第3話 二度目の挑戦
二度目の誕生日の朝だ。
この世界とリョーマの背景については確認できたが、問題解決に直結しそうな話は何も聞けなかった。
とにかく今は情報が足らない。
多少不審に思われるかもしれないが、リョーマに聞く事が出来ない以上誰かから話を聞くしかない。
着替えをすました俺は、広間へ向かう道中、一番信用できそうなリーシアに質問することにした。
「母さんの部屋ってこの辺だっけ。」
「この子ったらまだ寝ぼけてるのかしら。本殿に住めるのは王族と護衛の人間だけじゃない。グラウス様は本殿で暮らすことを勧めて下さったけど、私は正直別棟で暮らす方が気が楽だわ。」
「確かに毎日あれじゃなぁ。」
先程のジュリアの様子はを思い出して納得する。
「こら、寝坊については貴方が悪いのだから滅多なことは口にしない!」
「でも母さんだって父さんの奥さんなんだからこっちに住むべきじゃないの?」
「私は一応側室ではあるのだけど、正式にグラウス様と結婚している訳ではないからね。色々あるのよ。でも貴方はグラウス様の血を引いていますから、ちゃんとここで暮らさないとだめよ。」
確かジュリアが使用人の分際でみたいなことをリーシアに言っていた気がする。
詳しいことは分からないが、リーシアが本殿で暮らすことは方々の反感を買ってしまうのかもしれない。
「そういえば父さんが起こしに来るなんて珍しいね。」
国王が寝坊した息子を直々に起こしにくるなんてあまりなさそうなので聞いてみる。
「グラウス様は貴方に渡す剣を自室に取りに戻ったついでよ。シュルツ様が先に呼びに行って下さっていたけど、まさか寝ているだなんて…」
リーシアは頭を抱える。
リョーマに昨日何してたのか聞くの忘れたな。
夜更かしする不良少年ではなさそうだったけど。
「ジュリア様はなんで来たんだろう。」
「わからないわ。私は広間でシュルツ様が貴方を呼びに行ったと聞いて、お手を煩わせない為にすぐに向かったのよ。
でも私が部屋に着いた時にはもう皆様揃ってらしたわ。」
「うわぁ…息子が息子なら母親も母親だわとか言われそう…」
ジュリアの声を真似てふざけてみせると、リーシアはぷっと吹き出し笑顔を見せる。
暗い表情をしていることが多いが、笑うととても可愛らしい。
グラウスが惚れるのもよく分かる。
話を纏めると、今のところ俺と部屋が近い人物はグラウス、ジュリア、シュルツだ。
一度目では自室で就寝中に刺されている為、部屋の配置関係からいうとこの3人が1番疑わしい。
だが地位ある人間が直接手を下すとは考えにくい。
それに建物内に護衛の人間が0ってことはないだろう。
「母さんが僕の護衛として近くに住んでくれればなぁ。」
「15歳にもなってマザコンは恥ずかしいわよ。王族の護衛を許されるのは騎士階級でも限られた人間だけよ。18歳で抜擢されたルーク様とアイシャ様が異例なのよ。」
「他の人の護衛はどうなってるんだっけ。」
「貴方はルーク様とアイシャ様以外とは話す機会がないかものね。ジュリア様の護衛のラプラス様、シュルツ様の護衛のフラン様がおられるわ。あなたも成人したことだし、専属の護衛がつくかもしれないわね。ルーク様とアイシャ様も王の護衛と兼任は大変でしょうし。」
「18歳なんて若さで王の護衛だなんて大任だなぁ。」
「普通は有り得ないわよね。グラウス様は実力主義だから、年齢も身分もあまり関係なく登用されるのよ。ルーク様はまだしも、アイシャ様の時は家臣達に物凄く反対されていたわ。」
話を聞くと、ルークは代々アーベライン家の護衛を勤めるガウウェル家の若き当主ということで順当だった様だが、アイシャは違うらしい。
ノースライン家という弱小貴族出身で、本来であれば出世は絶望的な立場だが、戦場での獅子奮迅の働きをグラウスが評価し、護衛へと抜擢したとのこと。
『蒼きヴァルキリー』なんて格好いい二つ名まであるらしい。
「グラウス様は、決して出自で人を測ったりしないお方よ。貴方のこともシュルツ様と同じく愛して下さっているわ。恥をかかせないように精進なさい。」
リーシアの瞳が強く訴えかける。
二人の馴れ初めは知らないが、リーシアはグラウスのことを慕っているのだろう。
権力に負けて無理矢理、とかではなくて良かった。
そんな話をしている内に、広間についてしまった。
前回と変わらない流れで贈剣の儀が始まる。
黒刀を差し出された時、また思考が回らなくなるのではと身構えたが、今回は大丈夫だった。
相変らず異様な雰囲気は感じるが、頭は問題なく働いている。
耐性みたいなものがついたのかもしれない。
贈剣の儀が終わると、会食が始まった。
うっすらとしか覚えていないが、前回もそうだったと思う。
騎士っぽい人々が次々に祝いの言葉をかけてくれる。
リーシアやリョーマの話を聞いていると、城内はリョーマを良く思わない人間ばかりかと思っていたがそうでもないようだ。
しかし、面識がない人に対して面識がある様に振る舞うのは非常に難しい。
「貴方も15歳になったのね。泣き虫リョーマももう泣いてられないわよ。」
知らない思い出話への対応に困っていると、後ろから声をかけられた。
振り向くと、悪戯な笑みを携えた美少女が立っていた。
白い髪に負けない程に透き通った白い肌。
身に包む鎧も全て白。
純白の整った造形に、瞳だけが蒼く美しく輝いている。
「誕生日おめでとうリョーマ。」
これがアイシャ=ノースラインとの出会いだった。
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