第2話 冒険者
このユータランティア王国の冒険者ギルドはなかなかに大きい。
建物の1階には受付が並びその窓口は5つある。
昔は酒場も中に併設されていたらしいが今ではそれは横の建物へ移行された。
その代わりにクエスト報告の専門窓口に魔物等の素材買い取り用のカウンターが置かれるようになっている。
そんな冒険者ギルドへ訪れたイクトは受付に並んでいた。
イクトの番になると
「冒険者ギルドへようこそ。今日が初めてですか?」
髪を後ろへ纏めポニーテールとした美人の受付嬢がイクトの姿を見てそう。
「はい。けど何故分かったのですか?」
「登録済みの冒険者ならまずあそこのクエストボードに向かうわ。君は受付を見るなり直ぐに受付に並んだから。」
「そうなんですね。」
「それに君みたいに可愛い子の冒険者なら絶対に覚えてる自信あるもの。」
「か!?可愛い?」
「そうよ。だって周りを見てごらん?どれも厳つい顔をしたおっさんが殆どよ?」
イクトは周りを見回すと確かに若いと思える冒険者の姿は見えない。
「だから君みたいな子は目立つのよ。他の受付嬢はきっと私を羨んでいるわね。」
「でも15歳になったら登録に来るのも多いんでしょう?」
「そうね。15歳か18歳か。登録に来るのはその年齢が多いわね。けどね……長続きしないのよ。大抵はね。」
「長続きしない?」
「そう、冒険者になったばかりの子は思っていたのと違うとか、こんな地味な事をする為に冒険者になったんじゃないってね。君はどうかな?」
「地味な事って街での雑用の事ですよね?」
「あら?知っているの?」
「ええ、もちろん。自分がなろうとしている事ですから。」
「そうなのね。だったら君は長く続けられるかもね。」
見た目も悪くないし今の内にツバをつけとくのも悪くないかもね。
「それじゃ早速だけど登録の書類を書いて貰うわね。」
そう言い1枚の用紙を取り出した。
「字は書ける?」
「あ、はい。大丈夫です。」
「そうなの?優秀なのね。殆どの子が字も読めないし書けないのよ。だから冒険者になってからギルドで習うのが通例なのにね。」
これはユイナに感謝だな。僕が字を読めたり書けるのはユイナに教わっていたからだ。
「それでね、まずはここに名前を……」
受付嬢が書類を指差し前屈みになると、その制服の隙間から胸の谷間が見えている。
「いや、あの、その……」
「どうしたの?」
「見えてます。見えてますので……」
イクトは顔を反らしてそう言う。
「あははっ、ウブなのね。大丈夫、わざとだから。」
「え?」
「君が可愛いからサービスよ。」
「いや、あの困ります。」
「あら何で?君くらい若い子なら興味あるでしょ?」
「僕には心に決めた人がいるので。」
「え!?君はまだ15歳だよね?そんな頑なに思う程の相手?」
「はい。小さい頃からの……幼馴染みなんですけど。」
「へえ~、なら成人すれば結婚?」
「いや、それはまだ……。」
「どうして?」
「彼女は良い所のお嬢さんなんで会った事は無いんですけど彼女の両親に挨拶に行くにも低ランク冒険者じゃ格好がつかないと言うか……。」
「あー、成る程。分からなくもないわね。けど、1人前とされるDランク。そこに上がるだけでも数年はかかるわよ?」
「はい、それでもそうするしか思いつかないから。」
「そうねえ……。面白そうだし私も出来る範囲で協力してあげる。」
「え?良いんですか?」
「もちろんよ。冒険者を応援するのもギルド職員の仕事よ。」
ま、こうやって好感度を上げておけば万に1つって事もあるしね。
「って事でこれから宜しくね。あ、私はティーダ。周りの職員からはティーって呼ばれているわ。何かあったら私に頼りなさい。分かった?」
「はい。ありがとうございます。ティーさん。」
かくして無事に冒険者登録を終えると
「さて、それじゃあ早速クエストを受注する?」
「はい。もちろん。」
