第9話
「姫様、王がお呼びです。」
そう話しかけたのはメイド服姿のファナ。
「もう!どうせまた婚約の話しでしょう?断っておいてよ。」
そう答えたのは纏めあげられた髪をほどき煌びやかなドレスを脱ぎ捨てているユイナ。
「それは私めには無理な話で。」
「そもそも私はイクトとしか結婚する気はないからそんな話をされても困るのよね。」
「姫様のその想いは重々承知していますが、これに関しては……。いっそ王にそれを打ち明けられますか?」
「それが出来れば苦労しないのよね。」
そう言ってファナは肩を落とした。
イクトが冒険者登録をしてから2年。イクトもファナも17歳となり後1年で成人として認められる年だ。
「もう少しで成人だというのにまだ婚約者のいない姫を王は心配しておいでなのです。」
「それこそ無駄な心配なのよ。私の相手はイクトしかあり得ないのだから。」
「その事を王は知りません。」
「そうよね、どうした物か……。」
イクトも頑張っているがまだ成人していないのでE級だ。
ギルドのシステム上成人前になれるのはE級までとなっている。
そんな相手をこの人と結婚します。とはどう考えても言える訳がない。
「それよりもユイナ様。今日は」
「イクトの休日!」
イクトとしては毎日依頼を受けたいのだがユイナの提案で休日を設けている。
今日はその日であった。
「しかし王の呼び出しを無視する訳には」
「そうよね。急いでそれを片付けてイクトの所へ急ぐわよ!そうと決まれば!」
ユイナは脱ぎ捨てた服を素早く着なおすと
「ファナ!急ぎでお願い!」
そう言われたファナはまるで魔法のようにユイナの髪を上品に纏め仕上げていく。
その手捌きは神がかっておりまるで腕が何本もあるかのようだ。
「それじゃ直ぐに片付けてくるわ!」
気合いも十分のユイナは早足で王の間へと向かうのであった。
◇◇◇ 王の間 ◇◇◇
「失礼致します。」
ユイナは頭を下げた。
「おお!ユイナよ。よく来た。」
その言葉に顔を上げ
「それでお父様。何用でしょうか?」
「うむ。ユイナよ。この国の第3王女としてそろそろ婚約者を」
「私はまだそのつもりは御座いません。」
「いやしかしだな、隣国の王子から是非にとの声もあがっているのだ。」
「私はまだ何処かに嫁いで出ていくつもりはありません。この国の為に微力ながらも尽力を尽くしたいと考えております。ですのでそのような話しは申し訳ありませんがお断り下さいますようお願いします。」
これがイクトからの話しなら2つ返事でオッケーするのにな。
「だかな、隣国との関係もあってだな。」
「隣国とはそのような事で揺らぐような信頼関係でしたの?」
「いや、そうではないが……」
「ならば私が婚約を断っても問題ありませんね。」
「いやだからと言ってもだな、」
「お断りします。」
「外交的に」
「お断りします。」
「ちょ」
「お断りします。」
「ちょっと待て!」
「……何ですか?」
「そもそも何か気に食わない事があるのか?」
「そうですね。敢えて言うのならば私に結婚をさせようとしている事ですかね。」
「結婚が不満か?」
「結婚自身に憧れは有りますよ?」
相手がイクトなら。
「それならば!」
「だからと言って私より劣るような男に嫁ぐ気にはなりません。」
「はあ、お前には困ったものだ。魔法使いとしては
「それは皆様方の努力が足りないからでしょう?私も女です。いざという時に私を守れるような男性が良いですね。」
「王公貴族にそのような実力を持つのはお前くらいのものだろう。1人の親として言わせて貰うがそんな事では婚期を逃すぞ?」
「王公貴族に居ないのであればそれ以外からしかありませんね。」
ユイナの脳裏にはイクトの姿しか映っていない。
「そんな事、国としても認められないし、民が認める訳がない。」
「そうですか?ならば英雄と呼ばれるような人物しかありませんね。英雄ならば民は喜びましょう?」
「確かに英雄と呼ばれるような人物なら民は喜ぶだろうがな。」
「そうですわね。ですればこの話しは英雄が現れてから考えると言う事になりますわね。」
「はあ~、お前と言う奴は……。まあいい、ワシは諦めんぞ。」
それは今回は諦めたと言う合図であった。
「それでは失礼します。」
やった!やった!やった!これは思わぬ収穫だ!
英雄であれば民は喜ぶと認めたという事は英雄であれば結婚しても良いと思ったという事だ。これでイクトが英雄になれば……エヘエヘエヘヘ♡
「姫様?何か良い事があったのですか?」
通りすがりのメイドに訪ねられ我に返る。
「あ、いえ、これは……」
「凄く幸せそうなお顔でしたが……」
比較的に仲の良いメイドで良かった。
「お父様の婚約話しを無事に乗り切れたのでね。」
「そうでしたか。てっきり今回の婚約の話しが良い話しであったのか期待したのですが……残念です。」
「あら?私の婚約が決まって結婚となり城を出ても構わない?」
「!それは困ります。ユイナ様!あなた様が居ないとこの城の随所で問題が発生します。」
メイドがそう言うのには理由があった。
ユイナは足げにイクトの元に通いながらも城内の業務や、改善の多くを手がけている。
特に食堂で新しい料理が出された時には間違いなくユイナが関わっていた。それはもちろんイクトへ振る舞う料理の練習の為ではあるのだがユイナの新しいメニューの考案を楽しみにしている城内の者は多い。
「姫様には是が非でも結婚後もこの城に残って頂かないと!」
「あはは、それだと私が女王となるしかなさそうだね。」
「はっ!あわわわわ。そんなつもりで言ったのでは!」
メイドは口を押さえてオロオロしだした。
「大丈夫。分かってるよ。それほど慕って貰えて私も嬉しいよ。」
そう言ってユイナはウィンクをして見せた。その仕草にメイドは顔を赤らめ
「姫様の可愛さでその仕草は反則ですょ。」
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