第5話 ティーダの憂鬱
翌日ファナは冒険者ギルドへユイナ ユータランティアの使者としてやって来ていた。
「ギルドマスター。急な話しではありますが、この度の冒険者登録において不正があった可能性の調査として非公式ではありますが第三王女ユイナ ユータランティア様が調査に参ります。明日のこの時間に担当をした者を空けておくようにして下さい。」
「いや、ちょっと待ってくれ。不正なんてあり得ない。何かの間違いじゃないのか?」
「それを調査する為に行うのです。」
「それはそうかもだが、それにしたって王女様が調査に来るなんて……。」
「王女様のスキル真贋を使って頂きます。」
「な!?それほどまでに?」
「冒険者登録で低位ポーションではなく中級ポーションが作成されたとなるとギルドの不正を疑わざる得ません。ギルドの不正はそれほどまでに重いとの第三王女様の判断です。」
「確かにギルドが不正をしたとあらば重罪であるとは言えるだろう。しかし新規の冒険者登録で不正をする必要性がどこに?」
「さあ?それを判断するのは王女様であって私ではありません。担当したギルド職員が来ない場合は不正があったと断定されるのでくれぐれも担当の者を来させて下さいね。」
「ああ、分かった。元々こちらに非は無いんだ。王女様が来る事でそれが証明出来るのだ。こちらは問題無い。」
「そうですか。あくまでも非公式ですので出迎えは無用です。直接こちらの部屋へ向かわせて貰います。よろしいですね?」
「まあそれは構わない。こっちも王女様が調査に来たと噂されれば大事になりかねない。ひっそり来て頂けるならその方がありがたい。」
「そうですか。ではそのようにさせて頂きます。」
◇◇◇ティーダside◇◇◇
「何ですか?ギルマス。」
ティーはギルマスに呼び出されギルマスの執務室へと来ていた。
「ティーよ。明日だが第三王女が来る。」
「はあ。それが?」
王族がギルドに来るのは珍しい事ではあるがあり得ない事ではない。それに王族が来た所で自分には関係のない話だ。
「実はお前が担当した冒険者の登録で不正の疑いをかけられている。」
「はあ!?何ですかそれ!」
「いや、この間お前が報告に来た中級ポーションを作った奴いたろ?」
「ああ、イクト君ですね。」
「今までそんな事なんてなかったからそれでギルドの不正を疑われてるらしいんだ。」
「何でそれで不正を疑われるんですか?」
「知らん。まあ、特定の冒険者に肩入れしてるとかそんなのじゃないか?まあ、それでだな。王女がスキル真贋を使って調査するらしい。」
「わざわざ王女がですか……。」
「まあスキルを使えば不正なんてすぐに分かるからだろうからな。だから担当者であるお前が相手をする必要がある。」
「私がですか!?」
「それはそうだろう?担当した者を疑っているんだから。」
「確かにそうですけど……。私、王族を相手にするなんて……不敬罪で処罰されませんか?」
「大丈夫だろ?俺でも大丈夫なんだから。それにユイナ様は優しい方だ。よほどの事がない限り心配はいらない筈だ。」
「それにしても何でこんなに早く王族の耳に?」
「あ?それはもちろん俺が言ったからだ。」
「え?」
「いや、昨日な酒場で飲んでたら城を抜け出したユータの奴が来てな。そこでそんな話をしたをんだ。」
「えーと、ユータって?」
「この国の王だな。ユータランティア。通称ユータ。」
「何で呼び捨てなんですか!?」
「アイツとは一緒の冒険者パーティーだったからな。まあ、公の場で呼び捨てなんてしたら不敬罪になるけどな。」
「知らなかった……。」
「そうか?まあ別に言って回るような話しでもないからな。」
「確かにそうなんでしょうけども」
「ま、そんな訳で多少の事なら何とかしてやれるし元々問題なんて無いんだろ?ならここでしっかりと証明してとけば王族に名前も売れるからお前にとってもその冒険者にとっても良いことだらけだろ。」
「うぅ、分かりました。……胃が痛い。」
「まあそんな気負うな。そうそう何も起き無いさ。」
ティーはキリキリと痛むお腹を押さえながら部屋を後にした。
◇◇◇ユイナside◇◇◇
ユイナはギルドへ向かう馬車の中で息巻いていた。
「いよいよね。ギルドの泥棒猫を懲らしめてやるわ。」
「え?ユイナ様?ギルドに協力者を作るという流れでは?」
「そうね。確かにギルドで協力者は欲しい。けどね、一晩考えてみて思ったの。イクトに色目を使った泥棒猫を許すべきではないと。」
「しかしそれではイクト様を英雄とする計画に遅れが出るのでは?」
「そうね。私の計画では順調に進んでもAランクに上がるのに10年はかかるもの。」
「そうですね。しかしギルドの職員を協力者とすればそれも早める事が出来ると……。」
「Aランクでは駄目。英雄じゃない限りイクトとの婚約は不可能よ。」
「……それでは英雄を諦めてイクト様と
「そうね……。それは最終手段よ。出来れば正攻法で、皆から祝福されてイクトと幸せになりたい。」
「それを聞いて安心しました。なればこそギルド職員であるティーダを協力者とした方がよろしいかと存じます。」
「そうね、ファナ。あなたの言う通りよ。けれどその職員の出方次第では協力者として認めないわ。」
「はい。それでよろしいかと思います。」
◇◇◇ティーダside◇◇◇
「ティー。そろそろだ。用意はいいか?切りの良いところで応接室に来いよ。」
ギルマスがティーダに話しかける。それに対して青い顔で
「はい……。」
と答えた。
「ねえ?ティー?どうしたの何か顔色が良くないよ?それに呼び出しなんて何かあった?」
「うん……ちょっとね。」
「言えない事?」
王族が来る時には通常なら大々的にギルマスは職員に言って回る。
それをしていないという事は内密に来るという事だ。下手に他言する訳にはいかない。
「ちょっと来客があるのよ。それの担当に指名されてて……。」
「そうなの?」
「うん。それで気が重くて。昨日も忘れようと呑みに行ったけど体が受け付けなくて2杯しか飲めなかった。」
「え!?ティーが2杯って重傷じゃない。そんなにヤバい相手?」
「うん、ちょっと……。」
ティーの雰囲気からあまり良くない話なんだろうと察したのか
「うん、頑張って。」
同情からくる応援だった。
「それじゃ行って来る。」
ティーはトボトボと応接室へと向かいこれから王族を相手にする。もちろんティーダはそんな礼儀作法など知らない。
優しい方だと噂されているけどもし不敬があったら……。
それに相手はこちらに疑いの目を向けているのだ。嫌な予感しかない。
そう考えれば考える程ティーダの胃はキリキリと痛むのだった。
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