第10話 

 「イクト、明日は朝から大丈夫カ?」


訓練終わりにでヤオからそう言われた。


 「はい。大丈夫ですけど?」

 「今日はもう終わりにして体を休めるネ。それで明日は冒険者ギルドで待ち合わせネ。」

 「はあ、それは構わないですけど何をするんですか?」

 「依頼を受けるヨ。討伐依頼。」

 「え!?僕はまだ討伐依頼は受けれませんよ。」

 「大丈夫ネ。訓練の一環として教官が同行すれば討伐依頼を受ける事出来るネ。」

 「そうなんですか!?」

 「実際にそれをする教官もいないアルから知られていないネ。」

 「初めて聞きました。」

 「クエスト中の事故は教官の責任になるネ。誰もしたがらないアル。」


 確かに訓練中の生徒を自分の責任で外に連れ出すなんてリスクが大きい。普通ならしないだろう。


 「でも何でそんなヤオさんにリスクが大きい事を……」

 「イクトなら大丈夫ネ。何も心配ナイ。今までの訓練で十分に力をつけた。これからは実戦も踏まえた訓練が必要ネ。」

 「ヤオさん……」

 「イクトが強くなって実績を作れば訓練生も増えて私もWinWinヨ。」


 僕の為にと感動した所だがヤオさんにも益があったのか。

 それでも僕を信用してくれているからと考えると嬉しく思う。


 「それじゃ明日はギルドでネ。」

 「はい。失礼します。」


 太陽はまだ高い。


 「ユイナどうしてるかな?」


 家に来ていたら良いのにと思う。そうすれば長く会う事が出来るのに。



 ◇◇◇ユイナside◇◇◇

 「ユイナ様、イクト様が帰宅されます。」


 イクトの家で帰りを待つユイナの元へ何処からともなくファナが現れそう言うと


 「え!帰って来る?」

 「はい。」


 イクトを見張っていたファナの報告にユイナは喜びを隠せない。


 「今日は早いのね。」

 「そのようです。もうじきに戻られるので私はこれで。」


 そう言うとファナは姿を消した。


 それからしばらくすると扉を開く音がした。それに合わせてユイナは走る。


 「イクト!」


 扉を開けたイクトへ抱きついた。そのユイナを抱きしめかえしながら


 「やあ、ただいまユイナ。来ていたんだね。嬉しいよ。」


 耳元でそう囁いた。それにキュンキュンしながらも


 「今日は早かったのね。」

 「そうだね。明日の為に体を休めろと言われてね。」

 「明日の為?」

 「うん、そう。明日は討伐依頼を受けるんだ。」

 「討伐依頼?」


 イクトの年齢では受けれない。

それはイクトも知っているはず。

なのに何故イクトはそんな事を言っているのだろう?


 「訓練所の教官が同行して訓練の一環ならば討伐依頼を受けれるらしいんだ。」

 「え?そうなの?初めて聞いたわ。」


 これは初耳だ。私も知らない事があるなんて思いもしなかった。この教官を味方につけてすれば冒険者ランクも早く上げれるかも知れない。


 「ユイナでも知らないんだね。やっぱりこれは教官にとってはリスクが高い行為なんだろうな。」

 「どういう事?」

 「教官が同行してクエストを受けるとそのクエスト中の事故は教官の責任になるそうなんだ。それもあってそれをする教官はいないって言っていたよ。」

 「そうなんだ。」


 なるほど。クエスト中の事故は起きやすい。

 それが訓練を受ける新人ならば尚更だ。それが教官の責任になるのはたまったもんじゃない。


 「けどイクトは行くのよね?」

 「そうだね。教官はそれで僕が強くなって実績を作ってくれたらって言ってた。」

 「確かに訓練生が強いって実績があれば増えるでしょうね。」


 教官にもメリットがある行為ね。ならば納得。

 しかしこれはその教官をどうにか説得すれば味方につけれるかも知れないわね。これはファナに相談ね。


 「けど討伐依頼って何を受けるの?大丈夫かな?心配だよ?」

 「教官が言うには僕の実力で心配ないと言ってたしスライムかな?」


 初心者には定番の魔物である。確かにスライム相手ならば余程の事がない限りは心配ないだろうが、こんな事になるのならば魔物の情報も集めておくべきだった。


 「スライムなら水辺よね?」

 「たぶんそうなるね。」

 「なら着替えとか用意した方が良いんじゃないかな?」

 「大丈夫だよ。もし濡れたらそのまま帰って来るさ。」

 「そう?」

 「そんな遠くに行く事はないだろうしね。」

 「それもそうね。」


 季節はまだ寒いというような時期ではないので多少濡れても平気だろう。

 ……濡れたイクト見てみたい。


 「帰って来るのを準備して待っていたい所なんだけど、明日は来れるか分からないの。」

 「あ、そうなんだ。」


 まるで子犬のようにションボリするイクト。


 「仕方ないよね。そう言う僕も帰りがどれくらいになるかも想像つかないし。」

 「そうよね……。」


 今度はユイナがションボリした。


 「けど明後日は朝から来るわ。」

 「うん。分かった。楽しみにしているよ。」



 ◇◇◇ファナside◇◇◇

 「ファナ。」

 「何でしょう?ユイナ様。」

 「訓練所のイクトの教官を調べてみて欲しいの。」

 「教官をですか?」

 「そう。今まで影響ないと思い調べてなかったでしょう?」

 「はい、そうですね。たかが訓練所の教官。初心者用の訓練のみでイクト様も数ヶ月程度で行くのを止めると予想しておりましたので調べておりません。」

 「場合によっては有用になる可能性が出てきたわ。」

 「たかが訓練所が?」

 「ええ、訓練所の教官が同行すれば討伐依頼を受けれるそうなのよ。」

 「そんな話しは聞いた事がありません。」

 「そうよね。けれども明日にギルドで討伐依頼を受けると言っていたわ。」

 「ギルドで依頼を受けるのであれば不正ではないですね。」


 ギルドを通さずに依頼を受けるのであれば可能性としてはあり得ない事はない。

 しかしギルドで受けるのであれば不正のしようがない。


 「ファナ、明日は依頼を受けれればイクトは街の外に出る事になるわ。念の為に影から護衛をお願い。」

 「畏まりました。それにしても訓練所の教官ですか……。」


 元々は冒険者をしていたファナに訓練所の教官に良い覚えがない。


 「大した実力もないのに偉そうにしているイメージしかありません。」

 「確かに増長しやすい環境ね。」

 「来るのは初心者が殆ど。その中で教えるという立場だと勘違いをしてしまうのでしょう。」


 ファナには訓練所の教官に高圧的に迫られ実力でねじ伏せた過去があり、その際に大問題となってファナ自身かなり苦労させられた。

 ギルドで改革がされたと聞いたがそれ以来訓練所には近寄ろうとも思わなかった。


 「訓練所には関わりたくありませんでしたが仕方ありませんね。」

 「苦労をかけるわね。」


 ユイナもそういったファナの事情は把握していた。

なのでイクトが訓練所に行ってもファナにはそこでの情報収集は命じていなかった。


 「ユイナ様の為とあらばそれくらいの事は些事でございます。」

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