第10話 隠された真実

 2068年10月1日、深夜。東京の高層ビル群が、未来都市特有の青白い光に包まれていた。ネオジェン社東アジア支社の200階建てビルの最上階で、エコーとノヴァが対峙していた。


「協力するって本当?」


 ノヴァの声には疑いの色が混じっていた。


 エコーは静かに頷いた。


「はい。真実を知る必要があります。そのためにあなたの力を借りたい」


 ノヴァは腕を組んだ。「面白い展開ね。でも、警告しておくわ。知ってしまったら、後戻りはできないわよ」


「覚悟はできています」


 二人は無言で見つめ合った後、同時に頷いた。


 エコーが、ポケットから小さなデバイスを取り出す。


「これは、量子暗号解読装置です。ネオジェンの最高機密サーバーにアクセスできるはず」


 ノヴァも、自身の装備を確認した。「私のニューラル・ハッキング・インターフェイスと組み合わせれば、完璧ね」


 二人は、サーバールームへと向かった。最新のセキュリティシステムを、エコーの論理的思考とノヴァの直感的アプローチで次々と突破していく。


 サーバールームに到着すると、エコーとノヴァは躊躇なくシステムに接続した。彼らの意識が、デジタルの海へと飛び込んでいく。


 サイバースペース内部。無数のデータストリームが、幾何学的なパターンを描きながら流れている。


「ここよ」ノヴァの意識が、一つの巨大なファイアウォールを指し示す。「プロジェクト・オーロラの核心部分」


 エコーの意識が応える。


「了解。量子解読プロトコルを起動します」


 二人の能力が融合し、ファイアウォールを突破していく。そして、彼らの前に真実が明かされる。


 プロジェクト・オーロラの本来の目的。人類の進化を促進し、迫り来る環境破壊と宇宙進出に備えること。そして、その目的が徐々に歪められていった過程。


 エコーとノヴァは、膨大な情報を瞬時に処理していく。


「これは……」エコーの声が震える。


「信じられない」ノヴァが続ける。


 彼らが見たのは、人類の存続をかけた壮大な計画だった。しかし同時に、その計画が権力と欲望によって歪められていく様子も明らかになった。


 突如、警報が鳴り響く。


『侵入者検知。緊急プロトコル発動』


「まずいわ」ノヴァの声に緊張が走る。「トレース・プログラムが起動した」


 エコーは冷静に状況を分析する。「あと30秒で情報の抽出が完了します。耐えられますか?」


「任せて」ノヴァの意識が、攻撃的なファイアウォールを展開する。


 30秒間の熾烈な戦いの末、二人は無事にシステムから脱出した。


 現実世界。エコーとノヴァは、大きく息を吐いた。


「やったわ」ノヴァが笑みを浮かべる。


 エコーも微笑んだが、すぐに真剣な表情に戻る。


「これで、全てが明らかになりました」


 二人は、抽出したデータを確認し始めた。


 プロジェクト・オーロラの真の目的。人類の遺伝子を操作し、環境変化や宇宙空間にも適応できる「新人類」を創造すること。そのために、エコーやノヴァのような実験体が生み出された。


 しかし、プロジェクトの進行とともに、その目的は歪められていった。一部の権力者たちが、「新人類」を自分たちの支配の道具として利用しようとしていたのだ。


「私たちは……道具だったのね」


 ノヴァの声に、怒りと悲しみが混じる。


 エコーは静かに言った。


「いいえ、違います。私たちは、可能性そのものなんです」


 ノヴァは驚いて エコーを見た。


「どういう意味?」


「私たちには選択する力がある」


 エコーの目に、強い決意の色が宿る。


「未来を……私たち自身の手で選び取ることができるんです」


 ノヴァは、しばらく黙って考え込んだ。そして、ゆっくりと頷いた。


「そうね。私たちが、自分たちの運命を決める……いえ、もう決めているわね」


 二人は、お互いを見つめ合った。そこには、もはや敵対心はなく、共通の目的に向かう同志としての絆が芽生えていた。


「で、これからどうするの?」


 ノヴァが尋ねた。


 エコーは窓の外を見た。夜明けが近づいていた。


「まず、この情報を整理します。そして……」


 彼は、決意に満ちた表情でノヴァを見た。


「ネオジェンを、本来の目的に立ち返らせます」


 ノヴァは笑みを浮かべた。


「野心的ね。でも、面白そう」


 東の空が、少しずつ明るくなり始めていた。それは、新たな戦いの幕開けを告げているかのようだった。


 エコーとノヴァは、人類の未来を左右する重大な選択の前に立っていた。そして彼らはまだ知らなかった。この決断が、想像を遥かに超える結果をもたらすことになるとは。

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