第29話

 ああ、このままだと男の必殺技である【ビックシールド】が壊れてしまう。そう思って見ているが、ひび割れが大きくなっても男は【ビックシールド】を止めないで俺の前に立ち塞がっている。


 男の全身の傷口からは血が噴き出ているのが見える。血を流し過ぎている。このままだともし血の槍を防げたとしても助からないだろう。


 本当になんで吸血鬼のボスであるボルビックを倒せる可能性があるのかも知れないが、見ず知らずの他人のためにここまで必死になれるのか俺には本当に分からない。


 ビキビキビキバリンッと音が鳴った。【ビックシールド】が血の槍に寄って破壊されたのだ。


 その後すぐに血の槍が男の構える大盾にぶつかる。ガリゴリバキンッと音がして大盾が砕け散る。


 「うぉおおおおお!!!!!!!!!!!ぐはッ!!??」


 男は自身の両手で血の槍を掴んで止めようとしたが止まらない。そして等々男の胴体に血の槍が突き刺さりどんどんと奥へと進んで行く。


 俺を庇う男の背中から血が滴っている血の槍の穂先が姿を見せた。


 「なんで……動けないんだ!?」


 頭部、胴体の再生は終わっても未だに末端の手足まで再生が終わらず動かすことが出来ない。


 血の槍の穂先がどんどんと姿を現して俺の元まで届きそうになるが、その直前に血の槍の動きが完全に止まる。


 「うぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 絶叫のような気合を込めているような声で叫ぶ男が血の槍の握り締めており、だからこそ進もうとする血の槍は男の火事場の馬鹿力で動きを止めているのだ。


 少しずつ進もうと動いていた血の槍は完全に動きを止めて逆に少しずつ引き抜かれていく。


 「バカな!?」


 ボルビックの驚愕の声がここまで聞こえる。これはボルビックも思っていなかったことなのだろう。


 そして男は血の槍を引き抜いて放り捨てると仰向けに倒れ込む。その顔はやり切ったことに対する清々しい表情だ。


 「どう、だ。防いでみせたぞ。おれは、お前を助け、られたん、だ。」


 目も虚な男は目が既に見えていないのに視線を俺へと向ける。


 「なあ、お願い……だ。アイツ、を……俺の、仲間、を……友達を、殺し、た……アイツ、を殺し……て、くれ……たの、む。」


 「ああ、分かった!必ず殺してやる!!」


 男の今際の際の遺言に俺は答える。元々、俺は今回の日本の襲撃を行なった吸血鬼どもを殺す気でいた。その身に宿る闘争心がそうさせるから。


 だが、ここで俺は明確に吸血鬼をボルビックを殺すという殺意が宿るのを感じる。この目の前の死に向かっている男の決死の行動がより殺意の純度を上げていく。


 殺意が増した事により湧き出す進化エネルギーの増幅もまた増し、俺の身体を高速で再生し始める。


 この再生を感じ取った俺は自分自身にすら殺意が湧いてくる。なんでもっと早くからここまでの殺意を持って進化エネルギーの増幅をしなかったのだと。


 「さ、いご……に、だれ、かを……たす、けられて……よかっ、た…………。」


 「おい!最後ならお前の名前を教えろ!命の恩人の名前を!!お前に命を助けられた俺は龍崎りゅうざきりょうだ!」


 「は、はは……東条とうじょう……正樹まさき……だ……りょ、う……お、れの……いもう、と……みさ、きに……会っ、たら……助け、て……やっ……てく、れ…………。」


 「分かった!!」


 「……ほん、とうに……たすけ……られ、て…………よかっ、た………………。」


 それを最後に東条正樹は息を引き取った。


 今までにもこの戦いで死んだ地球側の戦士選ばれし者たちの亡き骸を目撃していた。


 それでも目の前で、俺が凄いと思った男が俺を庇って死んだ。その事実が俺の中で残り続ける。


 「馬鹿な男だ。血の槍が止められた事には驚かされたが、また放てば良いだけだ。犬死にの馬鹿め。さあ、今度こそトドメだ!!」


 

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