第11話 初めての討伐依頼

 ◇◇◇イクトside◇◇◇

 朝早くに目が覚めた。理由は分かっている。外に出ると草花が朝露に濡れ太陽はまだ少し顔を出した程度だ。


 「ちょっと体を動かそうかな。」


 軽く辺りを走る。早朝の空気が心地よい。その空気とは裏腹にイクトの心は昂っていた。


 「あー、もっと体を動かしたいけど、それで疲れる訳にもいかないよな……」


 今日はギルドで討伐依頼を受ける。教官であるヤオが同行するとはいえ初めての討伐依頼だ。その事に興奮し早くに目覚めたのだ。


 「もうギルドへ行ってみようかな?いや、でも早すぎるよな……」



 ◇◇◇ヤオside◇◇◇

 「目が覚めたネ。」


 窓の外を見ると日が昇り始めた所。いつもならば絶対に寝ていて起きない時間である。2度寝をしようと布団を被るが気持ちが昂って眠れない。


 「こんな事は始めてネ。」


 頭の中ではイクトの討伐依頼で何を受けるか?何処へ向かおうか?と色々考えている。その考えがヤオの眠りを妨げていた。


 「私が初めて討伐依頼を受けた時でもこんな事はなかったヨ。」


 教官として初めてまともに弟子と呼べる相手の初の討伐依頼だからか?それがこんな気持ちにさせるのだろうか?分からない、分からないが


 「ちょっと体でも動かすネ。」


 そう言うと外へ出る為に着替え始めたのであった。



 ◇◇◇ユイナside◇◇◇

 「あ、日が明けてきた。」


 ユイナは昨晩から眠る事が出来ずにいた。


 「いよいよね……」


 イクトの初討伐依頼を考えると目が冴えて眠る事が出来ないでいたのだ。 


 「心配だわ。」


 自分が着いて行く事は出来ない。それが出来ればどんなに気が楽だろうか。ファナに護衛を頼んである。何も問題となる事などは起きないであろう。そうは思うのだが


 「やっぱり心配だよー。」


 私にも出来る事は何かないだろうか?


 「そうだ!お弁当。お弁当を作って持って行くのはどうかな?そうすればイクトにも会えるし。」


 今から急いで作れば間に合うはず。徹夜しておかしくなったテンションでユイナはそれを実行に移した。



 ◇◇◇◇◇◇

 「イクト!」


 息を切らしてユイナが走って来た。


 「ユイナ!こんな朝早くに大丈夫?」


 イクトはギルドへ向かおうと部屋から出ていた。


 「間に合ったみたいね。良かった。」


 ハアハアと肩で息をしながらユイナはイクトへ手に持っていた荷物を渡した。


 「これ、お弁当。教官の人と食べて。」

 「え!良いの?」

 「うん。イクトの初めての討伐依頼。私も何かしたくて。

 「ありがとう。嬉しいよ。」


 そう言って笑顔を見せるイクト。その笑顔が眩しい。それだけで作って来た甲斐があるってものだ。


 「頑張ってね。」

 「うん。頑張るよ。それじゃ行くね。」

 「いってらっしゃい。私も直ぐに戻らなきゃ。」

 「ユイナも頑張って。」


 そう言うとイクトはユイナのオデコにキスをした。


 「ありがとうね。」


 笑顔で手を振りイクトはギルドへ向けて歩いて行った。その様子を顔を真っ赤にしながら見送るユイナであった。


 その頃ギルドでは


 「遅いネ。」


 ヤオが椅子に座りながら不貞腐れていた。


 「ヤオさんが早くに来すぎなんですよ。」


 それにティーダが反論する。


 「そうカ?」

 「そうですよ。私は今日早番でしたけど私よりも前に来てたじゃないですか。」

 「それは……そうネ。」

 「だいたい今日はこっちに来てどうしたんですか?」

 「訓練生に討伐依頼で実戦経験さすヨ。」

 「え?」

 「そんな不思議がる事カ?」

 「あー、いえ、私がギルドに入ってから初なんで。」

 「それはそうかもネ。教官にメリットはほぼ無いからネ。」

 「ですよねー。それをするなんて驚きです。」

 「私の所は訓練生来ない。ちょっとでも実力をつけさせて有名なってもらうネ。」

 「なるほど。気の長い話しですね。」

 「そうカ?」

 「訓練生が有名になる位となる何年先になるか分かりませんよ?」

 「確かにネ。けどあの子ならイケそうな気がするヨ。」

 「何でしょう名前の子ですか?」


 するとそこへ


 「ヤオさん!おはようございます。」

 「遅かったネ。待っていたヨ!」

 

