第3話 迷子が増えました

「本当に助かりました。ありがとうございます」

「……ありがとう、ございます」


 無事に誤解が解けた様で、本当に良かった。


 あの後。俺は不審者ではないと、露出の趣味はないと。パンツ一丁パンイチなのはかなりの日数、ダンジョン内を彷徨っているせいだからだと説明した。

 合わせて恐竜型モンスターからドロップした牙を使って、身なりを少し整えたのも良かったんだろう。

 牙で整えたからバッチリとは言えないが、後ろの方の髪はまだ長いままだし。髭も剃り残しはあるものの無精髭くらいにまでは整えた。


「俺は探索者で、一ノ宮いちのみやしん。気軽に、シンって呼んでくれ」


 俺は右手を差し出し、握手を求める。


「えっ……と。どうも」


 俺に剣を突きつけてきた活発そうな女性の方が、不思議そうな顔をしながら手を握り返してきてくれた。


 何か、変な事でも言ったか?


 自己紹介をしただけなんだが。


 もう一人の方は、一歩下がってこちらの様子を眺めている。ダンジョンには不向きそうな、大人しめの雰囲気の女性。


「私は先に導く者ガイドの、烏森からすもりれんです。レンと呼んでください」

「レンさんね。了解(先に導く者ガイドってなんだ?)」

「こっちの女性は、私の依頼主兼魔法を使う者ウィザードの……」

「……みなと歌音かのん

「よろしく、ミナトさん(魔法を使う者ウィザード?)」

「……私も。カノンで」

「わかった。よろしく、カノンさん」


 三者の自己紹介はこのくらいで良いだろう。

 俺は早速、本題に入りたい。


「それで、もし二人が良かったらなんだけど。俺をダンジョンの外に、一緒に連れて行ってくれないか?」

「「……えっ……」」


 反応的に駄目そうか。

 困った顔で、お互いに顔を見合っている。


 それはそうなるか。

 出会ったばかりでよく知らない男性やつが、いきなり一緒に行動を共にしたいなんて言ったら、女性なら当然警戒する。


 しかし、安心して欲しい。

 第二案。


「いや、別に一緒じゃなくても良いんだ。俺はダンジョンから脱出できたら、それで良いんだから。だから、出口までの道順を教えて欲しい」

「「……」」

「お願いします!」


 俺は両手を合わせ、地面に膝を突き、土下座をする。


「お願いします!」

「「……」」


 ダメ……か?

 せめて、方向だけでも教えてください。

 本気マジでお願いします。


「あの……。言い難い事なんですが……」

「お願いします!」


 俺は姿勢を崩さず、身動きせず、誠心誠意頼み込む。


 せっかく掴んだ好機チャンス、希望、頼みの綱なんだ。

 本気マジでお願いします。


「私達も。帰り道、解らないんです」

「……ごめんなさい」

「……。えっ?どういう事?」


 その言葉に。俺は顔を上げ、二人を見た。


「えっと。じゃあ、どうやって此処へ?」

「私達、転移の罠にかかったんです。それで飛ばされて、此処へ」

「転移の罠?」


 罠なんて、そんなものがダンジョンには存在してたのか?俺は見た事も体験した事もなかったから、知らなかった。

 どうやら知らないところで幸運だった様だ。

 本当に幸運だったなら、脱出できてそうな気もするんだが。


 とりあえず、幸運かどうかの話は置いておこう。


「だから、此処がどこかも解らないので。出口に関する事をシンさんに教えるのは正直、難しいです」

「……」

「そ、そうか」


 なんてこった。

 彼女達も、迷子になってしまったのか。


「すいません」

「いやいやいや、君達は何も悪くない。気にしないでくれ」

「でも……」


 知らず知らず。俺は肩を落として、薄っすら涙を浮かべてしまっていた。


「あ、ああ。大丈夫。本当に、気にしないでくれ」

「そう……です、か」

「……」

「ああ!」


 俺は二人に心配をかけまいと、軽く目を擦り元気に返事をする。


 気づかない内に、気を緩めてしまっていたんだろう。

 まだダンジョンを脱出できると決まった訳でもなかったのに、脱出した訳でもなかったのに。


 二人には余計な心配をかけてしまったな。

 申し訳ない。


 俺はダンジョンから脱出したその瞬間まで。今後は気を抜かないと強く心に決め、立ち上がる。


「いや。本当にすまない」

「いえ」


 これ以上、この話を続けるのは良くないな。切り替えていこう。

 

「二人は今後、どうするんだ?」

「シンさんと同じです。ダンジョンから脱出したいので、出口を探します」

「……うん」

「そうか。お互いに頑張って、此処ダンジョンから脱出しよう。必ずできるさ!」


 先程からの暗い雰囲気を打ち消す様に、俺は二人を励ましていく。


「因みに。俺はあっちの方角から来たから、あっちには何もなかったよ」


 ちょっとしたアドバイスも添えて。


「あ、あの……」

「ん?」


 レンが何か言いたそうだ。


「私からも、シンさんに聞きたい事があるんですが」

「聞きたい事?」

「はい」


 なんだろう?


 俺に答えられる事なんて、そう多くはないと思うけど。

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