第12話 デビュー戦

 「依頼書によるとこの先の森でゴブリンの目撃情報が多いネ。」


 畑や平原の広がる街道を進んで行くと森の中へと繋がっている。どうやらこの森の中でゴブリンが出没しているらしい。


 「森の中……」


 森の中では当然だが死角が多い。木々に隠れたゴブリンが獲物を待ち伏せしている可能性は高いだろう。


 「さて、イクト。森の中で敵を探るのには?」

 「はい。気配察知です。」

 「正解ネ。けどこれは森の中だけじゃない。常に行えるようになるヨ。敵はいつどこで現れるか分からないからネ。」

 「なるほど。常に気配察知を、と。」


 イクトは神経を研ぎ澄まし辺りの気配を探る。しかし周りにはこれといった危険な気配は感じない。


 「どうネ?」

 「はい、周りに危険な気配はありません。」

 「そうカ。ならそのまま気配察知をしたまま移動するヨ。」

 「はい……」


 「うおっと!」


 少し歩いた所でイクトが小石に躓き転びそうになる。


 「気配察知に集中し過ぎると危ないネ。」

 「けど集中しないと出来ません。」

 「そこは鍛練ネ。無意識で気配を探れるようにならないと駄目ネ。」


 ヤオさんはああ言うがこれはかなり難易度が高いぞ。高等魔術師が使うような平行思考のような技術が必要なのでは?


 「まだイクトには難しいネ。けれどこれは今後の課題ヨ。」

 「分かりました。」


 確かにこれが出来れば奇襲を防げる。冒険者としてこれはかなりのアドバンテージになる筈だ。


 「あ!気配が……3つ。」

 「距離と方向は判るアルか?」

 「方向はこのまま真っ直ぐ街道沿いに道の脇に逸れて右に1、左に2。ここから30メートルくらいです。」

 「OK、とりあえずは合格ネ。このゴブリンの近くに他の個体はいないからまずはこれを倒すヨ。」

 「はい!」

 「さあ、イクト。君の討伐デビュー。私は極力手出ししないヨ。しっかり見させてもらうネ。」



 ◇◇◇イクトside◇◇◇

 ゴブリンが潜んでいる場所は判る。問題はこれにどう対処するかだ。奴らはきっとこのまま街道を歩いて行けば道の両脇から飛び出して挟撃にするつもりだろう。

 戦闘の理想は1対1だ。しかし相手は3体。それならば避けるべきなのは挟撃される事。すなわち


 街道を歩いて行くとゴブリンが飛び出して来た。


 「まずは1体!」


 腰にさした剣を抜きざまに切り上げ右の1体を切りつける。まるで抵抗もなくゴブリンの体が腰から左肩にかけて切断された。

 その勢いのままに回転をし左のゴブリンへと向き直るとゴブリンは予想外の出来事に慌てふためいていた。


 「チャンスだ!」


 イクトは手前のゴブリンへ踏み込みそのまま剣をゴブリンの胸に突き刺すとそのゴブリンをもう1体のゴブリンへと蹴った。

 倒れてくるゴブリンに対してもう1体のゴブリンはそれを受け止める事しか出来ない。 


 「とりゃあ!」


 気合い一閃、イクトは横凪ぎに剣を振り2体のゴブリンを両断した。


 「凄いネ。」

 「え?」

 「とても初討伐とは思えないヨ。」

 「本当ですか!ヤオさんにそう言ってもらえて嬉しいです。」

 「それにしてもその剣……」

 「これですか?」


 イクトは剣を掲げて見せた。


 「かなりの業物ネ。私は武器に詳しくないけどそれでも分かるくらいに凄い物ネ。」

 「分かります?これは幼馴染みから冒険者になった祝いとして貰ったんですよ。」

 「最初の抜刀しながらの攻撃。あんな切り方でゴブリンを切断できないヨ。私は良くて腕の切断で終わると思ったヨ。」

 「そうですね。この剣だから出来たのは判っています。」


 生き物の骨は硬い。それをいとも簡単に切断出来る。それはイクトの持つ剣の性能の高さを物語っていた。 


 「その剣はもしかしたら宝物トレジャー級の武器かもしれないヨ。」

 「レア度は教えてくれなかったので分かりませんが、やっぱりかなりの物ですよね?僕が持つには分不相応かなと思うんですよね。」

 「そんな事はないネ。武器や防具は良い物に越したことはナイ。良い物を持っていて助かかったって話はよく聞くヨ。けれどケチって痛い目をみた奴は何度も見たネ。」

 「そうなんですね。」

 「気をつけるのは人のみヨ。妬んで奪おうとしたりするネ。そういうしょーもない人間は痛い目にあえばいいネ。」 


 そう言ってヤオは頬を膨らませる。

……何か嫌な事でもあったのだろうか?


 「さて、イクト。早く討伐証明部位を剥ぎ取るネ。」

 「あ、はい。」


 ゴブリンの討伐証明部位は耳だ。それを3体分。手早く切り取り袋へ入れる。


 「これで討伐依頼は完了ですね。」

 「そうネ。けど、最低数を達成しただけヨ。まだまだヤるアル。」

 「え?」

 「……ゴブリンの集落を発見した者には速やかにギルドへ報告。又は集落の駆除が義務とされているネ。」

 「はい、そうですね。え?何で今そんな話しを……」

 「ここから奥に300メートル程先に小さいけど集落があるネ。」

 「300メートル!?」


 僕がさっきのゴブリンを発見したのは30メートル。その10倍の距離の気配をヤオさんは察知しているのか……


 「イクトが居るし無理はしないつもりだったケド……イクトの実力とその剣があれば討伐は可能ヨ。」

 「え?僕がやるんですか?」

 「大丈夫ヨ。私も手伝うネ。たかだが100匹程度の集落ヨ。気配からしてホブゴブリンまででジェネラルやキングは居ないから大丈夫ヨ。」

 「え?え?」

 「それにイクト、さっきの戦いで気は使ってなかったアル。まだまだ余力を残してるネ。それにいざ危なくなったら助けに入るから安心して良いネ。」

 「いや、それって実質僕1人でって事じゃ?」 

 「それまでは逃げる個体は私が退治するネ。コイツらは1匹逃がすとすぐに増えるからネ。」

 「そんなGみたいな事言ってないで。」

 「私が取り逃しのないように周りを見てるから安心して戦いに集中するアル。」

 「ああ!やっぱり僕1人で相手しろと!?僕は今日が初の討伐なんですよ?」

 「大丈夫、大丈夫。心配ナイ。その剣ならゴブリンくらい幾ら切っても平気だと思うネ。」

 「武器の心配をしてるんじゃなくてですね……」


 ゴブリン2匹をまるでバターでも切るかのように一撃で両断した。これをイクトへ渡した人物はかなりの大物である可能性が高いネ。イクトへの先行投資と考えられるヨ。このままイクトと居れば良いか悪いかはさておき大きな流れになるのは間違いないネ。楽しみアルヨ。

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