第2話 リョーマ=アーベライン
「ごめんね巻き込んじゃって。」
一面真っ白な世界で少年が語りかけてくる。
「君にも頼らせてほしい。」
少年は続ける。
「前の人がそっちの世界には人狼ってゲームがあって、考察が得意な人が多いって言ってたんだ。」
何となく察しがつく。
申し訳なさそうに説明する少年は、先程見た人によく似ていた。
「僕はリョーマ。元、なんだけども。」
そう言うと彼は、バツが悪そうに母親譲りの金髪をいじった。
「やっぱりここは異世界で、俺は君に生まれ変わったのか?」
リョーマは一瞬驚き、安堵の笑みを浮かべた。
「理解が早くて助かるよ。まずは僕の話をしなくちゃだよね。」
リョーマの話によると、ここはルーマ大陸にあるアルムハインという国で、リョーマはやはりそこの第二王子になるようだ。
リョーマの親戚関係については、先刻の会話から推測できるものと相違無かった。
国王グラウス、王妃ジュリアとの間に生まれた第一王子シュルツ、グラウスの使用人として働いていたが、主人の寵愛を受けたリーシアとの間に生まれたのがリョーマという訳だ。
「君が殺されるのはやっぱり王位継承権争いが原因?」
「うーん、僕は謂わば妾の子な訳で、シュルツ兄さんの対抗馬としては土俵にすら上がれてないと思う。ジュリア様が隣国のスムガルド共和国の第三王女だったこともあって、使用人出身の母さんとは身分が違いすぎるんだ。」
「そっか、俺はリーシアさんの方がタイプだけどな。」
リョーマは俺の戯言を聞いて少し笑ってくれた。
リーシアもリョーマも、どこか影がある。
王宮生活のことなんてちっとも分からないが、ジュリアの態度があれで普通なら、是迄の日々は決して良いものではなかっただろう。
「んで、俺はなんでここに?意図的に選んだような事を言ってた気がするけど。」
「ごめんね、こうやって頼るのは君で3人目なんだ。」
「前の人が、とか言ってたもんな。」
「うん、1回目の人に日本人はこういった状況の書物がたくさんあって、協力を得やすいんじゃないかって教えてもらった。2回目の人には人狼っていう犯人探しのゲームがあって、ってそのプレイヤーとかいいんじゃないかって教えてもらったんだ。」
「確かに人狼ゲームは良くやってたけど。」
俺はTRPGゲー厶が好きで、特にオンラインで気軽に楽しめる人狼ゲームは趣味にしていた。
ちょっとした強者として一部では有名だったりするんだぞ!
「でもどーせなら世界一頭のいい人!とかにすれば良かったんじゃないの。」
「それは出来ないんだ。リストの中からしか選べない。今まで助けてくれた人は元の世界で死んだ直後だったみたいなんだけど、あなたも?」
「そうだな。吹っ飛んで死んだと思う。」
「じゃあやっぱり特定の時間に死んだ人とか、そういうことなんだと思う。リストには氏名、年齢、性別、特技が載ってるんだけど、僕の知らないそっちの世界の言葉が分からなくて。」
「それで前任者に聞いていくうちに人狼という言葉を知ったんだな。てか俺の特技って人狼なのかよ。」
「いや他にも書いてあったよ、剣道とか器械体操とか。でも決め手は人狼かも知れない。」
「それまたなんでよ?」
「僕はね、15歳の誕生日の晩に必ず死んでしまうんだ。君にはその犯人を突き止めて、死を回避してほしいんだ。」
「推理能力が欲しかったってわけか。警察とか探偵とかはいなかった?」
「職業は載ってないからね。特技でそれっぽいのは人狼しかなかったかな。」
「なるほどねぇ。でも回避してほしいと言われても、残念ながら死んじまったしな。てか死ぬ前にこの説明聞きたかったわ。」
ゲームオーバーしてからのルール説明ってなんだよ。
「違うんだ、これからが本番なんだよ。」
「へ??」
思わず間の抜けた声が漏れる。
「僕はね、この剣の言うことを聞いているんだ。」
そう言ってリョーマが手を開くと、例の黒い刀が現れた。
「この剣は喋るんだ。君には聞こえる?」
「いや、全く。」
「やっぱりそうなんだ。僕には聞こえるんだ。死んではならぬ、選べ、汝を未来へと運ぶ者を探せって。」
「偉そうな刀だなぁ。」
「カタナ??」
「あぁ、俺のいた世界の俺の国の武器にそっくりなんだそれ。正確には黒い刀だから黒刀って言うのかな?俺も詳しくないけどさ。」
「へぇ、珍しい形だとは思っていたけど。
でね、この黒刀は時間を戻せるんだ。」
「ほぉ、興味深い話だ。」
「この黒刀の柄に数字が書いてあるでしょう。」
「数字?そんなん書いてあったっけ?アルファベットなら見た気が…この辺だっけ。」
『Ⅸ』
あれ?確かここにはⅩって書いて…
「これってもしかしてローマ数字か?」
「君達の世界ではそういうみたいだね。ルーマ大陸の共用数字だよこれは。この数字が死ぬ度に減って、この空間に戻って来る。」
死ぬのがトリガーなのか。
時間が戻るのは嬉しいけど死なないと駄目か。
「これ0になったら?」
「0って『Ⅰ』より小さい値のことだよね。彰人さんも言ってたな。
その場合はまた『X』に戻る。そして君は…消える。」
ローマ数字にも0の表記はない。概念が存在しない。
0にならないからリョーマにゲームオーバーはない。
また誰かを呼んで、『X』から始めて。
それを繰り返してきたのだろう。
「俺は残機有りってことね。俺で3人目だっけ。リョーマも10回やって駄目だったのか?」
「いや、僕自身が単独で戻ったことはないよ。
呼んだ人が僕になっている間は、その人の意識と同化しているから、正確には経験はしていることになるね。」
「俺がリョーマになっている間に、頭の中でリョーマと話せたりは?」
「それはできない。でも君が何をしていたかは把握できるよ、何を考えていたのかまでは分からないけど。」
なるほど大体分かった。
リョーマの話だと前任者のやったことなんかも聞けそうだ。
「僕は少しでも先に進みたい。1度目に呼んだ人が消えてしまった時、罪悪感からもうやめようって思った。でもずっとこの空間に一人ぼっちで死ぬこともできない。君達には本当に、本当に申し訳ないけど、どうしても耐えることが出来なかったんだ。僕の我儘なのは百も承知だよ。お願いです、僕を助けてください。」
そりゃそうだ。
何も無い空間で永遠を過ごすなんて、死よりも辛いことかもしれない。
「分かった。俺からすれば繋いでもらった命みたいな所もあるしな。」
リョーマは俺の返答に、これまでで一番の安堵の表情を見せた。
「ありがとう。黒刀がそろそろ時間だって言ってる。準備はいい?」
「うぇ、前任者の情報を聞く時間は無しか。分かったよ。そうだ、知ってるだろうけど、俺の名前は
「柊真、いい名前だよね。じゃあ行くよ。」
怪しく光る黒刀が手渡され、目の前が真っ暗になる。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「起きろー。誕生日おめでとう、リョーマ。」
こうして俺は、2度目の15歳の誕生日を迎えていた。
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