第26話 ハルカの美少女ハシゴ編
「あ、いや、エッチとかじゃなくて、ていうかご家族が帰って来るのでは!?」
ハルカは慌てて失言を取り繕ったが、それは更なる失言に他ならなかった。
熱で浮かされた皐月の表情が再び悲痛に歪む。
「あ、その······今日は、誰もいないので」
「あー」
(多分、今日に限らず誰もいないんだろうなあ。無難なやつだと暗い過去がある系とか?)
先程聞いた『どこにも行かないで』という言葉。
それと皐月の悲しげな表情などを鑑みれば、彼女が人に飢えているのは何らかの理由で家族と生活を共にしていないからだと予測が付く。
改めて見渡してみれば、この家には多人数が暮らしている痕跡が無かった。
室内干しされた洗濯物は一人分、キッチンで乾かしている食器の数も一人分だ。
(エロゲだったらこのまま慰めエッチか、悲しみの元を解決してからの両想いエッチなんだろうけど······これ現実だしなぁ。両親は死んでんのか?いや、父親にはプレゼント用意してたか。離婚してて親権は父親が取って、でも父親は仕事で長く家を空けてるってとこか?知らんけど)
「······やっぱり、ダメ、ですか」
「あー、いやあ、ねえ」
ハルカは皐月の悲しみの原因を知らないが、それでも依存先を探しているような感覚はヒシヒシと伝わってくる。
(ま、いっか)
迷いは一瞬だった。
可愛いし、エッチだし、何よりお金くれそうだし。
ハルカは皐月の申し出を受けることに決めた。
「まあ、今日1日、体調がよくなるまでなら良いですけど」
「本当、ですか?それならよかったです」
ハルカと返答に安心したのか、皐月はそう言って弱々しく笑うと再び目を閉じた。
すぐに寝息が聞こえてくる。ハルカが見下ろした寝顔は、さっきよりも柔らかい表情をしていた。
「相当重症だろこれ」
仮にもまだ数回しか関わったことのない男を家にあげて、穏やかな表情で寝ていられるその神経。
それはそのまま皐月の根底にある孤独感の表れであった。
異常な状態を良しとしてでも人を求めてしまうほど何かに飢えているのだ。
そしてその何かをハルカで埋めている。
「はぁ」
ハルカは横で眠る少女を見て溜め息をついた。
(頼むからシリアスとかやめてくれよな。のほほんと、いい加減に生きてたいんだよこっちは)
私服姿のハルカの胸元で玩具のロケットペンダントが小さく揺れた。
○
「······あ」
「起きました?」
「あの、えっと」
翌朝、まだ少しだるい身体をソファから起こした皐月は、横に座るハルカと目が合った。
「昨日、如月さんが泊まって欲しいって言うから泊まったんですけど」
「······ぁ、あっ!?」
全てを思い出した皐月が顔を真っ赤にして立ち上がる。その狼狽え様にハルカは笑った。
「そんだけ元気ならもう平気そうですね」
「あ、あの!その、決して破廉恥な意図で言った訳では無くてですね!」
「分かってますって」
「い、いえ!ハルカ様のことですから、どうせまた適当に返事をしているに決まっています!」
「いや本当に分かってたつもりなんですけど。如月さん的にはエッチな目的の方が良い感じだったりします?」
「ち、違―――ッ!!」
「じゃあそれでいいじゃないですか」
「―――ッ!!」
とてつもない羞恥心に、皐月はもう押し黙るしかなかった。
「じゃあ、そろそろ俺は帰りますんで」
「え、あ、はい」
「もしあれでしたら、昨日のお粥が残ってるので食べて下さい。嫌なら捨ててもいいので。あと、経口補水液とかアイスとか買い足しておきましたので、後で確認しておいて下さいね」
「······何から何までありがとうございます。ハルカ様、看病が手慣れていらっしゃるのですね」
「世間ではギャップ萌えが流行ってるみたいなんで、狙ってみようと思いまして」
「は、はぁ」
ハルカの冗談に笑うことなく相槌を打つ皐月。
「ま、まあ!そんな感じで!とにかく俺は帰りますんで。また何かあったら連絡して下さいよ」
「分かりました。それでしたら、連絡先を交換しませんか?いつまでもSNSのDMだと不便ですので」
「······え、マジですか?」
「マジです」
そうして、光希以外に二人目の連絡先を入手して、ハルカはようやく皐月の家から出たのだった。
○
帰宅の最中、ハルカのスマホに通知が届いた。
(え、早速送ってきたのか?)
皐月の家を出たのがつい5分前。流石に連絡してくるには気が早いだろうと思いつつもスマホを見ると、相手は光希であった。
『これから会えない?』
「待ってこれ俺美少女ハシゴしとるやんけ」
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