第3話 最初の夏は足早に過ぎて。


「暑っつい!!」


今は夏休み中。


真夏のグラウンドはまさにフライパン。

グラウンドではサッカー部、陸上部、ソフトボール部が練習しているが・・・ソフト部、あのズボン暑くないのかね?そーいや、先輩が引退したら途端に人いなくなったなあ。今何人いるんだろ?

いや、それより水だ水!干からびるわ!


え?ラスト1500m1本?・・・マジかよ(怒)

え?終わったらスイカの差し入れ?(喜)

・・・アメとムチでワン・ツー・パンチはやめてほしいなあ・・・



サッカー部の練習が終わって汗と埃だらけになって部室に戻っていると、


「お~~~~い!」


声がする方を見上げれば、4階の音楽室からマミが手を振っている。

そっかブラス部だから音楽室にいるわけね。


こちらから手を振り返すと、

「キャ~~~~!」とマミの周りにいた女の子たちが騒ぎ出す。

なんか特別なことしたか?よくわからん・・・


文化祭のあの日から、僕はマミとに付き合うことになった。ようは「お試し期間」だ。


何せあの時はまだ中学の時の彼女と別れて日も浅く、正直まだそんな気にはなれなかった。「それでもいいから!」ということで、この「お試し期間」が始まった。

マミはあっけらかんとして、一緒にいても全然苦にはならない。正直に言って、いい子だと思う。このまま正式に付き合おう、っていう話になっても別にいいかなって思う。



着替えが終わって帰ろうとしていると、ちょうどマミも下足場から出てきたところだった。


「おーい。今帰りー?」


「おー。そっちも?」


「外暑いねえ」


「だろー?かなりシンドイわー」


マミは自宅まで自転車だが、僕は今日は自転車では上がってきてない。なので一緒に歩くのはバス停までだ。


「そーいや、さっきの周りの子の反応って何だったん?」


「あーあれ?『カレシと手を振ってコンタクトをとりあうシチュ』に興奮したらしいよ?」


「・・・そんなもんかね?」


バス停までは3分くらい。あっという間だ。


「それじゃあねー。今度また自転車で来てねー?」


「あれ結構シンドイんだけど・・・わかったー。気をつけて帰れよー」


「うーん。ありがとー」




「下界」に降りるバスに揺られながら、考える。

自分の気持ちは、正直まだ宙ぶらりんの状態だ。

マミは「それでも良い」と言っているけど、その言葉に甘えていいのか?と思う自分がいる。マミが良いヤツだからこそ、そう思う。

この関係を、ちゃんとした形のものにするのか、それとも、しないのか。

「お試し」じゃない付き合いにするか、なかったものとするか。

白黒、つけたほうが良いよなあ・・・。






そして、そんな時に限って心を揺さぶるようなことは起きる。

家に帰ると、待っていたのはトモからの手紙。

なんでも高校休学して「留学」に行こうと思ってるらしい。

手紙の内容はトモ自身の近況報告だけで、こちらのことを聞くような内容は一切なかった。誰も興味がない人間の近況とか、気にはしない。

つまり、そういうことなんだろう。


それがわかったからこそ、こんなに心が沈んでいるのか?

こんなにまだ心を揺さぶられるのか?


だったら、だとしたら───。



「今の自分」は マミとはいられない。



数日後、高校まで自転車でのぼり、マミの家まで一緒に行ったときに、自分の決心を伝えた。



「あーあ・・・お試しとは言え、フラれちゃったかあ。残念。でも、絶対に今日のこと後悔させてやるから、覚悟しといてよ?」


「いや、それなら俺が後悔しなくていいような相手を見つけてくれ。すっげー良いヤツ。」


「何それ」


「安心して任せられるだろ?」


「・・・ふーん?気にはしてくれるわけね?」


「そりゃあ、そうだ。別に嫌いでもなんでもないからな」


「・・・くそー、ちょっとタイミング早かったかぁ。焦っちゃったなあ。」


「ごめ」「あやまるの、なし。」


「・・・・・」


「ほら、早く帰らないと遅くなるよ?」


「わかった。またな」


自転車にまたがってペダルを漕ごうとしたとき

不意にマミが首に手を巻き付けて、抱き着いてくる。


・・・1秒


      ・・・2秒


             ・・・3秒


「・・・ん。行ってヨシ!じゃね!」


「・・・じゃ。」


黙って自転車を進める。

頬にはマミの唇の感触が残っている

そことは別のところが、風を受けてスースーする。

・・・多分、涙の跡だ。


我ながらヒドイことをした。

でも、これ以上甘えて中途半端な感情で傍にいることもできない。

自分だったら元カレ引きずってるカノジョとか勘弁してほしいと思う。

「それでも良いから」という人もいるかもしれないけど・・・。


自転車をこぎながら、「正解」を考えてみる。

でも、わからない。

わかるはずがない。

だって、何を以って「正解」とするかなんて、

人それぞれだから。


ただ、今は胸が痛む。

Uターンして、「やっぱり一緒に」と言おうとしている自分を縛り付ける。

それは自分が罪悪感を誤魔化すためのものだ。

それは、できない。




こうして最初の夏は、少し苦い感じで終わりを迎えることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る