変化


母がいなくなった部屋で、私はわけもわからず涙を流す日々だった。


家族の寝室は解体され、私一人の部屋となった。

兄妹で使っていた小さな部屋は父の寝室となり、それまで物置として使われていた部屋が兄にあてがわれた。


4人と1匹でご飯を食べたリビングは、今はもう私一人の空間だ。

兄は中学2年生になった頃にはいわゆる不良となっていて、友人たちの家でたむろしてあまり帰ってこなくなった。


父は以前にも増して帰宅することが減っていった。

週に1度か2度、私の朝食用の菓子パンをたくさん買って帰ってきた。


わたしは祖母に洗濯の仕方を学び、正しい火の使い方を学んだ。

出来る限り洗濯は自分でした、父が帰ってきたときに怒られないようリビングの掃除もした、夕食も簡単なものを作って食べた。


1階には祖父母が住んでいたが、これまで母と折り合いの悪かった祖母はなんとなく、私は得意ではなかった。


それまでにぎやかだった私の家族は、そこで終わってしまった。


ただ、ただ、毎日心の端に黒い影が潜んでいる。

その影が、少しずつ私の心を、思考を、蝕んでいく。


失恋しても、いじめをされても、自分はこの物語の主人公なのだと思っていた。

最後には幸せになるのだと、揺るぎない自信があった。


これまで立っていた場所が、少しずつ崩れていく。

そしていつしか、私自身も一緒に崩れ落ちていく。


悲しさも、苦しさも、原因のわからないまま、私はただ泣いて、気が付けば自分の体を傷つけるのが癖になっていた。


心と体が乖離していく世界で、痛みを感じると気持ちが落ち着いた。

今は唯一そばにいてくれる飼い犬を抱きしめ、泣きながら眠りに落ちる日々を送った。

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独白 サーモン青木 @rrre-0

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