第50話 第一回修羅場閉幕(二回目もあるよ)
「私と如月さんで、ハルカを?」
光希はソファの端っこでバツが悪そうな顔をしたクズ男を見た。彼と皐月を引き剥がすのは無理なのだろう。
だったら、独り占めされるくらいなら、二分した方がまだマシである。面倒を見ること自体は以前からしていた事だし、ハルカと一緒にいられる状況が出来るならーー
「確かに不安だけど」
「実際、姫宮さんの所から私の方へ来たわけですし」
「そ、それは違うもん! ハルカは優しいから……」
「そういうことですよ。優しいから、他に私みたいな女の子がいれば、この人は普通にそっちに首突っ込んでいきますよ。ね?」
「えっ、あ、あはは」
急に皐月に問いかけられたハルカは、誤魔化すように笑顔を浮かべて視線を逸らす。その先には光希がいたから逸らした意味がない。そっちも死線である。
「ねえハルカ」
「あ、はい」
「ハルカは如月さんのこと好きなの?」
「……えっと」
「じゃあ私のことは?」
「……ぁ、えっと」
救いようのないクズである。光希は覚悟していたとはいえ、想像以上のクズさに言葉を失う。それは皐月も同様で、不満げな表情を浮かべていた。
「まあいいや。そんなこと知ってたから。ハルカもそれを承知で私のこと適当に扱ってたんだろうし」
部屋を出ようとしたまま立っていた光希が、ソファに座るハルカの方へ向かう。そしてクズ男をぽんと突き飛ばしソファに寝かした。
「ねえ」
光希はその上に覆い被さり、壁ドンならぬ床ドンをかます。二人の距離が近付き、光希の栗色の髪の毛がハルカの顔に掛かった。
とてもロマンチックな体勢だが、それをする光希の表情は乙女とは程遠く、怒りや戸惑い、好意などが混ざりあった複雑なものだ。
床ドンも愛ゆえにではない。こうでもしないとハルカは目を逸らすし、そもそも逃がすつもりもない。だからこうして捕まえる必要があった。
「次は、許さないから」
「てことは今回は許し……んぐっ!?」
あっと驚くハルカが逃げる間もなく、それに気付いた皐月が止める間もなく、光希は乱暴にハルカの唇を奪った。
ヘッタクソなキスである。痛いし、歯は当たるし、けど、だからこそ少女の感情をよく表してもいた。
お前もこの痛みを受けろと、無理矢理にでも逃さないからなと。
「えーーっと、姫サマ?」
「と、とにかく、次はないからっ」
「てか顔赤くね」
「赤くない!」
「赤いです。あとさっさと離れて下さい。邪魔です」
「ふぎゃっ」
般若の形相をした皐月に首根っこを掴まれ、容赦なく投げ飛ばされる光希。本来なら光希の方が圧倒的に強いのに、キスをしたことで混乱の中にある彼女は呆気なく格下の探索者に負けていた。
ここでもハルカは余裕の表情を浮かべている。なにせ皐月ともっと色々なナニをしているので。
それが悔しくて光希は歯噛みした。自分も美貌や人気を以てしても、見向きもしてくれないのかと。
「ハルカさんは口をすすいであとついでにお風呂に入ってきてください。匂いが移ってそうなので。その後にハルカさんの面倒を見るローテーションを決めましょうか。まあ私が9、泥棒ねこ……姫宮さんが1でいいですよね?」
「言い切ったなら言い直す意味なくない!? あとよくない! せめて半分だよ!」
「いえ、ハルカさんはきっと私と一緒にいたいと思いますので。ですよね、ハルカさん?」
「……しんだふりしんだふり」
「返事がないただの屍なら踏んづけてもいいよね、ハルカ」
「駄目駄目嘘です起きてます!!」
ーーそんなこんなで結局、5対5の割合で二人はハルカの面倒を見ることになったのだった。この男、女二人に完全に尻に敷かれている。
◯
それから数日後の週末。
「お前らと迎えるこの時を待ってたぜ」
《きたぁぁぁぁぁぁあ!!》
《金はたくさん用意してきたぜ!!》
《今週も勝つぞ!!》
《競馬配信きたぁぁあ!!》
第N回競馬配信が幕を開ける。
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