「それじゃ早速これね。」
そう言ってティーが机から1枚の紙を取り出した。
「これは……。」
そう言いながらその用紙に目を通す。
「あれ?もしかして知ってる?」
「あー、はい。駄目でしたか?」
「駄目って事は無いよ。」
クエストの内容はギルドの所有する薬草畑で薬草を採取しポーションの作成をする事である。
これはギルドの方針で冒険者登録をした者がまず最初に受けないといけない依頼だ。
クエストとしているがギルドが冒険者の身を守る為に少しでも良い回復手段を身につけさせる為に用意しているクエストで報酬は自分の作ったポーションが報酬となる。
「それじゃここの裏手が畑だから。私も一緒に行くから着いて来て。」
ティーは隣の職員に声をかけると席を立った。そして中を通り裏手へと続く扉を開く。
「うわぁ。」
裏手の畑は予想以上に大きく広大だ。この王都でこれだけの土地を畑としているのはなかなか無いのではないか。
「ここはいざと言う時の為の備えでもあるの。戦争が始まったり街道を封鎖された時にポーションをある程度は自国内で作れるようにと国王の令でこの畑を運用しているのよ。」
「そうなんですね。」
この情報は知らなかった。
「じゃあ早速取り掛かって。ポーションの作り方は分かる?」
「あ、はい。大丈夫です。」
畑の中に入り薬草を採取しようとする
「あれ?」
「どうかした?」
「いや、ここに生えているのって……毒草ですね。」
「あら?分かるの?」
「はい。薬草によく似ていますが、これは葉の形が違う。本来はもっと丸みを帯びています。」
「凄いわね。大抵の初心者がここで失敗をするようになっているのに。」
「え?何故?」
「薬草の見分けはとても重要よ。その毒草の効果は分かる?」
「これは確か少量で痺れが起き、大量に接種すると麻痺になります。」
「その通りよ。もし薬草をそのまま接種しないといけない事態の場合。いえそうじゃないとしても間違いでこれを接種すれば死亡は確定よ。とても戦える状態じゃないわ。だからこそ最初のクエストとして薬草の採取、そしてポーション作成をするの。君はその見分けが出来てるから教えるけど本来は秘密よ。」
「そうなんですね。」
これはユイナから教えて貰っていた知識だ。ユイナにも薬草と毒草を絶対に間違えては駄目だと教えてられていたのだ。ユイナの教えが早速役にたった。
「畑の中に薬草はあるからしっかりと見極めてポーションを作って頂戴。君なら当日でクエストクリア出来そうね。」
「当日にクリア出来ない人もいるんですか?」
「そうね。毒草でポーションを作った場合は効能を確かめる為と言って敢えて飲んで貰っているわ。」
「そんな事をしたら……。」
「そう、1日は麻痺して動けないわ。実践でそうならない為にも身をもって体験して貰うの。ま、君は大丈夫そうだけどね。」
確かに実践で毒草を使用したり、間違えて毒草で作ったポーションを所持して使用したりすればそこに待つのは死であるのだろう。
しっかりと教えてくれたユイナに感謝しないとな。
薬草を探してみるとどうやら入り口の辺りに毒草が集められていてそこ以外は普通に薬草が生えている。
それを採取しティーの所へと戻るとそれを見てティーは
「後は作成ね。今回は道具とか貸し出しになるから。」
そう言って渡されたのは鍋が1つ。それと水が入っていると思われる水筒。
「ここで火をおこしても?」
「ええ、大丈夫よ。」
そこらの石で簡単なカマドを組みその上に鍋を乗せる。そこへ水を注ぎカマドに火を着けた。
「さてと、やるか。」
イクトは鍋の水に手を浸した。ティーはその動きに疑問を感じたが何も言わない。
ここで何かを言うとヒントを出した事になる。
何をやっているのかしら?まるで温度を測っているかのよう。
低位ポーションは薬草を茹でるだけで完成する。その工程にお湯に入れるタイミングは関係ないのに。
