第4話 思い出、そして故国の事
今でも
父も母も国の事を滅多に口にしない。周囲の大人たちの話をつなぎ合わせれば、私の祖父は
幼少時の思い出で、割合にはっきりしているのは、波と風に怯える狭い船室か。荒れる海の上で
海の記憶はこの程度だ。後に得た知識によれば、百済の最南端の島を出て、倭国の対馬に向かい、更に先の筑紫という大きな島の港に着く。人々は訛りの強い倭国の言葉を話すが、百済語に堪能な者も多い。風を待って
少し高くなだらかに伸びる大地の上に、奇妙な形の多重の塔が見える。これは後に訪れた
大使の屋敷は難波にある。少しの間、家族で難波で過ごした。私たちはここが気に入っていた。しかし、都にいる
峠を越えると、曲がりくねって下る道の先に、徐々に視界が開けて行く。そして
こうして記憶の大半は、倭国に来てから蓄えられた。故国をほとんど知らない私に、ここが故郷となる。この後も一介の貴族、もしくは皇族の末端として暮らしてゆくと信じている。
父は大使として倭国に来たが、言葉にはやはり不自由している。それでも積極的に、さまざまな人と交わり友好を結ぶ。すぐに倭国語を覚えた私は、程なく
しかし、母はそれが気に入らないようだった。難波にいた頃には、父母が子供の前で言い争うような事はなかった。大和に来てからは些細な喧嘩が増えた。自らの祖国を母は嫌っているのか。大和に来てから何年もしない内に妹が死んだ。それ以来、母は気鬱の病に塞ぐようになった。
母が百済王室に嫁したのは、あの
上宮太子は中原を統一した
倭国では三世、四世程度の皇族から、異国に嫁す
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