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私には兄がいた。
2歳上の兄は、今でいう発達障害や、ADHDなどというのか、(あまり詳しくはわからないが)いわゆる定型児ではなかっただろう。
ただ、私と兄がまだ幼いころにはそういった診断や、療育などが一般的ではなかった。
兄はたびたび癇癪を起した。
朝、履いた靴下の感覚がチクチクするから。
小学校への登校班への集合時間に、間に合わなそうだから。
妹の私が鏡で自分の舌を観察しているときは、自分が嘲笑されたと思い込み。
兄の怒りの沸点が、私にはわからなかった。
無論、勉強もできない兄は小学生ながらにテストはからっきし、外では内気な為先生からの受けもよくなく、成績はいつもよくなかった。
そんな兄を見て育った私は、それはそれは要領の良い子に育っていた。
難解な兄の生態を理解し、少しでも被害を減らすために相手の言いたいことを察する能力は長け、表情をよく読み取るようになっていた。
そうした要領の良さがまた、兄の自信を奪い取っていたのかもしれない。
その頃の私は、ただ自分が優秀な人間でいることばかりを気にしていて、そんな兄の気持ちを慮ることはなかった。
そうした兄妹内の格差は、きっと親の育てやすさという面にも繋がっていた。
母は、大人になった私に、あなたはすごく育てやすい子だった。と言った。
おそらく人より少し触れる感覚に過敏な兄は生まれた時から人よりよく泣き、何かを訴えていたことだろう、と思う。
兄自身、生きづらさを抱えて生きてきたのではないかと、今になってそう思う。
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