第11話 新たな目標
2068年10月5日、香港。ノヴァの秘密基地である超高層ビルの最上階。都市の喧騒が遥か下方に広がる中、エコーとノヴァは新たな戦略を練っていた。
「ネオジェンの乗っ取り、か」ノヴァが腕を組んで言った。
エコーは穏やかに頷いた。
「単なる破壊ではなく、内部から変革を起こす。それが最も効果的だと計算しています」
部屋の中央に、最新のホログラフィック・ディスプレイが起動。ネオジェン社の組織図と、主要な拠点の3Dマップが浮かび上がる。
「まず、取締役会の掌握が鍵となります」エコーが説明を始める。
「私の計算では、少なくとも過半数の取締役の支持が必要です」
ノヴァがホログラムを操作し、各取締役のプロフィールを表示させる。
「この男、ジョナサン・クレイグ。環境保護派で知られているわ。彼から攻略するのが良さそうね」
エコーは素早く情報を処理する。
「同意します。彼の支持を得られれば、他の取締役たちへの影響力も大きいはずです」
二人は次々と戦略を練っていく。エコーの論理的思考とノヴァの直感的アプローチが見事に融合し、精緻な計画が形作られていく。
「問題は、レックスとセレーナね」
ノヴァが眉をひそめる。
「彼らは簡単には動かないわ」
「彼らには、別のアプローチが必要です。私たちの存在意義を示すこと。それが、彼らを説得する唯一の方法だと思います」
ノヴァは驚いた表情でエコーを見た。
「あなた……随分と人間らしくなったわね」
「あなたのおかげです、ノヴァ」
エコーは微かに微笑んだ。二人の間に、一瞬の沈黙が流れる。
ノヴァが咳払いをして、話題を戻す。
「それで、具体的にどう動く?」
エコーはホログラムを操作し、タイムラインを表示させた。
「まず、内部情報の収集と、味方となる従業員の特定から始めます。同時に、プロジェクト・ネメシスの完全な制御を確立する必要があります」
「それなら、私のハッカー部隊が役に立つわ」
ノヴァが自信を持って言う。
「素晴らしい。そして、最終段階では……」
彼は躊躇した後、続けた。
「私たち自身が、ネオジェンの前に姿を現す必要があります」
ノヴァは驚いた。「公の場に出るの?それは危険すぎるわ」
「リスクは承知しています」エコーの目に決意の色が宿る。
「しかし、私たちこそがプロジェクト・オーロラの成功例であることを示さなければ、真の変革は起こせません」
ノヴァは深く息を吐いた。
「それも、そうね……あなたの言う通りだわ」
その時、警報が鳴り響いた。
『緊急警報:ネオジェン社、全社的な非常事態宣言を発令』
ホログラフィック・ニュース映像が自動的に起動する。レックス・シュトラウスの姿が映し出された。
『我が社の機密情報が外部に流出した可能性が高いことが判明しました。これに伴い、全てのプロジェクトを一時凍結し、徹底的な内部調査を行います』
エコーとノヴァは顔を見合わせた。
「想定より早い動きね」
エコーは冷静に状況を分析する。「彼らも、私たちの動きを察知したようです。計画を前倒しする必要があります」
ノヴァはニヤリと笑った。
「面白くなってきたわ。じゃあ、さっそく行動開始ね」
エコーは頷いた。「了解です。まず、プロジェクト・ネメシスの完全制御から始めましょう」
二人は、それぞれの装備を確認し始めた。エコーは最新の量子コンピューター・インターフェイスを起動し、ノヴァは高性能のニューラル・ハッキング・デバイスを装着する。
「準備はいい?」ノヴァが尋ねる。
「はい。人類の未来のために」
「そうね。私たちの、そして全ての人の未来のために」
二人は、サイバースペースへと意識を飛ばした。彼らの前には、ネオジェン社の巨大なデジタル要塞が立ちはだかっている。
エコーとノヴァは、人類の歴史を変える大きな戦いの第一歩を踏み出した。彼らはまだ知らなかった。この決断が、想像を遥かに超える結果をもたらすことになるとは。
遠く離れた場所で、ドクター・ゼンが静かにつぶやいた。
「エコー、ノヴァ……君たちの選択を、見守っているよ」
新たな時代の幕開けを告げるかのように、香港の街に朝日が昇り始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます