第1話 15歳の誕生日は繰り返す
「起きろー。誕生日おめでとう、リョーマ。」
うるせぇな。昨日動画付けっぱなしで寝たんだっけ?
「リョーマ起きなさい!」
誰だよリョーマ。
「15歳にもなって寝坊だなんて。情けない!」
リョーマ15歳か。いいな15歳。
今からなんとでもなるもんな。
「ほら、起きなって。」
目を開けると、知らない外国人が並んでいた。
「シュルツは早朝から今日の儀の準備をしていたのよ!おまけに起こさせるなんて!お礼くらい言ったらどうなのかしら!」
「いいんだよ母さん。俺が好きでやっただけさ。リョーマ、誕生日おめでとう。これで一緒に酒が飲めるようになるな。」
何コレ何コレ。
夢??
ふと視界に入る自分の手に違和感を覚える。
これは一体誰の手だ??
綺麗で若々しい手、そこにあるべきなのは、もっと太くてゴツゴツしていたはずだ。
−−−−−−−思い出した
そうだ、俺は現場で爆発事故に遭遇して……
そして、たぶん、死んだんだ。
思わずぶるると身震いする。
確実に死んだよなぁ俺。
−−−−−−−なるほど、そういうことか。
神様、ようやく俺の所にも来てくれたんだな!
時間を戻してほしいって要望とはズレてはいるけど、転生でも全然可でございます!!
見たところ欧米系の人間に転生したっぽい。
周りの人々の顔の造形もそうだし、この部屋の内装も北欧を感じさせる。
何度も妄想していた所為なのかは分からないが、すんなりこのとんでも事態を飲み込めた俺は、現状の把握を試みるべく会話に耳を傾けた。
「さ、もう時間だ。皆、リョーマの晴れ姿を待っているんだ。勿論、俺も楽しみにしてるしな。」
「シュルツはこんな子に優しすぎるわ!恥を知るべきよ!グラウスの手まで煩わせて!」
この赤髪の爽やかなのがシュルツで、俺の兄貴らしい。
多分だけど性格も良さそうだ。
そしてこっちの気の強い40代くらいの女性が母さんなのかな。
黒くて長い髪が特徴的だ。
残念ながら俺は物凄く嫌われてるっぽい。
「ジュリア、今日はリョーマの誕生日だ。小言はそれくらいにしといてやれ。」
このナイスミドルが俺の父さん。グラウスと呼ばれている。
シュルツの赤い髪は父親譲りのようだ。
蓄えた顎髭と口髭が貫禄を感じさせる。
怒らせたら超怖いタイプだ、間違いない。
そっか、母さんの名前はジュリアっていうのか。
「妾の子が王子に起こされるなんて聞いたことありませんわ。使用人の分際で王を誘惑する図々しい遺伝子は立派に受け継がれているようね。ねぇ、リーシア。」
「申し訳ございません。しっかりと教育しておきます。」
「やめないかジュリア。シュルツもリョーマも等しく私の息子であることに変わりはない。」
違ったみたい。
すっごい複雑だったみたい。
こっちの金髪のお姉様が本当の母親のようだ。
20代と言われてもなんの違和感もないが、15歳の息子がいるということは、30代前半くらいだろうか。
綺麗な金髪で、美人というより可愛い感じの人だ。
「さぁ、広間へ行こう。このままじゃ大遅刻だ。」
シュルツの呼びかけに応じて、皆が部屋を出ていく。
大急ぎで着替えさせられ、最後尾からすごすごと付いていく。
「全く昨日は何してたの。こんな大事な日に夜更かしして寝坊だなんて。嫌味を言われても仕方ないわ。」
「ご、ごめんなさい。」
リーシアが小声で囁く。
何してたんだよ!昨日の俺!
言い訳しようにも、何をしていたか分からない。
ごめんなさいしか返す言葉がない。
「全く…今日はあなたの誕生日だからこれ以上は言わないわ。ジュリア様のお怒りは半分は私のせいだし。…母さんこそごめんなさい。貴方には苦しい思いをさせてるわね。」
「明日からはちゃんと起きるよ。ごめん。」
リーシアは悲しそうに微笑むと、小走りでジュリアの元へ向かい何度も頭を下げた。
転生ホヤホヤではあるが、母親が頭を下げる姿は見てて気持ちの良いものではない。
明日からは早起きしよう。
しかしとても広い家だ。
家というよりお城って感じ。
さっき外に出た時は、広間にいくのでは?と不思議に思ったが、今はまた建物の中を歩いている。
ひょっとすると、とんでもなく金持ちの家に転生したのかもしれない。
「待たせたな。」
グラウスの声に反応して前を覗き込むと、扉の前に並んだ使用人達が一斉にお辞儀をしている所だった。
「では始める。」
使用人の長なのだろうか。白髪の男性が扉を開けてくれた。
戸惑いながらグラウス達の後に続く。
「リョーマ王子、おめでとうございます。」
王子?
「皆の者、本日はよく集まってくれた。」
グラウスの声が響く。
会場には映画やアニメでしかみたことがない、甲冑に身を包んだ騎士や、いかにも貴族っぽい格好をした人々が大勢並んでいる。
「アルムハイン国の第二王子、リョーマ=アーバインは、本日15歳を迎え、成人となる。」
まさかの王子転生キタコレ。
神様さっきはズレてるとか言ってすみません。最高です。転生最高。
「それではこれより贈剣の儀を行う!リョーマ、前へ!」
言われるがままに、グラウスの前に出る。
「アルムハインの更なる繁栄を目的とし、正義を護り、悪を断て。」
グラウスが差し出した剣は、吸い込まれてしまいそうな漆黒に包まれていた。
剣というより、もっと相応しい名前を俺は知っている。
これは日本刀だ。
柄には日本刀に似合わないアルファベットが
『X』
と刻まれていた。
「この儀をもって、リョーマを成人と認める。新体制については次回会議にて通達する。以上だ。」
そこから先はあまり覚えてない。
騎士達や家臣らしき人物に祝いの言葉をもらったり、逆にコソコソ陰口を言われたり、シュルツに剣を見せてくれと言われたり、ジュリアにまた小言を言われたり、色々あったが大体上の空だったと思う。
俺の知っている世界では、アルムハインなんて国はないし、欧米諸国に誕生日に日本刀を贈る文化なんてあるはずもない。
ここは異世界で確定だ。
驚きはしたが、それはむしろ望む所。思考が働かない原因はそれではない。
真っ黒な日本刀を手にした時から、得体の知れない不安が襲うのだ。
財布を失くしたかも!と気付いた瞬間のあの焦燥感、頭が真っ白になる感覚。
とても不吉なことが起こる予感。不安により頭が上手く回らないのだ。
そしてそういう不安は、やはり的中するものなのである。
その晩、焼けるような熱さで目が覚めた俺は、胸から生えた黒い日本刀を見ることになる。
これが転生後一度目の最期の記憶だ。
「起きろー。誕生日おめでとう、リョーマ。」
そして俺は今、ニ度目の15歳の誕生日を迎えていた。
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