 イクトがやって来た。


 「そんなに遅いですか?」


 ギルド職員がちらほらと出勤して来ているだけで冒険者の姿はイクト以外には居ない。かなり早いと言えるであろう。


 「そうヨ。訓練生だからもっと早くに来るべき。」


 そうじゃないと私が楽しみで早く来すぎたみたいじゃないか。


 「すいません。これでも早くに来たつもりだったのですが、もっと早くですね。分かりました。」


 そう言って謝るイクトだが


 「駄目よイクト君。ヤオの言う事を真に受けちゃ。」


 それをティーが止める。


 「あ、おはようございます。ティーさん。」

 「おはよう。ヤオが勝手に言ってるだけだから。あまり早くに来られるとギルドも困るからね。だからヤオも無茶振りしないの。」

 「う……」


 正論を言われ返す言葉もない。


 「それにしてもヤオの待っていた訓練生がイクト君とはね。」


 イクト君ならば確かにユイナの件もあって早くに有名になる可能性はある。そんな事は知らないであろうヤオがイクト君に目をつけていたのには驚きだ。


 「え?ティーもイクトの事知ってるネ?」

 「知っているも何も私がイクト君の担当よ。」

 「ティーが担当!?そうだったのネ。それなら話しは早いネ。イクトに討伐依頼を受けさすからお勧め出すネ。」

 「訓練での討伐ね。そうね……最初はやっぱりスライムかしら?」

 「スライムは却下。ゴブリンが良いネ。」

 「ゴブリン!?」


 ギルドとしては最初はスライムの討伐を受けて欲しい。けれどそれを嫌がりゴブリン退治に行った初心者に事故が多いのはギルドの常識だ。


 「最初はスライムよ。」

 「駄目アル。スライムなら1人で行けばいいネ。人型の相手が望ましいヨ。」

 「人型……。」


 ヤオが教えるのは格闘術。格闘術は元々は対人を想定して編み出された武術と聞く。


 「確かに格闘術として考えれば人型が良いか……」

 「ん?イクト、格闘で討伐依頼するカ?」

 「ヤオさんがそう言うのなら。」

 「別にこだわる気はないネ。剣があるなら剣で良いネ。」

 「いや、ヤオさん?あなたが教えてるのは格闘術ですよね?」

 「教えたからと言ってそれを使わないとイケナイ理由はないヨ。冒険者として強く有るにはいろんな技術を持つ。コレ有効ネ。」

 「ぐっ、確かに正論ですけど……ヤオさんはそれで良いのですか?」

 「良いもなにも、イクトは冒険者ヨ。格闘家ではないネ。格闘家を目指すなら素手で戦え言うけど、冒険者に素手のみで戦えとは言わないヨ。」


 ヤオの言う事が正論過ぎてぐうの音も出ない。


 「それなら人型にこだわる理由はないのでは?」

 「人型は重要。冒険者をしてれば対人で戦う事もある。それに少しでも早く慣れておいた方が良いネ。」


 冒険者となれば護衛の依頼で外で盗賊を相手にする事もある。場合によっては戦争に駆り出される事もあるのだ。その時に人とは戦えないとは言えない。


 「命を刈り取る。それを実感するには人型が1番ネ。」


 ヤオの言い分は正しい。そしてそれは


 「ティーさん、ゴブリンでお願いします。」


 イクト君にも思うところがあったか。


 「イクト君にも言われちゃうと仕方ないわね。けどお姉さんは心配なのよ。ゴブリンとスライム。討伐難易度は同じだけど、実際の危険度は絶対にゴブリンが上よ。」

 「分かってます。」


 真摯な瞳で見つめられ


 あ、駄目だ。これは何を言っても無駄ね。


 「ヤオ、しっかりと教官としての役目を果たすのよ?」

 「当然ネ。」


 こうしてイクトの初討伐依頼はゴブリンへと決まった。

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