第5話 お互いの立場
「ねぇねぇレオ、これなにっ!?なんていうリョウリなの!?」
両手にフォークを持ったセナが私に問いかける。
子供用のイスに座った彼女は、目の前に並ぶ豪華な食事の数々に興奮を隠せない様子だ。
◇
現在私とセナとレイラの三人は、高級料理店で食事の最中である。
(半ば無理やり)レイラに案内してもらった店は、一般人では絶対に入る事の出来ないような”砂漠都市スタッドザンド”における最高級のレストランだったのだ。
「こんな店に入れるなんて、随分と良い仕事をしているんだねレイラ」
「そうですね……。実を言うと今は”
そう言ってレイラはフルーツ盛りのチェリーを口に運んでいた。
黒い手袋をしたまま真っ赤なチェリーを口に運ぶ姿は、色のコントラストも相まって何とも目を引く光景だった。
だがそれにしても驚いた。
まさかレイラが
なにせ
世界最強と呼ばれるカタリス双翼騎士団でも手を出せない案件もこなす、まさに裏の掃除屋。
決してその所属メンバーを一般人が知る事など出来ないほどに徹底された情報管理、そして確かな戦闘技術を持った集団のボスをしているのが、目の前で美味しそうにパインを口に運ぶレイラだというのだ。
「君がボスだという重要な情報、私に言ってもよかったのか?」
「まぁ、ルール的には完全にアウトですね」
だがアウトとは思えない程にレイラは落ち着いている。
「でも先生になら言っても大丈夫ですよ。まず情報を漏らすような人じゃないですし、何より先生自身が世界にとっては最高クラスに偉い人なんですから」
「そんな過去の事など持ち出さなくていいよ。今は君の方が立派じゃないか。本当に凄いよレイラ」
私はかつて子供だった頃のレイラに向けていたような笑顔を浮かべていた。
意図的に浮かべた訳ではない。ただ自然とその表情になっていたのだ。
だがそんな回顧を遮るように、お嬢さんが怒った様子で口を開く。
「ねぇっ!セナはこれが何のリョウリかきいたよね?何でおしえてくれないのぉ!!?」
「す、すまない。放ったらかしにしてしまったね」
私には子供を見守る才能がないと自覚するランチになりそうだ。
◇
セナの様子も落ち着いてきた頃、私はレイラからさらなる情報を聞いていた。
「先生、実はもうすぐこのスタッドザンドで内戦が起こる可能性が高いんです。ご存知の通りカタリス王国とは貿易面でも深い関わりがある街なので、内戦の火種と今後起こりうるシナリオを調査してこいというのが今回のアタシの仕事で……」
なるほど、だからレイラは街中を歩いて市民の様子などを調査していたのか。
その最中で私を見つけてしまったという流れのようだ。
「内戦というのは確実に起こりそうなのか?」
「いえ、まだ”可能性は高い”としか言えませんね。どうやらここの領主から経済的に独立したいと考えている市民達の間で同盟が組まれているそうなんです。このまま対話で解決できればいいのですが、おそらく上手くはいかないかと」
「そうだね、私もそう思うよ。人間とはそういう生き物だ」
そう言って私はブラックコーヒーを口に運ぶ。
コーヒーを苦く感じたのは久しぶりだな。
「とりあえずアタシから話せるのはこれぐらいですね。あとは先生が予想できる範囲の事しか起こってはいません」
「ありがとう。機密情報を無理やり話させたみたいになってしまったね」
「そ、そんな事ありません!アタシが先生に聞いて欲しかったんです。ちょっと頭の中がグチャグチャになってましたから。でもそんな事より先生……」
するとなぜか改まった様子に変わるレイラ。
どうやら本当に話したかった事は、これから話す事のようだ。
「このセナちゃん?の事ですよ!拾ってきたとおっしゃってましたけど、これからどうするおつもりなんですか?」
「それは私が聞きたいぐらいだよぉ……」
「まさか、これからずっと面倒を見ていくつもりですか?先生はまだまだ世界に貢献しなければならない偉人なんですよ!?なにせ先生は国で唯一の称号である【剣聖】なんですからっ!!」
「やめてくれ。もう私はそんな称号に見合うような人間じゃないよ」
今にも立ち上がりそうな勢いのレイラを抑え、私はセナの方に視線を移す。
相変わらず小動物のようにチョコンと座っている彼女は、まだまだ自分の立場の特異性には気付いていないようだ。
だが私もセナの将来に関する事を何も考えていない訳ではない。
砂漠からこの街に歩いてくる最中に、色々と今後の立ち回りは考えていたのだ。
そしてタイミング良く現れたレイラという優秀な教え子。
信頼できる今の彼女の立場を考えれば、”セナという存在に対する私の憶測”を話しても大丈夫そうだ。
「レイラ、できれば笑わずに聞いてほしいんだが……」
「は、はい?先生が言う事ならもちろんです」
「実はセナが……異世界から転生してきたんじゃないかと考えているんだ」
それを聞いた瞬間、二つ目のチェリーを口に運ぼうとするレイラの手はまるで凍ってしまったかのようにピタッと止まるのだった。
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