第4話 ティーダ
まだ朝日も登り始めた早朝にイクトはギルドの前で扉が開くのを待っていた。
「昨日はユイナのおかげでとても楽しかったな。」
ユイナが冒険者登録のお祝いとして作ってくれた手料理を満喫したのだ。
初めて食べた物ばかりだったけど、凄く美味しかったな。
しかしそれはユイナと自分の差を感じるのに十分な豪華さだ。
イクトがいくら頑張ってもユイナの用意した食材1つ買うのにも数ヶ月はかかるかもしれない。
その事をユイナには言わなかったが、イクト自身それを感じとっていた。
「あの食材とかを簡単に用意出来るくらい裕福な家だって事だよな。」
そのユイナに惚れているイクトとしてはユイナと一緒になる為にもあの食材の1つでも簡単に用意出来るくらいにはならないと交際すら申し込めない。
ユイナも僕の事を好きでいてくれている。はずだよな?けれど、それだけでは一緒になる事は出来ない。
その為にも冒険者として頑張って早くランクを上げたい。
その気持ちから早起きしギルドが開く前からこうして待っているのだ。
日が登り街も徐々に目を覚まし人々が活動を始める。すると
「あれ?イクト君、どうしたの?」
イクトに声をかけて来たのは受付のティーダだ。
「あ、ティーさん。おはようございます。」
「ギルドはまだ開いてもないよ?」
「はい。分かってはいたのですけど気が急いてしまい早く来ちゃいました。」
「そうなの?もうしょうがないわね。昨日に登録したばかりだもんね。気もはやるか。」
そう言いながらティーはギルドの扉の鍵を上げ扉を開いた。
「本当は駄目だけどイクト君もいらっしゃい。お茶くらい出してあげる。」
ティーダに中に入るように促されたのでそれに甘えて中に入る事にした。
「いつもこんなに早く来ているのですか?」
「ううん、今日は当番で早出だったの。」
「当番?」
「そう。鍵を開けて中の整頓と掃除。ギルドが開くまでの間にもやる事はたくさんあるの。」
そう言いながらもお茶の用意を済ませイクトの元へとやって来る。そしてカップにお茶を注ぐと
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
「ちょうど良いから聞きたいんだけど、イクト君はこれからどういった冒険者を目指すの?」
「それは……」
「昨日の感じからすれば魔術師とか?」
「いえ、僕は剣士を目指します。」
「剣士?でもイクト君の昨日の魔力水を作ったりとか凄かったよ?あれが出来るって事は魔術師向きだと思うけど?」
「そうなんですか?あれくらいの事は冒険者としては必須だと思ってたんですけど……。」
ユイナにそう聞いていたし、冒険者志望ではないユイナもそれくらいはやってみせる。と言うよりもこの技術はユイナから教えてもらった。
「いや、そんな事はないからね?冒険者どころか王宮魔術師でさえ出来るかどうか。」
「いやいや流石に王宮魔術師ならこれくらい簡単にするでしょう。」
「え、そうかな……?」
イクトに断言されて実際の事を知らないティーダは言葉を詰まらせた。
「冒険者でも確かに僕みたいな低ランクでは出来ない人も多いでしょうけど高ランクなら出来る筈です。」
「うーん、」
確かにティーダも高ランク冒険者のその技量を知る訳ではない。
分かるのはせいぜいそのランクにあった魔物を討伐出来るであろうという事だけだ。
「そう…なのかなあ……?」
「きっとそうですよ。僕は高ランク冒険者になる為に鍛えて来たんですから僕の技量は高ランク冒険者になる為に必須な技術です。」
イクトは自信を持ってそう答えた。
「でもそれってイクト君がそう思っているだけでしょう?」
「違いますよ。だってこれは幼馴染みの子が高ランク冒険者から聞いた必要な強さですから。」
「え!?そうなの?」
「はい。そうですよ。」
イクトはユイナからこれらの技術や鍛える方法を聞いてそれを実践し鍛えてきた。
ユイナから聞いた情報を信じているので冒険者でそれを出来るのがいない事実を知らないでいた。
「その幼馴染みの話しは信用出来るの?」
「もちろん。高ランク冒険者を雇ったりする事もあるらしくその時に聞いたそうです。」
「うーん……本当かなぁ。ちなみにその子の名前は?高ランク冒険者を雇うような人物の子供なら知っているかもしれないし。」
「ユイナって言います。」
「ユイナ?それってこの国の第三王女ユイナ ユータランティア様と同じ名前ね。けど流石に王女様が幼馴染みって事はない、よね?もしかしてイクト君は貴族だったりする?」
「僕が?貴族?あはははは!そんな訳はありませんよ。それにユイナって名前だけで王女なんてあり得ないでしょう?城から抜け出して僕に会っているなんて。」
「それもそうよね。あり得ないわよね。」
ティーはこの時のイクトの言葉を信じた事を後程に後悔する事となるのをまだ知らない。
◇◇◇ユイナside◇◇◇
「イクトはまだギルドも開いてないのに行っちゃったか。」
ファナから報告を受けユイナは複雑な気分となった。
イクトが冒険者として大成する為に頑張るのは嬉しい。
それは私との関係を進める為に頑張る事なのだからそれは私の為に頑張ってくれている事だ。嬉しくないはずがない。
しかしそれと同時に冒険者として頑張るという事は危険を伴うという事だ。
「ねえ?ファナ。その受付嬢は大丈夫なの?」
「受付嬢……ティーダの事ですか?」
「ええ、そう。そのティーダとか言う女。イクトを狙ってない?」
「……まだ本気で落とそうとはしていないようですがその……ツバをつけておく的な様子はあります。」
「殺しましょ。」
ユイナは即座に答えた。
「いや流石にそれはマズイのでは。」
「ダメよ。危険な芽は早く潰しておくに限るわ。間違いが起きてからでは遅いのよ。イクトの初めてが奪われたらどうするのよ?」
「それは……。」
「それにその女に影響を受けてふしだらにイクトがなれば……」
ふしだらなイクトを想像する
「それはそれで有りかもしれないわね……。いや、駄目よ。その目は私にだけ向くのなら良いけど他の女に向いてしまうのは駄目。」
「それならばいっそ協力者にしてしまえばどうです?」
「協力者……?そうね、それは有りかもしれないわね。それにはまずどうやって話をするか……。」
「それには妙案がございます。」
ファナとユイナは2人どうするべきかを話し合うのだった。
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