雪女
コンビニでアイス買おうとしたら冷蔵ケースの中で和服美女が寝てた。
夏である。最近とてもクソ暑いのである。
汗だくになって肉体と肉体をぶつけ合い、汗だかなんだか色んな液体に塗れてグチャグチャになりながら熱くなろうぜ!して、暑くなるのは大変好きではあるけれど、こうして単純に気温と湿度が高く暑いのはシンプル不快である。
クソ田舎の我が家だと風通しは抜群で割と涼しくはあるのだが、学校からの帰り道は地獄だ。炎天下。猛烈な夏の陽射しを浴びながら長時間歩かされる。家が遠いんじゃ。
早く帰って先日鹵獲したメタルメイドのヒンヤリ金属ボディに密着して涼をとりたい。アレ冷たくて気持ちいいんだよね。まあ、密着して気持ちいいと身体の一部分が非常に熱くなってしまうから最終的に全身汗だくになってしまうのだが。その暑さは許容範囲内である。
結局、俺は暑さに我慢できなくなってコンビニに寄った。店内はクーラーが効いてて、とても涼しい。しばらく涼んでから帰ろう。
ついでにみんなにアイスでも買って帰ろうか。やっぱり夏といえばアイス。冬でもコタツでアイス。年がら年中アイス。アイスは世界を救う(?)。
コンビニのアイスコーナーに向かう。
で。
横スライド式ケースのアイスケースの中を覗き込むと、そこには白い和服の美女が入っていた。というか寝ている。健やかに寝ている。アイスを敷布団にして寝ている。
……バカッターかな?
写メとってSNSに投稿したら炎上待ったナシの光景。これは非常に不味いですよ。
見なかったことにしようかと思った。
でも、待とう。ちょっと冷静になって考えてみよう。
アイスケースの中は店の売り物が陳列されている場所である。
ならば、アイスケースの中のものはコンビニが販売している商品だ。
ということは、この和服美女はコンビニの売り物ではないのだろうか?
つまり……。
『冷凍和服美女ダッチワイフはじめました!暑い夏にはこれ! 《新感覚》 ひんやりクールボディで未知の快感を味わおう!』ってコトぉ?なんだよソレ最高かよ。やるな、このコンビニ。イキな商品入荷するじゃん。そんな即買いだわ。買います!買いマーース!
俺はアイスケースの中から和服美女を引きずり出してレジに向かった。
「すいません。これください」
「あの……お客様……。その、えっと……ど、どういうことでしょうか……?」
「…………??? もしかしてこれ売り物じゃないんですか?」
「当店で人身売買はしてないのですけど……」
「それじゃ勝手に持って帰って大丈夫?」
「はい。そうですね。そちらの方は……当店とは全く関係ありませんので、問題ないかと……?」
「ありがとうございマース!」
非売品ってわけね。まあ、店内で飾られてるポスターとかそんな扱いなんだろう。店員には凄く不審な顔をされたが、持って帰っていいと言われたので、有難く持って帰らせてもらおう。ラッキー。
そうして、俺はまだ眠り続けている冷凍和服美女を自宅に持って帰った。
◇
ーー名前は?
「雪女の雪華と申します。……あの、ここは何処でしょう?」
ーーどこから来たの?
「北国からやって参りました。この辺りは北国にと違いとても暑いですね。涼しい場所を探して居たら、丁度いいところを見つけて休んでいたのですが……どうやら寝てしまっていたようですね」
ーー何しに来たの?
「実は……家同士が取り決めた婚姻が嫌で逃げ出してきたのです。会ったこともない相手との突然の婚姻話。聞けば相手は四十過ぎの悪い噂の耐えない好色漢だとか。おそらく金にモノを言わせた婚姻話だったと思われます。私の家は貧しく断れなかったのかと……その話が嫌で遠路はるばるこの地へ逃げて参りました」
ーー無理矢理、結婚させられそうになったんだ?
「そうなんです。私はいつか迎えに来てくれる素敵な殿方にこの身を捧げると決めております。ですので日夜、部屋に篭もり研鑽を積んでまいりました。だのに両親は「外に出ろ」だの「働け」だの「ネトゲをヤメロ」だの「結婚して家を出てけ」だの理不尽な事ばかり申します……そして此度の強制婚姻。本当に酷い話です。」
ーー穀潰し腐れヒキニートかよ。歳……いくつ?
「今年で数えて39になります」
ーーこれまで働いた経験は?
「女は家を守り、男に養ってもらうものです。働く気はありません」
ーーこれまでの男性経験は?
「ありません。婚前交渉はご法度です。一生を添い遂げる素敵な殿方と致すまで清らかな身体を貫く所存です」
ーー恋人は居る?
「お、おりません……が!いずれ運命の殿方が私に会いに来てくれます!」
ーーそういうことには興味はある?
「無いことも……無いですね」
ーーどんなことするか分かってる?
「そ、そうですね……ち、知識としてはありますよ?ネットで詳しく調べましたので!いざ致す時に手間取っては殿方を萎えさせてしまいますので!ちゃんと理解しております!特に問題はありません!むしろ私の手練手管で殿方を骨抜きにしてしまうのは間違いありませんね!」
ーー試してみよっか?
「…………ッ!?!!」
ーーよいではないか。よいではないか。
「あっ、おやめになってくださいッ……!こんなっ……!アッー……!いけません!いけませーんッ!」
◇
と、言うわけで。
ギリ三十路穀潰し腐れヒキニート冷凍和服美人ダッチワイフ雪女に現代社会の厳しさというものを、その身体に叩き込んでやった。
「責任をとって頂きます!3食夜食おやつネット回線付きの生活と婚姻を所望します!」
「いや。俺、結婚出来る歳じゃないし」
「そんな!?まさか私と倍近く歳離れてるんですか!?」
高校二年生だしね。まあ諸事情で設定的には20歳以上で成人してはいるけど。
こうして新たに雪女が住み着くことになった。
〜おまけ〜
「ボクは天使のシアリース!」
「未知の生体反応を感知。スキャン実行。エラー。エラー。エラー」
「ぽ」
「周辺異常検知。原因不明。認知機能障害発生。原因不明」
「アンタの肌、凄いわね。硬いのかと思ったら案外柔らかいのにやっぱり硬いという新食感」
「未確認生命体検知。意味不明。意味不明」
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