第8話 氣

 「ここか……」


 訓練所、その場所には心当たりがあった。

 イクトが小さな頃に両親からここは有事の際に避難する場所だと聞かされていた場所だ。


 「ここってギルドの訓練所だったんだ。」


 確かに訓練所ならば広さもあるし冒険者も集っている。避難する場所としてはもってこいだ。

 イクトは扉を抜けて中に入る。すると中では剣の訓練で素振りをする者や、弓の的に矢を射る者等様々だ。様子を伺いキョロキョロしていると


 「どうしたネ?」


 そんなイクトに話かける少女がいた。

小柄で髪をツインテールにした見た目の可愛らしい少女であるがその内に何か巨大な物を秘めているように感じる。


 「あ、えと訓練!ギルドで紹介されて訓練に来たんだ。」

 「ここの利用は初めて?」

 「そうなんだ。でも初めてってよく分かったね?」

 「こう見えてここは長いからネ。大体の訓練に来る人は知ってるネ。」


 その言葉にイクトは確信した。


 「君は何の講師?」

 「え?」


 見た目は幼く見えるがその佇まいに内に秘めたパワーのような何か、きっと見た目通りの年齢ではない。


 「あ、ゴメン。違ってたのか。」

 「いや、合ってるヨ。何で分かったネ?初めてで私が講師だと分かったのは君が初。」

 「いや何だろう?君からは何か内側に大きな力を感じる。魔力ではなさそうだけど……」

 「君は見込みあるネ。たぶん君が感じてるのは気の力。それを外側に放出してない状態なのに感じるとはなかなかのセンスある。どうネ?いっちょ師事する気はないカ?」

 「気の力ですか……どんな事が出来るのですか?」

 「気は体内で使うが基本。身体を強化したりスル。」

 「魔法の身体強化と同じですか?」

 「身体強化とは違う。気は慣れが必要だが部分強化も自在だし瞬間的に強化出来るネ。」

 「詠唱が必要無く瞬時に使えるのですか!?」

 「そう。けどそれには慣れとセンスが必要。けど君なら出来る。」

 「本当ですか!?」 

 「間違いない。私の勘は当たるネ。」

 「って勘ですか。」


 けれど身体強化が瞬時に出来ると考えればそれはかなり有用じゃないだろうか?


 「1度見せてもらう事は出来ますでしょうか?」

 「もちろん構わないヨ。これでも講師ネ。それに君なら使いこなせる……はず。センスの無い輩ばかりが相手して使えない講師と言われてるのでこのままではピンチ。」

 「え……?」


 これはまさかのとんでもない講師に捕まってしまったのではないのか?

