第7話 混世大災

混世大災こんせたいさい


 地球に六つの星、六つの異世界が同時に混ぜられた事により起きた、大災害。


 一度に、一斉に混ぜられた影響で、地球には大規模な拡張が起こった。簡単に言えば、地面が一気に広がったのだ。

 同時に、最初に混ぜらていれた星。その異世界の影響で地球に生まれていた迷宮ダンジョンも又、広がった。


 混世大災の一番の被害は、行方不明者の多さ。


 レンとカノン曰く。俺はそれに巻き込まれた、行方不明者。生き残りなのでは?との事。


 なぜ、疑問系なのか。


 レンとカノンはその混世大災について、学院で教わっただけで。体験もしていなければ当事者達に会った事もない為、詳しくは解らないのだと言う。

 多分合っているだろうと、予想で話をしていると、教えてくれた。


 見た目からして、二人の年齢は十五から十八歳くらいだろう。多く見積もっても二十歳くらい。

 学院とか言っていたし、高校生・大学生で間違いないだろう。


 俺がダンジョンで迷って、少なくても十年以上は経っている筈。

 その頃の二人はきっとまだ幼い子供で、ひょっとしたら生まれる前の話になるのかもしれない。

 そう考えると、そんな感じになってしまうのは仕方がない事だろう。


 というか。


 女子高生でダンジョンに来てるなんて、お金にでも困っているのだろうか?何か事情もある感じだった。

 学生でお金の心配をしなければいけない世の中だなんて、世も末だ。


 逸れ始めた俺の考えを正すように、レンは話を続けた。


「混世大災で世界が広がった際、ダンジョン内部に居て助かった人が残した言葉が。『大きな揺れが起こり、天井や地面は歪み、直ぐ近くに居た隣人が遥か彼方へと消えていった』だとか」


 そんな事、あったか?

 憶えていない。


 というか。ダンジョンに入ってから迷子になる迄の間、その間の記憶が思い出せない。

 迷子になってからの記憶も、ところどころしか思い出せない。


 頭が、体が、思い出す事を拒否しているのかもな。


「シンさんがダンジョンここに来た時には、まだ三種の能力スキルはなかった。若しくは、知られていなかったのよね?」

「ああ。誰も知らなかったと思うし、そんな話は出ていなかった。使ってる奴も、見た事ない」


 少なくとも。このダンジョンに入る前に集められた大勢は、全員知らなかったんじゃないかと思う。


 みんな、自分の能力スキル自慢で夢中にはなっていたけれど。三種の能力スキルについては、誰も触れていなかった。

 そもそも三種の能力スキルの内の一つである【異空間収納】があれば、みんなあんな大きな荷物や鞄なんか用意していなかっただろう。


 あの時は、俺も含めて全員が大荷物だったと記憶している。


「三種の能力スキルは混世大災が起きた後、神と名乗る何かが付与した能力スキル。『軽い手違いのお詫びとして、未来永劫全員に付与する』って、言っていたらしいわ」


 神と名乗る何かから、二回目の接触コンタクトがあったのか。

 初耳だ。


 いや、そんな事よりも。


 レンがさらっと発した言葉に、俺は引っかかった。


「“軽い手違い”、だと」

「そう、言ったみたいね」


 なるほど。


 話を聞く限り。俺が迷宮を、ダンジョンを彷徨う羽目になったのは、間違いなくその“軽い手違い”という“失敗”の所為じゃないのか。


 俺は、怒りが込み上げて来た。


 詫びと言うのなら。元に戻すか、被害を被った人達に償うべきだろう。

 詫びと言いながら自分勝手に決め、自分勝手にそれで良しとし、自分勝手に終わりにしてるのか。


 今現在も、こうして被害を被っている奴はいるんだぞ!


 俺の怒りは溢れんばかりだ。

 実際、怒りそれは圧となって周囲に溢れかえっていた。


「ちょ、ちょっと……」

「……ん」


 レンとカノンが息苦しそうにしている。


「悪い、な」


 そう言いつつも、俺は怒りを殺す事ができない。


 【自己強化】をかけて思い切り壁を殴りつける。

 力を一点集中させて殴った為、ポッカリと綺麗な洞窟サイズの穴が出来上がった。


「ちょっと。この中に、入っててくれないか」

「「えっ?」」

「頼むよ」

「わ、解ったわ」

「……ん」


 二人は突然の俺の怒りと提案に困惑しながら、出来上がった穴の中へと入っていった。


「ああ、ムカつく。腹が立つ。腸が煮えくり返る」


 俺は二人が近くに居なくなったところで、周囲に怒気を撒き散らす。

 遠慮なく。


 抑える事をしない俺の気配に反応したモンスター達が、多数こちらに向かって来るのが解る。


 普段なら、絶対にこんな危険は冒さない。


 けれど今の俺には、感情を抑える事が難しかった。


 頭の片隅でしっかりと。モンスターが問題なく倒せるのを判別しながら、更に遠慮なく怒気を周囲にぶち撒ける。

 油断をしなければ、イレギュラーがなければ、問題なく倒せるモンスター奴らばかり。


 今は何かに、この怒りをぶつけたい。


 倒したところで誰にも迷惑がかからない、こちらを襲ってくるモンスター達がちょうど近くにいるんだ。

 モンスターに恨みはないが、悪いが八つ当たりさせてもらうとしよう。


 選り好みもしてないし、ちゃんと俺も命を賭けるんだ。

 許してくれ。


「俺のストレス発散と、ついでにここら一帯の駆除も兼ねて。全部叩きのめす」

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