天狗3





「仕事終わったでスし蓬くんに連絡するッスよー!『お姉ちゃんは今日もお仕事頑張ったッス!蓬くんは今日は何してたッスか?』と、こんな感じッスかね?でへへっ」




…………。




…………。




…………。




「……返信無いッスね。既読もつかないッス……なんかあったんスかね?いやちょっと忙しいだけスかね……?」




翌日。




「………………………………………………………………………………………………………………返信無いッス」




あ、あれぇ……?




「や、やっぱりなんかあったんじゃ……?で、電話して、みるッス!」




『お客様のおかけになった電話番号は現在使われておりません』




「えっ?えっ?えっ?アレアレアレ?こ、これ、これれれ、これ、どどど、どういうこと……ッスか?なんでなんでなんで?」




い、意味が分からないッス……。




「やっぱり蓬くんの身に何かあったんッスよ!なにか事件に巻き込まれたとか!探すしかないっス!こちとら国でもトップの諜報機関ッスよ!一般人男性の所在なんて職権乱用で簡単に見つけられるッス!待ってて下さい蓬くん!今、お姉ちゃんが助けに行くッスよ!」




…………。




…………。




…………。




「……蓬くんが……み、見つからないッス。そんな馬鹿なことあるんスか?有り得ないッス……これまるで最初から存在して無かったみたいじゃないッスか……。えっ、ホントに、蓬くん何者だったんスか……。まさか自分が見た幻だったとか……そんな……」




PPPPPPPPPPPPPPPe。




「着信!?蓬くんッスか!?」


『やっと出た……!筆頭!連絡もよこさないで何処で何をやってるんですか!?無断欠勤ですよ!』


「あっ……。田辺ちゃんッスか……」


『あっ、じゃないんですよ!それで!何をやってるんですか!?』


「蓬くんが……蓬くんが……」


『……蓬くん???あっ、例のナンパ男ですか?それがどうしたんですか?』


「蓬くん……蓬くん……」


『…………とりあえず職場に来られますか?』




…………。




…………。




…………。




「やっぱり騙されたんですよ」


「そんなことないッス!蓬くんはそんな事しないっス!」


「未読無視に教えてもらった電話番号は使われてなくて連絡はとれない。どう考えても騙されたとしか思えませんね」


「ウソっすよ……。そんなわけないッス。蓬くんが自分を騙すわけないじゃないッスか」


「それに筆頭が探して見つからない人間なんてこの国に居ないでしょう?それってそもそも、その蓬くんって男が存在していないってことじゃないですか?」


「そ、それは……」


「幻覚か、幻術か、その類のモノにかけられた可能性の方が高いと思います」


「それはないッス。自分が幻術を現実と誤認するなんてそんなヘマしないッスよ」


「こう見えて優秀だからなあ、この人……説得力があるんだよなぁ」


「蓬くんは確かに実在したッス!」


「でも見つからないんですよね?」


「…………」


「不可解な点はありますけど……もう、ひと夏の思い出だったって事で割り切りましょう?」


「そんな……そんな……」


「…………」


「…………」


「筆頭」


「うっ……ううっ……うわぁぁあんッッッ……!」




…………。




…………。




…………。




烏丸旋風は変わってしまった。


底抜けに明るくお調子者で、でも何処か憎めない人だった。


それが、今では見る影もない。


心ここに在らずと言った具合で、いつもブツブツとうわ言のように「蓬くん蓬くん」と呟いている。


例の1件が相当足を引き摺っているようだ。たった一晩でそこまで入れ込むものだろうか?と疑問に思うところはある。


不可解な点はあるが、どうすることも出来なかった。




…………。




…………。




…………。




「妊娠したッス」


「…………えっ」


「蓬くんの子供を妊娠したッス」


「何を言ってるんですか筆頭……アレから半年たってるんですよ?」


「自分と蓬くんの子供ッス」


「だから……」


「うひっ、ひひひひひっ!やっぱり蓬くんはちゃんと居たんスよ!」


「ひ、筆頭……?」


「あー!やっぱり赤ちゃんにはお母さんとお父さんが必要悪ッスよね!そうッスよ!そうッスよ!ひひひひひっ!」


「お、落ち着いて下さい!もう半年たってるんですよ!?妊娠してる訳がないじゃないですか!」


「そうッスよね。お父さんも一緒がいいっすよね!大丈夫っス!安心するッスよ!お母さんがちゃんとお父さんのこと見つけてあげるっすからね!ウヒヒッ」


「ちょ、ちょっと待って下さい!何処に行くつもりですか!?」


「邪魔をするなぁッッッ!!!」


「…………ッ!」


「あっ、ゴメンッす。ゴメンッす。大きな声出したからビックリしちゃったッスねー。大丈夫っスよ。お母さんは別に怒ってる訳じゃないッスよー。お父さんも直ぐに見つかりまスからね。安心して生まれて来るッスよー。ウヒヒッ、ウヒヒッ!」


「ひ、筆頭……」




慈愛に満ちた表示で自分の腹を優しく撫でながら、烏丸旋風は行方をくらませた。





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