 いや、さっきの話が本当に使えるのならば冒険者としてかなりの力になるはずだ。

 まずは気という力が本物か見極めてそれから考えよう。


 「それじゃ向こうの案山子かかしで見せようカ。」


 そう言って様々な練習の為に使われる的である棒に鎧を被せただけの人形の元へと移動する。


 「まずは……」


 バシンッ

 派手な音が鳴り響く


 「これが通常の打撃。」


 通常の打撃と言っていたが素手で金属鎧を殴打しているのに金属鎧が僅かにへこんだ。


 「そして」


 彼女の体内で何かが大きく膨れ上がり


 ガンッ

 殴った箇所が大きくへこむ。


 「これが氣で強化した打撃。」

 「凄い!素手で金属製の鎧を!」

 「にゃははは。まあ、それほどでもアル。そして……」


 彼女の中の力が更に大きく膨れ上がるのを感じる。そしてソレは彼女の体内から手の平に集まり眩い光を放つ


 「これが奥義!気光砲!」


 叫びと共に手の平に集まった光が放たれる。

 ドゴオオォォン

 鎧に当たると轟音と爆発が起き土煙が舞い上がり視界を遮った。


 「凄い!」


 土煙で見えないが音で周りが騒がしいのが分かる。

 徐々に土煙が晴れていき周りの様子が分かりだした。何が起きたのかと見に来る者や遠巻きに見ている者。

 そしてそれを放った本人の元へ走ってくる若い女性。


 「どうしてまたやったのですか!」


 近くまで来ると大きな声でそう叫んだ。


 「いや、ゴメンて。ちょっとそこの子にアピールしたくて……」

 「前にも同じ事をしてドン引きされてましたよね?」

 「だよね……、けど、けどね?やっぱり凄いとこ見せたいじゃない?」

 「そのせいで練習生に逃げられてましたよね?」

 「うっ!それを言われると……。」


 そう言いながらこっちをチラッと見てきた。


 「君はどう思ったかな……?」

 「えーと、はい。凄いとです。この技術を教えて貰えるのですか?」


 その言葉に講師である彼女の顔が明るく眩しい程の笑顔となった。


 「もちろんネ!君ならばきっと気を超えた氣にたどり着き奥義の習得もきっと出来るヨ!」

 「ちょっと!直ぐに調子に乗るんだから!もう施設を壊すような真似は止めて下さいよ!」

 「……ごめん。」


 さっきまでの笑顔が嘘のように一気にしょんぼりとする。どうやら感情の落差の激しい人のようである。


 「けどこれで講師として続けられるよネ?」

 「……まあそうですけど、だからといって生徒が1人なので講師を継続と言ってもまだまだ実績不足ですからね!」

 「やったあ!良かった良かったヨ。」


 その言葉に一抹の不安がよぎる。


 「すいません。どういう事ですか?」


 その言葉に2人は顔を見合せてから爆発後に来た女性が答えた。


 「彼女は格闘家の講師でタン・ヤオ。元々人気のないジョブで」


 タン・ヤオと呼ばれた女性が必死に腕をクロスさせバツを作る。


 「どうせ説明は必要でしょう?」

 「黙ってればなし崩し的に何とかなるネ!」


 その言葉に疑問符を浮かべていると


 「まあぶっちゃけて言うと講師として人気がないので解雇になる寸前なのよ。」

 「え?あれだけ凄いのに?」

 「そうは言ってもね、講師としては致命的なのよ。過去に何人か持った生徒は1日で辞めたり、もって3日だったわね。」

 「それは仕方ないヨ。センスが無いのに教えても意味がないし、終いには生徒じゃなくナンパ野郎までいたんだから。」

 「あら?ナンパ野郎なら良かったじゃないの?いつも彼氏が欲しいって言ってるのに。」

 「全然ダメ。イケメンでも無いし強くも無い。D級冒険者だったけど正直に言ってその先にはなれないような奴だったヨ。」

 「あらー、けどそろそろ妥協もしないと。行き遅れるわよ?」

 「行き遅れても私より弱い奴は論外。強い遺伝子じゃないとネ。」

 「あら!ヤラシイわね。」

 「お前に言われたくないネ。ここでギルドの職員として仕事してるのは有能そうな若い冒険者にツバつける為だって知ってるヨ。」

 「人聞きの悪い事を言わないで。私は有能な子のサポートをしたいだけよ。そう、イロイロとね。」


 そう言いながら舌をペロッと出した。


 「あのー……、」

 「おっとそうだった。改めて私は講師のタン・ヤオ。華月流武道術の師範代だヨ。これから君を格闘家として指導していくのでよろしくヨ。ところで君の名前は?」

 「あ、はい。イクトと言います。けど、申し訳ないですけど僕は格闘家として習うつもりは無いです。」

 「ナニ!?」

 「僕は強くなる為に様々な技術を習得したいんです。ヤオさんの技はそれの一貫と言うか……。駄目ですか?」

 「……少し残念、いや、かなり残念には思うけど強くなる方法は1つじゃないネ。1つの道を極めるだけじゃなく色々な方法で強くなる。その強くなりたいと思う姿勢には意義を思うヨ。」

 「それじゃあ」

 「華月流武道術は君の、イクトの強さの1つとなる事に否定はしないネ。けれど修行は厳しいヨ。」

 「はい!よろしくお願いします!」

 「ふーん、イクト君ね。なかなか見処ありそうね。どう?お姉さんに応援されてみない?」

 「駄目ヨ!イクトは私が育てるネ。」

 「あら?あらあらあら?もしかして?」

 「違うネ!私より弱い奴は駄目ネ!……将来的にはわからないけれど……。」

 「え?ちょっと何で声が小さくなるのよ。最後の方聞こえなかったけど?」

 「その!まあ、イクト!これからよろしくネ。」

 「はい!よろしくお願いします!」

 「それじゃ早速訓練開始ネ!」

 「駄目です!ヤオはあっち。」


 そう言って指差した先には


 「アチャー……。片付けないと駄目カ?」

 「当然です!」


 ヤオが吹き飛ばした案山子が散乱しているのだった。


 「すまないイクト。訓練は明日からになるヨ。」


 そう言ってしぶしぶ片付け始めるヤオであった。

 

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