4

私から見た父は、強く、立派な人間だった。


父と母は10代の頃に、母が折り合いの悪かった実母(私にとっての祖母)と距離を置き、家出をするような形で添い遂げることを決意した。


母は19歳で兄を出産した。

子供が子供を産む、なんて表現があるが、自分が19歳(20歳の年)になった時に子を産み育てられる自信があるかと聞かれたら、それは100%ない、という返答になったと思う。


父は物心ついた時には長距離トラックの運転手として朝早くから家を出て、家計を支えていた。

行き先が遠くなると1、2日帰らないこともザラにあった。

私はパパのことが大好きで、しかし部屋を汚したり兄妹喧嘩が過熱すると厳しく叱られていたので恐怖の対象でもあった。


それでも休日にはよく遊んでくれ、色々なところに私たちを連れていき、想い出をつくってくれたように思う。


小学3年生を過ぎたあたりから、父の勤める会社の経営が傾いてきたのだと、当時の両親の夫婦喧嘩を聞いて知った。

父はそのころ副社長という立場で、そこそこの給与を得ていたのではないかと思う。

経営が傾いた会社に、社長からのお願いもあり幾ばくかのお金を工面していたらしい。


我が家は父方の祖父母と同居していたということはあるが、それでも子供二人を育てるのに余裕があるわけではなかったように思う。


父と母の喧嘩は、いつもお金のことだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る