第1話 出会いの瞬間
蓮はその日もいつものように、無表情で学校の廊下を歩いていた。友達と話すこともなく、ただ黙々と教室に向かう。教室の片隅に座り、授業が始まるまでの時間をぼんやりと過ごすことが彼の日常だった。
しかし、その日は少し違った。学校の文化祭が始まる日だったのだ。クラスメイトたちは朝から浮き足立ち、様々なブースの準備に忙しそうにしていた。蓮は特に興味もなく、いつも通り静かに過ごすつもりでいた。
授業が終わり、文化祭が始まると、クラスメイトたちは楽しそうにあちこちのブースを回り始めた。蓮も誘われたが、最初は断っていた。しかし、しつこく誘う友人に根負けして、しぶしぶ一緒に回ることにした。
「蓮、あそこ見てみろよ!可愛いキャラクターグッズがいっぱいだぞ!」友人が指差した先には、色とりどりのマスコットやキャラクターグッズが並ぶブースがあった。
蓮は最初、興味なさげに見ていたが、一つのマスコットに目が留まった。それは、小さな猫の形をしたぬいぐるみで、その愛らしい顔に自然と引き寄せられた。
「これ、かわいい…」
気づけば、蓮の手はそのマスコットを手に取っていた。触り心地が柔らかく、温かい。心の中に何かが灯るような感覚がした。
「それ、気に入った?」声をかけてきたのは、ブースのスタッフであるクラスメイトの女の子、萌(もえ)だった。
「うん…すごくかわいいと思う。」
蓮の素直な感想に、萌は嬉しそうに微笑んだ。「それ、私が作ったんだ。手作りのぬいぐるみって、作るのも楽しいし、愛着もわくんだよ。」
「君が作ったの?すごいな…」蓮はその言葉に驚きと敬意を感じた。今まで何も興味を持てなかった自分が、こんなに引き込まれるものがあるなんて。
「もしよかったら、これあげるよ。気に入ってくれたみたいだから。」萌は優しく言って、そのマスコットを蓮に差し出した。
「ありがとう…大切にするよ。」
蓮は初めて感じた心の温かさに戸惑いながらも、そのマスコットを受け取った。その日から、蓮の中で「カワイイモノ」に対する興味が芽生え始めた。
毎日の生活が少しずつ色づき始める。蓮は自分もいつか、こんな可愛いものを作りたいと思うようになった。そして、その小さな願いが、彼の新たな目標となる。
こうして、蓮の「カワイイモノ」に満ちた日々が始まった。彼の心は少しずつ変わり始め、日常が輝きを帯びていく。蓮はまだ知らない。この小さなマスコットが、彼の人生を大きく変えることになるのだと。
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