渡っていた。


 橋の下には王都をグルッと囲む小規模の湖が広がっており、何も知らない人が見れば”水の都”と勘違いしてもおかしくないような立地だ。


 ……それにしても数十年ぶりに帰ってきた王都の外観は、相変わらず街を覆うようにかけられた何千もの防御魔法が目をチカチカさせてくるな。


 一般人の目には、水色と紫が入り混じった幻想的な魔法壁が美しく写るのだろう。

 だがある程度魔法を見極められる人間からすれば、もはや畏怖すら感じられるほどにまで徹底された強力な防御魔法の数々に度肝を抜かれる。


 特に王都の中心にそびえ立つ城の上空には、白い円盤のようなモノが浮いている。

 あそこから城に向かって降り注ぐカーテンのような防御壁は、おそらく私の剣でも破るのに数十秒はかかるようなレベルの魔法だ。

 世界で最も安全な場所と言っても過言ではないだろう。



「すごいねレオ!ダズリーランドみたいっ!!」

「なんだいそれは」

「あのねぇ、いっぱいあそべるのりものが、いっぱいあるんだよ」

「それは楽しそうだな」

「うん!ここにものりものある?」

「乗り物は……要相談だな」



 子供という天才にかかれば、どんな場所でも遊び場へと変貌する。

 たとえ私にとっては”血の匂い”しか感じられないような土地だったとしても、きっとそうなのだろう。



「レ、レレ……レオ・レクティオ様!?も、もど、戻られたのですね!?握手していただいてもよろしいでしょうか!!」



 王都への入り口を守護する衛兵は、私の顔と魔力を確認するなり慌てふためいていた。

 私なんぞ、若者にそんな反応をされるような立派な人間ではない。

 王都の教育内容はまだまだ古いようだ。


 とりあえず衛兵との握手もそこそこに、私達はドルーローシェの街中へと足を踏み入れる。

 そこに広がっていた景色はというと……



「うわぁぁあ!おみせがいっっぱい!!」



 手を大きく広げながら興奮を露わにするセナ。

 そんな彼女の言う通り、眼前には色彩豊かな街並みと沢山の店が立ち並んでいたのだ。


 数日前まで過ごしていた砂漠の街・スタッドザンドとは大違い。

 建物の外観から花壇に植えられた花まで、全てが色鮮やかに彩られているのはさすが王都と言うべき他ない。


 飲食店の外に併設されたテラスでは、貴族と見られる女性二人が優雅にお茶を楽しんでいる。

 遠くて声は聞こえないが、きっと”オホホホ”などと言ってこの時間を楽しんでいるのだろう。


 さらには……



「レオみてみて!ふねがおよいでる!!」



 ピョンピョンと跳ね続けるセナの指差す先には、街の水路を走る小舟が見えた。

 建物の間や小さな橋の下を通っていく小舟に乗っているのは、観光客がほとんどのようだ。



「セナもアレのりたい!」

「そうだなぁ。昼食を取ってからでもいいんじゃないか?」

「えぇー、いまのりたかったのにぃ……。あっ!アレはなに!!?」

「待て待て、走るな。転んでしまうぞ」



 まったく、話題が次から次へと変わっていくね。

 子供、いや、異世界人からすれば全てが新鮮に映るのだろうか?

 理由はどうであれ、今日一日はセナの好奇心に振り回される事になりそうだ。



「すごーい」



 次にセナが見つけたのは、この王都で最も広い大通りで行われているパレードだった。

 道の両端には多くの人が集まっており、その真ん中を通る騎士団らしき隊列は先頭が見えないほどにまで長く続いている。


 それにしても、この時期に騎士団が街中に出てきて行われるパレードといえば……あぁ、”アレ”か。



「みてみてレオ!おうまさんに、ひとがのってる!」

「あぁ、カタリス騎士団だな。この王都と国を守るため戦士達だよ」

「かっこいいねぇ。これからたたかいに行くのかな?」

「いや、おそらく違う。これは”新団員のお披露目”だな。前の方の馬に乗っている人たちが見えるか?」

「うーん、みえないっ!!」



 ピョンピョンと人混みの最後尾で飛び跳ねるセナ。

 私は仕方なく彼女の腰元を掴んで持ち上げようとしたのだが、どうやら普通に持ち上げるだけではご不満らしい。



「なにしてるのレオ!かたぐるましないと!」

「か、肩車?別にしなくても見えるだろ」

「ダメっ!かたぐるましないなら、みない!」



 何なんだ、そのこだわりは……。

 私は仕方なくセナを首の後ろへと回し、そのまま肩車をしてあげる事にしていた。

 セナ本人の顔は見えないが、声色から察するに満足なご様子だ。



「ねぇねぇ、前のひとたちはキラキラのふくきてるよ?」

「あぁ、あの人達が新人。……つまり新しく騎士団に入った人達だ」

「へぇ〜。セナも入れるかな?」

「いや、カタリス騎士団に入るには"王立カタリス騎士学院"をトップクラスの成績で卒業して、さらには入団試験にも合格しないといけない。セナはまだまだ騎士学院にすら入学するには早そうだ」



 するとそれを聞いていたセナは純粋な疑問を投げかけてくる。



「じゃあレオは入れるの?」

「いや、私も騎士学院には入った事がない。田舎の村の出身だからね。この王都に来てからは、しばらく一人で剣の腕を磨いていたよ」



 するとセナは続けてこう問いかける。



「レオ、ガッコウにもいってなかったんだね……。じゃあおともだちもいないんだ」



 そしてなぜか"寂しい人"に認定されてしまった私の白い頭を、セナは優しく撫でてくれるのだった。


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