第52話 厄介事の気配
さて、競馬配信が終わって一段落した所で、ハルカたちには大切な任務が待っていた。
それすなわち極悪違法強化スーツの回収だ。
使用者の許可を得ずにその位置情報を割り出す装置がついているのはまずい。というか普通に犯罪で、バレたら豚箱直通コースである。
だから何が何でも回収しなければならない、のだがーー
「ねね、皐月さん。どうやって回収すりゃいいのこれ」
皐月宅にてハルカが間抜け顔で呟く。そう。ぶっちゃけスーツの交換対応すら頑なに拒否する相手から、真っ当な手段で取り返すのは不可能に近かった。
そもそも相手の事知らないし。初対面だし。ハルカはクズで馬鹿で女たらしでギャンカスだし。
「そうですねぇ」
「地下アイドルでしょ? とりまLIVEの現場に通ってとか?」
「客として接点を持つ方法は時間が掛かりすぎてしまいます」
「だったらどうすればいいんすかね」
「普通に接触しましょう。配信を通してスーツを買ったなら、向こうはハルカさんを認知しているでしょう? プライベートで出会せば無視はしないはずです」
「いやいや、プライベートったってどこで……」
「強化スーツに発信機が付いてるんですから、探索中に接触できるじゃないですか」
「あ、確かに」
「あと、よく横浜駅近くの〇〇スーパーに行ってるみたいですよ」
皐月があまりに平然と言うものだから、ハルカは一瞬違和感を忘れて会話を続ける。
「へえ、アイドルもスーパー使うんだな……ん?」
「いかがされました?」
「いや、なんで皐月さんがそれを知ってるんだろうと思って。流石に壁の中でスーツは着ないでしょ」
「まあちょっと色々と」
「そのちょっと色々との部分が怖いんだけど!?」
「気の所為ですよ」
ふふふ、と笑う皐月がどこまで本気なのか分からず、ハルカは曖昧な笑みを浮かべて話題ごと全てを誤魔化した。
なにせトラウマを抱えた精神不安定な少女である。藪をつついて出てくるのが蛇だけとは限らない。もっとやばい事実があるかもしれない。具体的にはドン引きするようなストーキングとか、、、。
「じゃあ早速探索に行きましょうか。数日泳がせていた所ですが、今日は恐らく探索の日でしょうから」
(泳がせるってなんだよオイ)
内心でそう突っ込みながら、ハルカは渋々その提案に従った。
◯
そんなこんなで数時間後。ハルカは強化スーツを着た状態で壁外に訪れていた。とはいえここは未開領域(まだ探索されていない領域)ではなく、既にモンスターの駆逐が済んだ比較的安全な地域である。
発信機によるとこの付近に地下アイドルの少女がいるらしい。
「こうして二人で探索に出るのも久し振りですね」
「そういやそうかもなあ。配信の時以来か」
「そうですね……何か感慨深いです」
「俺も。あ、レーダーの反応はこの先っぽいな」
ハルカと皐月は、地下アイドルからスーツを取り返すべく、2人で探索に赴いていた。手元のレーダーには強化スーツに取り付けられた発信機の反応が光っている。
このまま真っ直ぐ進んだ方に地下アイドルがいるらしい。
道中、遠方からやってきたモンスターなどを瞬殺しつつ進んでいくと、すぐにポイントの地点まで辿り着くことが出来た。
「ここか」
二人の目の前には、半壊した巨大な商業施設の廃墟が鎮座していた。レーダーが反応を示すのはこの中である。
「なんでこんなとこいんだ?」
「さあ。私にもわかりません。今更調べ尽くされた建物を探索しても、お金は稼げないと思うのですが……」
過去の遺物なんかは高値で取引されがちであり、こういった施設は真っ先に探索の的となる。そして生存圏から近い、つまり弱いモンスターしか出現しないこの遺跡は、既に隅々まで探索されている。
「ま、行くしかないだろ」
ハルカは手元でアサルトライフルをくるくると弄びながらそう呟き、さっさと中に入っていった。
遺跡内部は閑散としたものである。かつてここに並んでいた商品や備品の類は探索者に掻っ払われ、窓ガラスやカーテンまで持って行かれるものだから、本当に何も残っていない。
コツ、コツ、と。二人の足音だけが静かに響き渡る。
「さてと、どこにいるかね」
レーダーの反応は徐々に近付いているが、施設が巨大すぎるせいでまだ時間が掛かりそうだ。暇だなと、ハルカは壁外にも関わらず大欠伸をかましーーその時だった。
「止まってください」
皐月の鋭い五感が小さな違和感を捉えたのだ。
足早に違和感の方へ進むと、次第に違和感は音となって施設内に響き渡る。散発する銃撃音、金属を叩き付ける音、複数人が入り乱れた激しい足音。聞き慣れたそれらは戦闘によるものである。
「なーんかやな予感すんなあ」
かなり遅れて、素の状態では皐月に大きく劣るハルカも、その状態に気が付く。
「ハルカさん、気をつけて下さい。レーダーの反応が小刻みに動いています。恐らくその先の戦闘に巻き込まれているものと思われます」
「だよなあやっぱ。スーツ返したくない理由って荒事に巻き込まれてるからか?」
「そうかもしれないです。取り敢えず様子を見ましょうか」
「え?助けないの?」
「はい。というか助けるにしても私一人です」
「別に俺足手まといにはならないけど……」
そう呟いたハルカの両頬を手で挟み、ニッコリとした笑顔で皐月が言う。
「そうやって助けて、また金づるが増えたらどうするんですか」
「え、でも地下アイドルちゃん死ぬかもしれないし……」
「ハルカさんの寄生先になるくらいならここで死んでもらいましょう。スーツの仕掛けに気付かずに死ねるなら彼女も本望でしょう」
「……えぇ」
ドン引きで皐月を見るハルカ。そう言えば忘れていたけど、皐月は未だに孤独がトラウマな激重少女だった。
「まあ、冗談です。助けには行きますよ。ただし」
「ただし?」
「ハルカさんは必要がない限り一言も彼女と口を利かないで下さい。いいですね? 必要なお金は私から渡しますので」
「はあい」
そんなやり取りを経て、二人は物音の方へ走っていった。
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