生誕日経典
「筆頭お疲れ様です」
「あー……。田辺ちゃんお疲れっスー。いやー、ホント参ったスねー。あの巨大怪獣派手に暴れすぎなんッスよー。どんだけ事後処理あるんスかね?もう3徹目なんスけど……。田辺ちゃんはちゃんと寝てるッスか?寝ないとダメっすよー」
「寝れたら寝てます。寝る暇なんて無いですけど」
「ホントそれッスね」
「徒労感が半端無いですね」
「そッスねー。ウチの虎の子の禁術部隊を引っ張り出したのに、結局、怪獣ちゃんの討伐は失敗。断片の回収も出来ず、暴れられるだけ暴れられて逃げられて完全ロスト。足取りもサッパリ掴めない……まさにウチの完全敗北ッスよ!笑えるっス!」
「笑い事じゃ無いですけどね」
「笑ってないとやってらんねッスよ!」
「ハハハ……。それもそうですね……」
「舐めてわ訳じゃねーんスけど。やっぱり断片はヤベぇッスね」
「……筆頭。その、『断片』って、私あまり詳しくないんですが。というか、ほぼ名前だけしか知りません。一体なんなんですか?」
「あー、知らないのも無理はないッスね。断片とかそこ関係のモノは国家機密レベルのもんスから」
「こ、国家機密……?」
「そッス。田辺ちゃんなら何れ知ることになるでしょうから今のうちにコッソリ教えておくッスよ!」
「えっ、それ言って大丈夫なんですか?」
「大丈夫ッスよ!言わなきゃバレねッス!」
「適当だなぁ」
「んで、断片って言うのは基本的にはとある魔導書がバラされたモノの1部の事を言うッスね」
「とある魔導書?」
「世界最古の魔導書『マスター・オブ・バースデー』日本語だと『生誕日経典』って言われるモノっす」
「聞いたことないですね」
「それも当然ッス。マジモンのトップシークレットなんで。んで、生誕日経典の説明をするとクソ長くなるんで簡単に説明すると、この魔導書は生命が誕生する以前に書かれたものと言われてるッス」
「生命が誕生する以前?いや生物が居ないのに誰がどうやって魔導書が書いたんですか?矛盾してません?」
「そこは不明ッス。不明なんスけど案外答えは簡単スよ。まだ生命が存在していない世界で誰がそれを出来るのか。そんなの1人しか居ないじゃないッスか」
「誰も居ない世界に存在する存在…………」
明らかに矛盾している話。
だがその矛盾を解決する存在が一つだけある。
田辺はそれに思い至って口にする。
「まさか……神様?」
「大正解ッス。まあ、憶測でしかないんスけど。神様またはそれっぽい、それに近しい存在が書いたもので間違いないだろうってのが学者さん達の見解ッスね」
「はぁ……。神様が書いた魔導書、ですか」
「神様はこの魔導書を書き記し、そしてこの魔導書の力で生命を産んだとされてるッス。生誕日経典は上下巻の2巻構成になってまして上巻には肉体に関する全ての記述。下巻には魂に関する全ての記述が記載されてるッス」
「肉体と魂……。上巻の力で肉体を作って、下巻の力で作った肉体に魂を与えた、と言うところでしょうか?」
「そういう訳ッス。これで田辺ちゃんならこの魔導書のヤバさが理解出来ると思うんスけど、どうッスか?」
「そうですね……。つまり、それがあれば神の権能を扱えるということですね?上巻であれば生物の肉体を思うままに出来て、下巻であれば魂を好きなように出来ると……」
「まさにその通りッス。だからこそ生誕日経典はトップシークレットで、それを知るものは誰も彼もが血眼になってそれを探し求めている訳ッスわー。ぶっちゃけコレがアレば多分なんでも出来るッスよ。巨大怪獣に変身するなんて序の口ッス」
「なるほど……」
「それで、その生誕日経典の所在なんスけど。上巻はバラされて世界中に散らばってッス。んで、その断片がひょっこり出てきてバカ騒ぎになったのが今回の怪獣騒動の顛末ッスよ」
「断片でこの被害ですか……。本当にとんでもない代物ですね」
田辺は半壊した街並みを頭に思い浮かべる。
局の職員が一丸となって総力戦を挑むも、まったく歯が立たず、巨大怪獣の進行を止めることは出来なかった。
気まぐれか何なのか、怪獣は姿を消したが、あのまま暴れ続けられたら街ひとつ簡単に瓦礫の山となり、それで留まることなく他の街まで破壊され尽くされたことだろう。
これが烏丸の言う世界最古の魔導書にして神が記載したとする生誕日経典の権能ーーその断片。力の一端なのだということに恐怖を隠しきれない。身震いがする。
「ちなみに下巻は?」
「下巻の方は消滅したと言われてまスね。何処ぞの高尚な魔道士がコイツの危険性を考えて命懸けで処分したらしいッス。魂を自由に操れるとなればワンチャン人類滅びまスからね。まあ、下巻の完品があっても同じようなもんスけど。バラバラになってるだけマシっす。いやマシじゃないッスけど。核爆弾の方がまだマシっすよ」
「確かに……」
「はぁ……。結構、話し込んだッスねー。そろそろ仕事戻らないとダメッスかねー」
「確かに……」
「まだまだヤルこと山のようにあるッスよー」
「確かに……」
「「はぁ……」」
烏丸と田辺のため息が重なった。
その時、2人がいた事務室に部下の1人が血相を変えて飛び込んできた。
見るからにただ事では無い様子。
その様子にまた厄介事が舞い込んできたのかと烏丸は頭が痛くなった。
「筆頭、大変です!」
「どうしたッスか?」
「海岸沿いで例の巨大怪獣の目撃情報がッ!」
「コイツは特大の厄介事ッスねー。自分が先行しまスんでみんな後から着いてきてくださいッスー」
言うや否や烏丸は窓から飛び出て、背中から生えているカラスのような黒い羽を広げた。
次から次へと舞い込む厄介事に辟易としながら烏丸は怪獣の目撃情報があったと言う海岸目指して超特急で飛翔する。
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