第14話 そういう所が良くないんだよ
「いや、え、ちょ、まじ? こんなあっさり千人超えて……ってもう二千も突破してるんですけどぉ!?」
【1000円:光希ちゃん助けてくれてありがとう〜!!】
『今日はなにんの?』
『配信してるじゃん』
『これあの探索者のやつ?』
『てか部屋きったなww』
『動画見ました!!』
「ねえちょっと待ってコメントに追い付けないってぇ! 普段数十人の弱小同接チャンネルだからまじ勘弁してーーってデカ!? は? マジ!?」
喋りの途中で驚愕するハルカ。彼が見たのは赤い大枠に囲まれたハイパーチャットであった。
【10000円:チャンネル登録しました】
『ナイチャ!』
『赤はやばい』
『やば』
『報告に使う金じゃねえww』
「いやホントな?? チャンネル登録しました〜なんてそこら辺に流れてるんだから、もっと大事にお金使いな? 一万円あったらなんだってできるんだからね??」
『日帰りでどっか行けそう』
『美味しいご飯食べれるな』
『風俗いける』
『↑その金額じゃ外れしか来ないだろ』
『ぷるっぷるのうなぎ食えるぞ』
「そうだようなぎ食えんだから勿体ないぞ。俺なんかに一万使うな使うな。まだね、まだ、チャネル登録者数そんなに多くないから、今なら普通のコメにも感謝するからね。これが十万とか行ったらハイパーチャットしか読めないおじさんになるかもしれないけど」
『あーあ』
『ハルカはそうじゃないと思ってたのに』
『失望しました』
『部屋の汚さが十万人行ける器じゃないから大丈夫』
『ハイパーチャットした人にゴミあげよう。そしたら俺等もハルカもWin-Win』
初見ですコメントが無数に流れる中で、以前からハルカのリスナーをしていた彼らのコメントも投下されている。
それらを見送りながら、ハルカは唖然とした顔で頭を抱えていた。
「でもホントどうすればいいんだろうなこれ。予想外だしあまりにも経験がないからマジで分かんないんだよ。取り敢えず自己紹介とか? 自分が有名になった時のシュミレーションしておけばよかったわ。うわー、俺の性質的にこんな注目されるとは思ってなかったんだよなぁ」
『確かに』
『初見です!』
『探索はするんですか??』
『初見ですー!』
『あの人の配信じゃん』
『もっとデカくなる読みで今から練習しよう』
「お、だな。男たるもの夢はでっかくだし、今から練習するか」
無数に流れる中から良さげなコメントを拾い上げ、早速練習に取り掛かろうとするハルカ。
配信に大切なのは主の好感度やトーク力、企画力など。それらをうまく伝えるための自己紹介をしようと彼は口を開く。
「これだけ大勢いてくれたら、改まって自己紹介してもいいよね? てか今何人いんの……は!? 一万人!?うそうそうそ!?」
何気なく確認した同接がバグみたいな数値を記録している。
「え、マジでやばいじゃん。うわ逆にこええ。これ下手なこと喋ったらめちゃくちゃ切り抜かれて拡散されそう。ちょっと一旦真面目にやるね??」
『わかった』
『自己紹介ですか??』
『初見です』
『はじめまして〜』
『なにするんですか?』
多くのコメントが乱雑に飛び交うコメント欄。やはり多くの視聴者はまだハルカの事を知らないのだ。故に彼は己を知ってもらおうと、真面目に語り始める。
「えっとね、たぶん多くの人は俺のこと知らないと思うからざっくり自己紹介するわ。俺ハルカって名前で活動しててーーーー」
彼は自身の配信スタイルを大雑把に説明した。探索者をしていること、軍属ではないこと、ソロで活動していること、その他諸々。
そうしてある程度理解を得たリスナー達は、少し深い所へ質問をしていく。
『探索以外はどんな配信してるんですか?』
「あ」
『あ』
『まずい』
『あ』
『あ』
ハルカと僅かな古参リスナー達が一斉に押し黙る。大衆向けに当たり障りのない自己紹介をしようとしていたのに、毎週競馬で十万溶かしてますなんて口が裂けても言えないのだ。
「えっとね、動物、そう。動物を見たりしてるかな。雑談しながら」
『動物な』
『動物??なぜに??』
『うそくさww』
『絶対に違うだろ』
『確かに動物ではある』
『おい待て過去配信に魂の十万競馬勝負とかあるぞ』
『↑↑ま??』
早速嘘がバレていた。
『やば、めっちゃギャンブラーじゃねえか』
『毎月五十万とか負けてやがる』
『やば』
『ま?』
『化け物すぎるだろ』
『それは病気では??』
「病気ではないが!?てかそうやって弱い立場の人間なら何言ってもいいみたいに思ってるお前らの方がーー」
先の発言はどこへやら。当たり障りのないことを言おうとしていたはずのハルカは、気付けば視聴者に喧嘩を売りに行っていた。
その結果ーー
◯
結論から言うと、ハルカの配信は良くも悪くも大反響を得た。
最高同時接続数は10万を超えていたし、ハイパーチャットも総額百万を超えていた。ただ、登録者数はあまり増えなかったが。
その理由が、
『あーいいよ! じゃあお前らがくれたハイパーチャット全部競馬に使うわ!! 人のことそうやってばかにするなら、こっちにだって出方ってもんがありますからね!?』
この発言をしたハルカが、先の活躍を相殺するレベルで炎上してしまったのと、その発言を面白がってハイパーチャットをする視聴者が増えたから。
そんなこんなで、ハルカは火達磨になりながら
『んじゃ来月このハイパーチャットが口座に届いたら競馬配信すっからな!?』
と吐き捨て、配信を閉じたのだった。
◯
ハルカが配信を終えた瞬間、『神奈川エリア』横須賀地区の某所にて。
「この数字が続くなら、この人にスーツの案件出してみようかしら。ちょっと炎上しそうなのが怖いけれど……」
研究室チックな部屋でハルカの配信を見ていた少女は、顔をしかめながらそう口にした。
少女の背後には制作途中の強化スーツが一着、作業台の上に置かれている。
既存のどのスーツにも当てはまらない独特なフォルムと材質。それはかなり特異な物で―――
少女はしばらく休憩を挟んでから立ち上がると、制作途中だったスーツに手を伸ばして何やら作業を再開したのだった。
「さてと。納期近いし、そろそろスーツ仕上げましょう」
―――――――――
ここまでが物語の序章で、人気になる土台を得たハルカがここから今まで以上に暴れまくる予定です。
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