「よし!これくらいで良いか。」
イクトがそう言うと今度は薬草を千切り石の上で擦り潰しそれを鍋の中へと入れる。
薬草を擦り潰すだけでも低位ポーションのランクは上がる。それを知っているのは点数高いわね。
イクトが鍋をかき混ぜると透明だった水が鮮やかな緑色へと変化した。
「良し!出来た。」
そう言うとイクトは鍋を火から降ろした。
「出来たみたいね。それをこれに入れてくれる?」
ティーダはイクトに空の瓶を渡した。ポーションの空き瓶だ。
「はい。」
イクトが瓶に溢れないように慎重に注いだ。
「はい。完成です。それでは鑑定をしてポーションのランクを調べてみましょうか。」
それをティーダがイクトから受け取りギルドの中へと入り素材買い取りカウンターへと向かい中の人に声をかけた。
「鑑定お願い。」
「あいよ。」
そこに居た禿げた筋肉質の男がそれに答えた。丸い水晶のような物をかざすと、
「あん?何だこれ?新規登録のポーション作成だよな?」
「そうよ。それがどうしたの?」
「いや、それがよ。中級ポーションなんだよ。これ。」
そう言って瓶を振ってみせた。
「は!?」
「んー、何度やってもそうなるな。間違いないな。」
「え?どういう事?」
確かに中級ポーションの材料としては薬草と水だ。ただしただの水ではなく魔力が溶け込んだ魔力水が必要になる。
「使った水を見せてくれ。」
男に水筒を渡すと男は水筒を鑑定する。
「普通の水だな。本当にそこで作ったやつか?」
「それは間違いないわよ。私が見ていたんだから。」
「それじゃそれが何故こうなる?」
「私にも分からないわよ。」
言い合いをする2人に
「あの、何か問題が?」
イクトは訊ねた。
「イクト君には問題ないわよ。けどね、出来たポーションが何故か中級になっているのよ。」
「それのどこかおかしいんですか?」
そう言って首をかしげるイクト。
「イクト君。薬草を煮出すだけで出来るのは低位ポーションなのよ。店に置いている物は中級ポーションになるの。それを作るには魔力水って水が必要になるわ。」
「魔力水にしましたよ?」
「へあ?魔力水にした?何を言っているの?魔力水は特定の魔素の濃い地域から湧き出る水か、もしくは錬金術師や魔法使いが高品質の魔石を用いて始めて作れる物なのよ。」
「あー、それは聞いた事ありますね。けどそれって大量に作る場合の話しでしょう?少量なら出来ますよ。」
「はあー、何を言ってるのよ。出来る訳ないでしょう?そんなに言うなら作ってみなさいよ。」
「分かりました。それならさっきの鍋と水を下さい。」
イクトは鍋と水筒を受けとると鍋に水を注いだ。そこに手を浸し集中する。
「はい、出来ました。」
「いやいや、何を言ってるの。そんなので魔力水になったら苦労しないわよ。」
「いや、ちょっと貸してみろ……」
買い取りカウンターの男が鍋の水を鑑定した。
「まさかとは思ったが……なってる、魔力水になってるぞ。」
「へあ!?」
ティーダが変な声をあげた。
「坊主、何をやったのか言ってみろ。」
「え?普通に水の中に均等に行き渡るように魔力を流し入れただけですよ?」
「魔力を均等に……。」
あり得ない。私は魔術師ではないから詳しくは分からないけどそれが常軌を逸した事なのは分かる。
「いやー、これが出来るようになるのには苦労しました。」
イクトはユイナから魔力の制御についてはかなりの訓練を受けていたのだ。
その訓練は宮廷魔術師が行う訓練で、それを幼少の頃から行っているイクトの魔力制御はかるく宮廷魔術師を上回る。
しかしその事をイクト自身は知らない。
「えーと……イクト君。とりあえずクエストは完了です。これから冒険者として頑張って下さい。」
ティーが唖然としながらもその言葉を口にするのが精一杯であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます