第54話 厄介オタク
謎の探索者たちを倒して一件落着。全身に大小様々な傷を負った地下アイドルちゃんは、安心しきった表情でその場に座り込んだ。
「大丈夫でしたか?」
「大丈夫に見えわけ? これが」
「それだけ生意気な口が利けるなら余裕もあるでしょう」
「ぶはっ」
いきなり噛み付く地下アイドルと、それを冷たくいなす皐月。外野で耳をそば立てるハルカは思わず噴き出した。
「はぁ、はぁ、マジありえないんだけど! なんなのこいつら? 急に襲って来るし殺す気満々だったし……」
「うお、めっちゃキレてる」
「当たり前じゃない! ていうかもっと早く助けに来なさいよ! 明日ライブなのにこんな怪我したら……」
「それは私たちには関係ありませんが」
「そうだけどっ!」
地下アイドルちゃんはウルフカットの髪の毛を振り乱して荒ぶっていた。強化スーツはボロボロ、メイクも崩れ、髪の毛もボサボサである。
それでも可愛いのは流石の一言。あと何故かがっつりと固定された前髪だけは整ったままだ。
前髪は命、ということだろう。
そんなやり取りを交わす二人を他所に、ハルカは倒れる謎の男たちを物色していた。仮面と外套で人相や体型を隠した彼ら。明らかに真っ当な人種ではない。
「殺し屋か運び屋か……」
ハルカ程になると、技を見るだけである程度敵の性質が分かるようになる。その技は対人か、対モンスターか、殺すためか、気絶させるためか。
そういう観点で、こいつらは殺しに慣れすぎていると言えた。ならば目的は地下アイドルの殺害か、遺体の利用だろう。
どのみち厄介なことには変わりない。まあハルカたちには関係のない話であるが。
「なあ、狙われる心当たりとかあるか?」
「はぁ? そんなのあるわけないじゃん! 私が聞きたいくらいなんだけど!?」
「お、おおぅ。ほんとに?」
そのヒステリックならどこでも恨み買いそうだけど、とハルカは苦笑いを隠し切れない。とはいえその程度の恨みでは殺しまではいかないだろう。
ならば本人の知らぬ所で、殺し屋を用意できるようなナニカに狙われた可能性が高い。
この時点でハルカは眼の前の少女を助けることを諦めた。可愛いし、なんかヒステリックでメンヘラっぽいからワンチャン金づるに出来そうだけど、それ以上に面倒が勝るのだ。
殺し屋にパイプを持つ組織または個人と事を構えるつもりはない。助けちゃった時点でもう手遅れかもしれないけれど……。
だからさっさと用件だけ済ませてしまうことにした。
「まあいいや。取り敢えずスーツ返してくれない?」
「は? スーツ?」
急な話題転換。一瞬間抜けな顔をした後、少女はハッとした顔でハルカと皐月を交互に見てから叫ぶ。
「うわ、ハルカじゃん!!!」
キラキラと輝く目は推しを見る厄介オタクのそれであった。
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ヒステリックハルカオタクとクズ男とメンヘラ激重少女、、、何も起こらないはずもなく、、、()
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