第3話 登録後

 ◇◇◇ティーダside◇◇◇

 登録時のポーション作成には試験的な意味もある。

 これにはその冒険者の今後の動向を見る指針ともなるからだ。その評価を受付嬢が担当するのだ。


 「ちょっとギルマスの所へ行って来るね。」


 ティーは同僚で隣の受付のセイラに話しかけた。


 「何か騒がしかったけどどうしたの?」

 「ちょっとね、さっきの新人。満点以上よ。」

 「満点以上?どういう事?」

 「試験で中級ポーションを作ったわ。」

 「え?……。聞き間違いをしたかな?もう1回言って。」

 「低位ポーションを作成せずに中級ポーションを作ったの。」

 「???そんな事が出来るの?あ!分かった。魔力水を渡しちゃったのね。」

 「違うわよ。」

 「そうじゃなきゃ無理じゃない。」

 「作ったのよ。」

 「作った?」

 「そう。魔力水を目の前でね。」

 「元々錬金術師だった?」

 「違うわよ。だって15歳の新人よ?錬金術ギルドに登録すら出来る年齢じゃないわよ。」

 「そうね……。けどそんな事が出来るのは高位魔術師か錬金術師か。」

 「そうなのよ。」

 「けどそれが出来るのならどちらにしろ将来有望って事じゃない。担当変わってよ。」

 「駄目!イクト君の担当は私よ!ってそんな場合じゃない。この事をギルマスに報告に行かなきゃ。」

 「あー、確かにそれは報告案件だね。」

 「問題はギルマスが信じてくれるかよ。」

 「確かに。にわかには信じがたい内容だね。」


 ティーはため息は吐き手を振りギルマスの部屋へと向かって行った。



 ◇◇◇ユイナside◇◇◇

 「イクトは無事に登録出来たかな……。本当は着いて行きたかったのだけど……」


 こっそり着いて行きイクトの様子を伺う事も考えた。

 しかし行き先は冒険者ギルド。一般職員であれば問題無いがギルマスとかになると下手をすれば私の正体がばれる可能性がある。

 なので出来ればギルドには近付きたくはない。


 出来る限りの事はした筈よ。イクトなら満点の評価でクリアしてくれるよね。


 この評価で今後の注目度が変わる。注目されていた方が英雄になるのに有利となるに違いない。


 「……見たかったな。」


 冒険者ギルドで登録するイクトの姿、最初のクエストを受けるイクトの姿。


 「あー、いつもと違うイクトの頑張ってる姿。きっと格好良いだろうなあ。」


 それを想像するだけで自分の胸がキュンキュンするのが分かる。


 「はあ、イクト。早く帰って来ないかな……。」


 ユイナはイクトの借りた部屋でため息を吐く。

 イクトは冒険者登録をするこの日から自立する為に親元を離れ部屋を借りた。

 それに理由をつけてどうにかユイナはその部屋の合鍵をイクトから入手していたのだ。それを使い部屋でイクトの帰りを待っていた。

 テーブルの上にはご馳走が。

 これはユイナが冒険者登録のお祝いにと作った手料理だ。

 ユイナは王宮の料理長に指導してもらいその腕前はすでに料理長には及ばないが他の宮廷料理人とは引けをとらない腕前となっていた。

 そこに扉が開きイクトが


 「ただいま。」

 「お帰り!イクト!」


 すぐさまイクトの元へと駆け寄ると


 「凄いご馳走だな。」


 テーブルを見たイクトが驚いている。


 「そうでしょ?今日はイクトの冒険者登録記念だから頑張って作ったの。」

 「これ全部ユイナが?」

 「そうよ。」

 「ありがとう。嬉しいよ。」


 そう言って頭を撫でてくれる。それに目を細めて喜ぶユイナ。それをいつまでも堪能したいと思いつつも


 「席に座って待っててね。スープとか温めてくるから。」


 そう言ってイクトを席へと促した。


 「手伝うよ。」

 「今日はイクトのお祝いなんだから座ってて。」

 「そうはいかないよ。だってこんな美味しそうな物。早く食べたいじゃないか。手伝えばその分早く終わるだろう?」

 「もう。」


 そう言いながらもその言葉に嬉しく思う。手早く準備を済ませ2人で席を囲み


 「イクトの冒険者登録を記念して」

 「「乾杯」」


 2人はコップを軽く合わせて中身を飲む。


 「うっま!何これ?」

 「んふふ。お酒よ。」

 「これがお酒?」


 この国ではお酒に関する法律は無い。しかし一般的に15歳になってからと言われていた。そして今2人が飲んだのはブドウで作った果実酒だ。


 「ちょっと奮発したの。」


 イクトがその値段を知ると目玉が飛び出したかもしれない。一般ではまずお目にかかる事もないような高級酒だ。


 もしかしたら今日は特別な日になるかもしれない。


 そんな思いがユイナを突き動かしていた。そんなユイナの想いはつゆ知らずのイクトは目の前の料理に釘付けだ。


 「さあ食べましょう。」


 その言葉を合図にイクトが料理に手を伸ばす。それを口に入れると


 「凄く美味しい!」


 凄い勢いで食べ始めた。


 「どれも凄く美味しいよ。」


 食べては飲んでを繰り返し次第にイクトの様子が怪しくなり始めた。


 「ユイナー。いつもありがとう。」


 赤い顔をして目も虚ろになったイクトがそう言う。


 「ちょっと飲み過ぎたのかしらね。ベッドで休んだ方が良いわ。」


 ユイナがイクトに肩を貸しベッドへと向かう。イクトと並んでベッドに座り


 「ほら横になって。今水を入れてくるから。」


 ユイナが立ち上がろうとする。そこへ


 「待って。」


 イクトがユイナの手を引いた。突然の出来事にユイナはバランスを崩してベッドへと倒れた。


 「ユイナ……」


 そんなユイナに覆い被さるようにイクトがユイナの顔を覗きこむと


 「イクト……」


 自然と2人の距離が縮んでいく。そして2人はそのまま……


 「ユイナ様!ユイナ様!」

 「え!?」

 「もう少しでイクト様が帰られますよ。」

 「ファナ?」


 ユイナの目の前には黒を基調としたメイド服に身を包みだ女性がユイナの事を見据えていた。


 「え?え?」

 「妄想はその辺りで終わって頂き現実へ戻って下さい。」

 「……いつから見てた?」

 「さあ?詳しくは分かりませんが、お帰り!イクト!の辺りでしょうか?」

 「それって最初からよね?」

 「それは私めには分かりかねますがそこからあまりにもユイナ様が……ブフォ」


 ファナが顔を逸らして肩を震わせている。それから数秒程してから


 「失礼しました。ユイナ様があまりにも幸せそうでしたのでお声をかけるのを躊躇ったのです。」

 「……そんなに可笑しかったのかしら?」

 「いえいえ、滅相もございません。私ファナはユイナ様にお仕えするメイド。ユイナ様の幸せが私ファナの幸せでございます。っと、この話しはまた後で。イクト様が帰られます。私はこのまま隠れますので。」

 「ちょっと待って!問題は無かった?」

 「はい。イクト様の冒険者登録。つつがなく無事に完了しております。」

 「分かったわ。イクトの護衛ありがとう。」

 「勿体ないお言葉です。」


 ファナが一礼するとそのまま姿が闇に消えていった。

 それから数分もしない内に


 「ただいま。」


 イクトが扉を開けて帰って来たのだった。

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