第28話 弁解
身の危険を感じたハルカは、とりあえず場所を移す提案をして近場のファミレスに入ると、捲し立てるように皐月の家に泊まった理由を説明した。
配信活動をしている件、軍事作戦で多くの注目を集めてしまった件、案件の打診を受けた件、そして案件の依頼を出してきた少女が、何やら闇をかかえていそうな件―――。
全てを聞いた光希は、さっきまでの無表情から一転して驚いた顔をする。
「それ本当なの?」
「本当です。本当に本当です」
「うーん、でもなぁ」
しっかりと弁解をされてもなお、光希は執拗にハルカを疑っている様子。
「いやいや疑いすぎじゃね?てかよく考えたら俺たち別に付き合ってる訳でも無いのに、そこまで口を挟まれるアレもないと思うんだけど」
「そういう台詞は、たまに気がある風に連絡を寄越してはご飯を奢らせたりとか、女の子をキープする最低男みたいなことを止めてから言うべきじゃないかなあ?」
「べ、別にキープしてるとかじゃないし······」
「じゃあハルカ、3年前に私を助けてくれた時、自分がなんて言ったか覚えてる?」
「え?3年前?」
かつて、光希が自分ではどうしようもない大きな問題を抱えていた時、ハルカがそれを無理やり解決したことがあった。
その動機は、『お金出してくれる可愛い女の子を失う訳にはいかねえ!』という適当なモノ。
当然、その時光希に掛けた言葉など、ハルカは覚えてすらいない。
「ふうん。あんなこと言っておきながら、覚えてないんだ」
「あー、いや、あれかね?多分お金ちょうだいとかなんとか」
「違うもん!ていうかハルカは直接お金ちょうだいなんて正直に言ってこないでしょ!いっつも遠回しにさあ!こっちに率先して出させるようなことばっか言うじゃん!」
冷静に考えれば、光希にはハルカの女性関係にとやかく言う権利は無いのだが。
今回は流石にハルカの日頃の行いが悪すぎたようだ。反論の余地がない。
「······すみません」
「はぁ。覚えてないならもういいよ。どうせそんなことだろうと思ってたし······で、その子はどうするつもりなの?」
「え?」
「え、じゃないよ」
不機嫌そうに唇を尖らせる光希は、ドリンクに刺さったストローをかき回しながら会話を続ける。
帽子がピクピク動いているのは、その中でネコミミが動いているからだろう。
「ハルカの話が本当なら、その子ってだいぶ重症なんでしょ?」
「まあ、そうだな」
「下手に踏み込んでも依存させちゃうだけだし、そこら辺ちゃんと考えてる?近付くなら最後まで面倒見なきゃいけないんだよ?」
「まあ、うん」
「考えてなかったでしょ。お金くれるかなあくらいに思ってたでしょ」
「い、いや?」
考えが見え透いた返事に大きなため息をつく光希。
「そういうの世間的には良くないんだからね」
「でも姫サマは許してくれるよな」
「許してる訳ないでしょ。最後通牒の封筒見せられてお金が無いんです助けて下さいって言われたら、貸すしかないじゃんよ!」
「······ほんとね、よくないよね。うん」
「だからそう言ってるでしょ! って、今はその話じゃなくて!ハルカはその、なんだっけ。如月さん?のことはどうするつもりなの?」
問い掛けられたハルカは、しばし迷った後に答えた。
「まあ、取りあえずはこのままだな。勝手に治るならよし。悪化していくなら対処するか離れるか、色々と考えるつもり」
「結構淡白だね。てっきり絶対に治すんだ!とか言うと思ったよ。あの時みたいに」
「まあなあ。人間頑張っても限界あるだろ。適当にほどほどにが1番だわ」
「適当すぎてそのしわ寄せが来るこっちは最悪だけどね」
「すみません。あ、いや、でもこれからはお金借りたりとかはなくなるかも」
「え、そうなの?」
「おう。案件の報酬とかこの間の軍事作戦の報酬で、ちょっとした小金持ちになれそうなんだよなぁ」
「······調子に乗って使っちゃ駄目だからね?」
「はい」
絶対に使うことを考えているであろう生返事である。光希はまたしても頭を抱えた。
まあ、とはいえお金がなくなって泣き付かれるのも悪くはないため、少女としてはどちらでも構わないのだが。
「んで、結局俺を呼んだ用件ってなんだったの?」
「え?暇潰しだけど」
「それだけ?」
「うん。私たちって用事がなかったら会っちゃいけないの?」
「別に、そうじゃないけど······」
本当は、皐月について探りを入れるためにハルカを呼んだのだが、知りたいことを全て知ってしまったため、用件はもう残っていない。
その後は、2人で雑談をしつつ平和な?一時を過ごしたのだった。
○
2人が別れたあと。
「あ、そういえばハルカの配信ってどんな感じなんだろう」
先程の会話からハルカが配信活動をしていることを思い出した光希は、帰宅途中に調べてみることにした。
(なんて調べれば出てくるかな?流石にチャンネル名に本名ってことはないだろうし······)
ハルカ、探索者。
この2単語だけで検索に引っ掛かるほど、彼は自らの本名を何の躊躇いもなく使っているのだが、まさかそこまでネットリテラシーが低いとは思わない光希は、取りあえず軍事作戦の様子を切り抜いた動画の1つを再生してみた。
そしてそのコメント欄をスクロールして、何かハルカに関するコメントがないかをチェックしていく。
1個目の動画は成果無し。2個目も成果無し。しかし3個目の動画で、ようやくそれらしい情報を見つけた。
視聴者の1人が、ハルカの配信チャンネルのURLをコメントしていたのだ。
「これ、かな?」
URLをタップすると、ハルカチャンネルというシンプルなチャンネルに画面が飛んだ。
チャンネル登録者数は約8万人、配信のアーカイブの再生数は、平均して約10万回。
ハルカのチャンネルは、個人勢の中では悪くない数字を記録していた。
「え、すご。あの配信が有名だったのは知ってたけど、ハルカまで有名になってたんだ。ちゃんと案件の配信もあるし」
最新の配信アーカイブのサムネイルを見て、光希は安堵するように微笑んだ。
それから好奇心に急かされるようにハルカの配信をどんどん遡っていって―――そして。
「あ、れ?競馬配信?」
彼女はとうとう見つけてしまった。
ハルカが金欠である理由を。
――――――――――――――――――
ぷち修羅場回一旦終わり。
ここからはストーリーをちゃんと進行させます。修羅場カウンターも置かれてます。
全部進めます。
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