第6話 アナスターシアの最期

 ハーランド第二王子とローズリンが地下牢を去った後、アナスターシアは抜け殻のように床にへたりこむ。明け方、刑の執行前にマッキンタイヤー公爵が姿を現した。


「アナスターシア。毒杯を飲む際はこの花びらを口に含みなさい。一瞬で命が絶てるから、長く苦しまずにすむ。アナスターシアにしてやれるのがこれぐらいしかないとは情けない。だが、怖がらなくていい。私もすぐにアナスターシアの後を追う。ユーフェミア様やバイオレッタにアナスターシアを守れなかったことを謝りに行かねばならん」

「伯父様、ごめんなさい。私がもう少し賢かったらこんなことにはならなかったのよ。伯父様の言うように、もっと真面目に生きていたら、ハーランドなんかに利用されないですんだのに。ローズリンにもサリナにも気を許してはいけなかったのよ。楽な生き方ばかりを追い求めてしまった私のせいだわ」

「自分の過ちに気づけたことは良いことだ。一緒に天国で幸せに暮らそう」

 マッキンタイヤー公爵の気持ちはすでに決まっていた。

(可愛い姪を死なせて、自分だけがなぜのうのうと生きていられようか?)

 彼はそう思っていたのだった。


「やはり、自害なさるおつもりですか? だったら、僕の手柄に一役買ってくださいよ。マッキンタイヤー公爵は愛する姪を逃そうとした。大犯罪人の逃亡を阻止した僕は英雄になれる。あっは! 英雄を殺して英雄になれるなんて面白いですよね?」 

 ハーランド第二王子が上機嫌でマッキンタイヤー公爵の背後に立っていた。


 彼は自分の専属騎士たちにマッキンタイヤー公爵を囲ませ、鋭い剣を四方から突き立てさせた。右腕を失ったマッキンタイヤー公爵は咄嗟のことで応戦もできず、その場に倒れ込んだ。

「愚かな姪を守ろうとするなんて滑稽だな」

 あざ笑うハーランド第二王子は、絶命したマッキンタイヤー公爵の身体を乱暴に蹴り、アナスターシアの手から花びらを奪い取った。


「こんなもので楽に死のうなんて甘いよ。君はさんざん我が儘をし放題だったのだから、そのツケを払わなきゃいけない。遅効性の毒杯でゆっくり内臓が侵されていく苦しみを味わうのだよ。僕はね、人が苦しみながら死ぬのを見るのが大好きだ。兄上は銃一発で死んじまったから、とても残念だったよ」

「今まで優しいふりをしていただけだったのね? 本性は薄汚い卑怯者だわ」

「なんとでも言えよ。所詮は負け犬の遠吠えさ。アナスターシア、君は人生というゲームに負けたのさ」


☆彡 ★彡


 

 死刑執行の場は王都で一番大きな広場であった。その場にはたくさんの物見高い見物人が溢れていた。

「悪女め! 早く毒を飲みやがれーー」

「カラハン王子殿下がお気の毒だわ。あんな女に殺されただなんて」

「毒婦め、地獄に墜ちろ。マッキンタイヤー公爵はアナスターシアを逃がそうとして斬られたらしい。英雄だったのに、姪可愛さに判断を誤ったな。ハーランド様が発見してくれて良かったよなぁーー」

 ハーランド第二王子の大嘘を信じた民たちが、見当違いの意見を言い合うなかで、アナスターシアはひたすら後悔し続けた。


「伯父様、ごめんなさい。私がバカだった。もし、やり直せるなら今度は絶対ハーランドたちには騙されないわ。伯父様の言うことを聞いて、絶対陥れられたりしないのに」

 アナスターシアは毒杯を手に取り、口にゆっくりと近づけた。杯の端に唇がついた途端、アナスターシアの指輪のオパールが七色に光った。その光はアナスターシアもハーランド第二王子も、周りで見物していた全ての者をも覆い尽くし・・・・・・

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