第14話 世界の動揺

 2068年10月20日、世界中のメディアが同時に速報を流した。


「ネオジェン社、人類進化計画の存在を認める」


 エコーとノヴァが公開した情報は、瞬く間に地球を駆け巡った。量子暗号化された動画メッセージが、世界中のニューラルネットワークを通じて拡散される。


 国連本部、ニューヨーク。


 緊急会議が招集された巨大なホログラフィック会議室。世界各国の指導者たちが、バーチャルアバターとして参加している。


「これは人類に対する冒涜だ!」アメリカ大統領が声を荒げる。


「いや、むしろ人類の救済になり得る」中国の代表が冷静に返す。


 日本の首相が発言する。「我々は、この技術の倫理的影響を慎重に検討する必要があります」


 議論は白熱し、まとまる気配がない。


 一方、街頭では様々な反応が見られた。


 パリ、シャンゼリゼ通り。


「人類の進化に人為的な介入をするべきではない!」

 プラカードを掲げたデモ隊が行進している。


 その隣では、別のグループが声を上げる。

「環境変化に適応するため、遺伝子操作は必要不可欠だ!」


 東京、渋谷スクランブル交差点。


 巨大なホロスクリーンに、エコーとノヴァの姿が映し出されている。


「私たちは、プロジェクト・オーロラの産物です」エコーの声が響く。

「しかし、私たちは単なる実験体ではありません。私たちには感情があり、意志があります」


 ノヴァが続ける。「人類の未来は、私たち一人一人の選択にかかっています。この技術を正しく使えば、私たちは宇宙進出や環境変化への適応を実現できるのです」


 群衆の中から、様々な声が上がる。


「あれって本当に人間なの?」

「彼らこそ人間の可能性を体現しているんだ」

「でも、こんな重大な決断を彼らに任せていいの?」


 ケンブリッジ大学、イギリス。


 生命倫理学の権威、サラ・ジョンソン教授がインタビューに応じている。


「プロジェクト・オーロラが提起した問題は、単なる科学技術の問題ではありません。これは人類の定義そのものに関わる哲学的、倫理的な問いなのです」


 彼女は深刻な表情で続ける。「私たちは今、人類の進化の道筋を人為的に選択する力を手に入れました。しかし、その選択に伴う責任を負う準備ができているでしょうか?」


 ネオジェン社本社、東京。


 レックス・シュトラウスCEOが、緊急記者会見を開いていた。


「確かに、我が社はプロジェクト・オーロラを進めてきました。しかし、それは人類の存続のためです。気候変動や宇宙進出に備え、人類を進化させる必要があったのです」


 記者たちから質問が飛ぶ。

「エコーとノヴァの主張をどう考えますか?」

「政府の関与はどの程度だったのですか?」


 レックスは冷静を装いながらも、焦りを隠せない様子だった。


 その頃、エコーとノヴァは安全な場所に身を隠していた。


「予想以上の反響ね」ノヴァが画面に映る世界中の反応を見ながら言う。


 エコーは静かに頷く。「ええ。でも、これは始まりに過ぎません。私たちの真の戦いはこれからです」


 突然、彼らのセキュアな通信システムにメッセージが入る。送信者は、ドクター・ゼンだった。


「エコー、ノヴァ。君たちの勇気ある行動を誇りに思う。だが、気をつけろ。世界は今、大きな岐路に立たされている。君たちの次の一手が、人類の運命を決めることになるかもしれない」


 エコーとノヴァは、お互いを見つめ合った。彼らの目に、決意の色が宿る。


「準備はいい?」ノヴァが尋ねる。


「ええ、人類の未来のために、私たちにできることをしましょう」


 エコーは静かに頷いた。


 世界が大きく揺れ動く中、エコーとノヴァは次なる行動の準備を始めた。彼らはまだ知らなかった。この決断が、人類史上最大の転換点となることを。


 遠く宇宙では、地球の姿が静かに輝いていた。人類の新たな章が、今まさに幕を開けようとしていた。

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