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兄は小学5年生になった頃から、癇癪が度を超すようになっていった。


我が家にパソコンがきた頃だった。

それまでもゲームを買い与えられては約束の時間を守って行うことができず、たびたびゲーム機を隠されるなどしていた。


そんな兄が、オンラインゲームにはまってしまった。

最初はクラスのみんながやっているからと、周りに追いつくためにレベル上げを始た。


それは加速していき、ゲーム内での価値がまるで自分の価値だというように、兄は自分を模したキャラクターに多くの時間を注ぎ始めた。


無論、そんな状況を両親が許すはずもなく、兄はパソコンを禁止され、私が使用する時間に自分のキャラクターを育てさせたりと、ゲームにのめりこんでいった。


兄が6年生になった頃にはそれはますます加速し、お小遣いやお年玉のすべてをゲームに課金していた。

そして明らかに私のかなわなくなった対格差で、今度は私のお小遣いを出せと脅し始めたのだ。


当時「ネトゲ中毒」「ネトゲ廃人」という言葉が流行りだし、兄はまさにそれであった。

両親は直接は私には言わなかったが、兄は両親のお金を盗んで課金もしていたようだった。


もちろん父は兄を強く叱ったが、常に家にいるわけではなく、暴れ始めた兄をか弱な母では止めることが出来なかった。


癇癪は日に日に激しくなり、母が兄を叱ると兄は包丁やハサミを持ち出し、食器棚やテーブル、ありとあらゆる場所に刃を向け刻んだ。

卓上にあるものはすべてなぎ倒され、壁はぼこぼこに穴だらけだった。

天井は兄がぶちまけた麦茶で茶色くなり、私と飼い犬は寝室で丸くなってそれが収まるのをただ待っていた。


兄の虫の居所が悪い時には首に包丁を突き付けられたこともあった。

しかし私は兄が臆病で、心根は優しい人間だと、心の奥底で信じていた。


平静を装い、動じず、私の持ってるお金はもうないよ、と嘘をついた。

喧嘩になると殴られることはあるものの、兄は向けた刃物で人を直接傷つけることはしなかった。


いよいよそんな状況に私も親も擦り減って、両親と祖父母の間では兄を寺に預けようという話が現実的になってきた。

(実際に祖父は子供の頃、悪さばかりしていたので寺に預けられたらしい)


しかし兄が中学になると、環境の変化か、思春期か、徐々に家族内に向けられていた衝動は薄くなり、私にはしばしの平穏が訪れたのだった。

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