第6話 反省

[イビルラプトルの尾]


「なるほど。アイツら、イビルラプトルって名前なのか」


 倒した恐竜型モンスターのドロップアイテム。それに【鑑定】の能力スキルを使った俺は、今更ながらに顔見知りとなっていたモンスターの名前を知った。


 それはそれとして、この【鑑定】という能力スキル。なるほど。実に面白いな。

 まるでゲームの中にいる様だ。


 昔やっていたゲームの事を思い出し懐かしい気持ちになりながらも、新しい能力スキルの新鮮さが楽しい。


 俺はドロップしたイビルラプトルの尾を尻目に、二人のところへと戻る。


「話は終わった?」

「え、ええ。というか。貴方って強過ぎじゃない?」

「……私も。そう思う」

「いやいや、そんな事はない。単純に戦闘の相性が良くて、闘い慣れている相手なだけだから」


 二人は信じられないモノを見る眼で、俺を見てくる。


「アイツらは数で押してくるのが強みだから。十体以上集まっていなければ、そんなに苦労はしないと思う」

「そう……かな?」

「……信じられない」

「そうだって」


 そんな事よりも、俺は話合っていた内容の方が気になっている。


「それで、話してたのはなんだったんだ?」

「あ、ああ。そうね。少しショックな話かもしれないんだけど、落ち着いて聞いて」


(なんだなんだ?)


 前置きをされると怖いんだが。


(おっ、と)


 俺はモンスターの気配を再び感じ取る。

 これは恐竜型モンスター、イビルラプトルじゃないな。


「とりあえず、移動しよう」


 俺は進行する方角を指差す。


「どうしたの?」

「モンスターの気配が近づいてきてる。歩きながら、話を聞かせてくれないか」

「解った」

「……ん」


 俺達三人は、ダンジョンを進み出す。


「そういえば。ドロップアイテム、拾わなくて良かったの?」

「ああ、アレ?」


 レンが言っているのは、イビルラプトルの尾の事だろう。三つ、同じ物をドロップした。

 拾わなかったのは変だっただろうか。


 俺は正直に、拾わなかった理由を伝える。


「荷物が増えても、邪魔なだけだから」

「「えっ?」」

「……。えっ?」


 二人して、どうしてそんなに驚いた顔をするんだ?

 間違っていないだろう。


 俺はパンツ一丁パンイチ

 レンとカノンも装備はしっかりしていても、あの大きさの尾が入る鞄は持っていない。せいぜい、ポーチ程の鞄が腰に幾つかあるくらい。

 迷子になっている今、あれを持ち運びながらの行動は危険だと思うんだが。

 今の俺達には尾のアイテムが必要だとは思えないし、邪魔になるだけ。


 どう考えても、間違っていない判断をしたと思う。


「その。【異空間収納】の能力スキル、使えば良かったんじゃ」

「……。な、なるほど。確かに」


 完璧に失念していた。

 つい先程、聞いたばかりなのに。


 話の通りの能力スキルなら。直ぐに使用しない物や大きな荷物、ドロップアイテム等はそこに収納してしまえば邪魔でもなんでもない。

 問題なくなる。


 何て事だ。落胆してしまう。


「ず、ずっと知らなかった訳だから。まだ聞いたばかりで、試してもなかったし。馴染んでないだけだから、仕方ないわよ」

「あ、ああ。そう……だな」


 励ましてくれて、どうもありがとう。


 終わった事だ。落ち込んでいても、仕方がない。どうせ直ぐに、同じ物はドロップするだろう。

 アイツらは、本当に数が多い。どうせまた鉢合わせる。


 失敗から学んでいこう。


 探索者として、自分の能力スキルの把握は基本中の基本。新しく知った能力スキル。できるだけ早めに、頭や体に馴染ませないと。

 何がいつどこで使えるかは、解らないんだから。


 癖づけていかないとな。

 反省。


「次は、忘れない様に気をつけておくよ」

「頑張って!ところで。その」

「ん?」

「ドロップアイテムは、何だったの?」


 興味津々に、レンが尋ねてきた。

 キラキラした眼からは、ドロップアイテムそういうのが好きなんだという気持ちが伝わってくる。


 レンはどうやら宝探し人トレジャーハンター気質の様だ。


「イビルラプトルの尾が三つ」

「「えっ!?」」


 なんだ?まだ何かあったのか?


 レンに続いて、カノンも驚いた顔を見せている。


「どうした?」

「と、取りに戻ろっ!」

「……うん」

「いやいやいや。いらないから」


 俺は二人に。イビルラプトルは数が多いからまた闘うだろうと、同じ物はまた手に入るだろうと。今戻ったら別のモンスターと鉢合わせるから、危険だと伝える。説得する。

 わざわざモンスターの尻尾を拾う為に、そんな危険を冒す真似はできない。必要ない。


 諦めてくれ。


「うぅ。勿体無い。それに……」


 肩を落としながら、レンはカノンに視線を送る。


「大丈夫。まだ、問題ない」

「それなら良いけど」


 二人にも何か事情があるのか?

 繊細な話かも知れないので、ここは気づいてない振りでもしておこう。


 それよりも。


「俺がショックを受けるかも知れないって話。何の事か、聞いても良いかな?」

「あ、ああ。ごめん。それね」

「……ん」


 二人は真剣な表情で話始めた。

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