赤鬼(前編)
「何か用か?大した用も無いのなら話しかけないでくれ」
冷たい言葉で他者を拒絶する彼女はまるで狂犬の様である。
夏真っ盛り。早いものであと一週間もすれば夏休みになる。
来る夏休みに思いを馳せて校内は浮ついた雰囲気が蔓延している。かくいう俺も「夏休みになったら朝から晩までヤリたい放題だぜ!」と浮かれている。
「俺と付き合ってください!」
「無理」
そんな中、偶然にも俺は我が校でも割と有名な黒髪ポニテの美少女ーー
廊下で公開告白とはやるな。名も無き男子生徒くん。ご首相様。
鬼道彩世。
俺と同じ2年生。黒髪ポニーテールで凛としていて、近寄り難い雰囲気を纏うTheクールビューティーとして有名だ。その端正な顔面に絆されて告白突撃した男子は数しれず。鬼道はその全てを「無理」「気色悪い」「臭い」「汚い」キッつい物言いと共に返り討ちにし屍の山を築いている。
そんなんなのだが1部界隈では大人気。彩世様のキツく容赦のない言動ではご褒美です!なんて変態紳士が集まる彩世教なる変態宗教もあるとか、なんとか。気持ちはわからんでもない。
現に鬼道にフラれた男子生徒は膝から崩れ落ちているのに恍惚とした表情を浮かべていた。おそらく彩世教の信者であろう。
俺としても鬼道のことは少し気になっていたりする。
俺が気になるということは、つまりはそういうこと。
俺のわりと信頼性のある第六感が鬼道には人ならざるモノが混ざっていると告げていた。
そんなこともあるので俺はたまに鬼道のことをストーキングしていたりもする。
ふむ。今日はーーアレを持ってきてるみたいだ。
鬼道はたまに帰宅部の癖して竹刀袋を肩に担いで登校してくることがある。その時は決まって帰り道に寄り道をする。
今日は寄り道の日か……よし。後付けたろ!
というわけで俺はその日の放課後、鬼道のストーカーとなった。
◇
夕暮れ。カッコよく言うと逢魔時。
茜色に染まった駅前商店街。この時間帯なら人で賑わっているはずなのだが、今は不気味な程にまったく人気が無い。異様な光景だ。
「貴様ら、何者だ」
道の真ん中に陣取り竹刀袋から取り出した日本刀を抜いて構える鬼道。
それに相対するのは市松人形を頭に乗せたピカピカ金属等身大メイドフィギュア。
うん。アレ、我が家の怨霊とメタルメイドだね。
「粛聖機関所属。個体識別548」
「機関の手のモノか。その機関のモノがそんなモノを連れて、ここで何をしている?」
「食材補給」
そういえば548ちゃんには買い出しを頼んでいた。
基本的に天使ちゃんはポンコツだし、デカイのはまともに喋れんし、触手ちゃんは触手だし、雪女ちゃんは外に出ないから消去法で買い出しはメタルメイドに頼むことにしている。
そのオマケで着いてきていた怨霊ちゃんが着いてきて、なんかに引っかかったのだろう。
しかし、怨霊ちゃんを そんなモノ 扱いはちょっと酷くなーい?怨霊ちゃん可愛いよ?ほら今も初対面の人が急に話しかけて来たからビックリしてブルブル震えながら呪詛が漏れ出てきてる。怨霊ちゃんったらヤダーお漏らししちゃったねえ?(ニチャァ)。キモッ。
「くっ、なんて禍々しい気配だッ……!おい貴様!それを置いて早く立ち去れ!さもなくば貴様諸共切り伏せるぞ!」
「了承」
「…………ッ!」
メタルメイドは頭に乗せていた怨霊ちゃんを地面に置いて買い出しに戻って行った。
なんたる薄情なヤツ。オマエそれでも血の通った人間か!いや、血も流れてないし人間でも無いけど。
こうして怨霊ちゃんVS鬼道の人外バトルが勃発。
そして、決着。
「くっ、殺すなら殺せッ!」
胴長多腕のブリッジバトルモードに変異した怨霊ちゃんに鬼道はあっさりくっ殺した。怨霊ちゃんの複数の腕で四肢を掴まれて拘束されている。なんか女騎士みたいなこと言ってる。まあ、女剣士っていうか女サムライっていうか。
ふう。助けに入ってあげようか。
怨霊ちゃんにはもう人を殺めて欲しくは無いし、鬼道に死なれても目覚めが悪いし。
と。俺が助けに入ろうとした時だった。
「かくなる上は封印を解くしかないか……!出来れば使いたくなかったが背に腹はかえられぬ!」
鬼道を中心として周囲に濃密な妖力が解き放たれた。
堪らず怨霊ちゃんは鬼道を手放して後ずさる。
「ぐがぁぁあああアアアアアアッッッーーー!!!」
咆哮と共に鬼道の身体が膨れ上がっていく。肥大化する肉体はセーラー服を内側から破り捨てお肌け。シャッターチャンスか!
肌の色は赤く変色して行き、口からキバを生やし、額からは固くて太くて大っきい一本角が顕現する。
鬼道が姿を変えたその見た目は紛うことなき赤鬼であった。
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