第7話 訓練場
部屋から出たティーダは瓶を大事に抱え自分の担当する席へと戻った。
「あれ?ティー?何かさっきまでと違ってえらくご機嫌じゃない?」
「え?そう?そんな事ないよ。うふふ」
「ん?ちょっと待って。それは何?」
「これ?これねえ、貰ったの。」
「貰ったって。お酒じゃないのそれ?」
「そう、ちょっと珍しいお酒。確かに行く前は憂鬱だったけど……今は凄く幸せ。」
そう言いティーダは酒瓶を抱きしめる。
「お酒好きを悪いとは言わないけどほどほどにしときなよ?」
「分かってるわよ。」
「けど、あなたがそんなに喜ぶようなお酒って気になるわね。」
その言葉にティーダはギクッとした。
そう、普通はこのお酒を見てもその正体は分からない。
だからこそティーダはそれほど気にする事なくそのまま持って来ていたのだが、これが王公貴族で流行りのお酒だと知られる訳にはいかない。
入手すら困難と言われるこれをギルドの受付嬢に渡せる程の人物となればかなり限られてくるだろう。万に一つの可能性も残す訳にはいかない。
「何言ってるのよ。珍しいお酒でなくても私は喜ぶわよ。」
「それもそうね。ティー、あなたがお酒を貰って喜ばない訳がないわね。」
同僚のその言葉にティーダは内心はもの凄くほっとしてお酒を大事そうに人目のつかない場所に置き、ティーは通常業務へと戻った。するとそこに
「ティーさん。」
目の前にイクトの姿。
「あら、イクト君。どうしたの?」
噂をすればである。そこにタイミング良くなのか応接室から出て来たのであろうファナとギルマスの姿が。
うわー、あの2人の視線を凄く感じる。
「はい、クエストを終えたので。」
そう言ってイクトがサインの入った受注書を出す。
内容は街の商店から外壁の工事現場までの荷運びだ。
受注書には工事現場の監督のサインがしっかりと記入されている。
「ご苦労様。報酬を準備するからちょっと待ってね。」
そう言って席を離れたティーダに
「あれが例の冒険者か?」
ギルマスが問いかけてきた。その問いかけにティーダとファナの内心は気が気でない。
「そうですが何か?」
「どれ、俺がちょっと様子を見てみようか。」
そう言ってイクトの方へと向かおうとするのを
「ギルマス!そんな事よりもお見送りを!」
「っと、そうか。いや、それならいっそ王女様に見て貰ったらどうだ?」
そんな事をすればイクト君にユイナの正体がバレてしまう。それは絶対に回避しなければ……
「お忍びで来ているのでそれは遠慮させて頂きます。」
ファナさんナイス!
「いやしかし王女様に後ろ楯になって頂けるのであれば早めに会われた方が良いんじゃないか?」
「それはまだ時期尚早でしょう。何の実績もないなりたての冒険者に対して王族が会う訳にはいきません。」
「それもそうか。」
「ですので今はまだ影からの支援に留めたく思います。」
「分かった。なら俺たちギルドは何をすればいい?」
「それについては追って連絡します。基本的には冒険者として力をつける為に訓練となるクエストを用意するつもりです。それを彼にギルドとして勧めて下さい。」
はあ、そういう方針になったのね。
「それでは私はそろそろ……」
そう言ってファナは出口へと向かい歩きだした。その背後に不穏な空気を感じながら。
◇◇◇ユイナside◇◇◇
馬車に乗り込み隠蔽を解除したユイナは早速ファナに文句を言う。
「ちょっとファナ!ギルマスの言う通りにすればギルド公認でイクトに会えるようになれたのに何で拒否したのよ!」
「お分かりになりませんか?」
「ぐっ」
「王女ユイナ ユータランティアとしてイクト様に会う事になるのですよ?それでも良ければ今からでも会えるように話を取りつけてきますが?」
「それは……」
「ですよね。王女として会った場合にイクト様が身分の違いにどう感じるか。またそれを黙っていたユイナ様にどう思うか。」
「そうよね。まだ王女としてイクトに会うのは時期尚早よね。分かったわ。止めてくれてありがとう。けどギルドでイクトを一目見れたのは嬉しかったな。」
はあ、まったくイクト様の事となると普段の聡明さが無くなるのは困りものですが、そこがまたギャップで良い所でもありますね。
「はあ、出来ればもっと近くで見たかったな。」
◇◇◇ティーダside◇◇◇
「何かあったのですか?」
戻るなりイクトに問われたティーダ。
「ああちょっとね、来客があったの。そのお客さんが帰るから挨拶にね。」
「そうなんですね。」
その来客も君の事で来ていたなんて想像もつかないだろうね。
「はい、これ報酬ね。」
「ありがとうございます。それと……これからでも僕が受けれそうな依頼ってあります?少しでも依頼を多くこなしたくて。」
「え?そうねぇ……。」
ティーダは初心者用の常設依頼に何かなかったかと考える。
「あ!そうだ。依頼じゃないんどけどギルドの訓練場って知ってる?」
「はい。聞いた事はあります。」
「1度行ってみたらどうかな?今日は騎士団の団長のカイン様が講師として来ているはずだし。」
「え!騎士団長!」
「うまくいけば教えて貰えるかもよ?」
「それは是非!教えを乞いたいです!何処です?場所は?」
イクトの予想外の食いつきに気圧されつつもティーダはイクトに場所の説明をする。
「ありがとうございます!早速行ってみます!」
そう言うとイクトは凄い勢いで走って行った。
「……まさか騎士相手の訓練で余裕で勝ったりしないよね?」
王女様から教わって色々と規格外な可能性あるからなぁ。
無いとも言い切れないような……。
まあでも王女様の意向もイクト君を強くする事だし問題ないよね?
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