第15話 拒否権、頂戴しますっ
テスト週間が始まり、内半分のテストが終わった。
しかし、結仁の生活はさらに忙しくなっていた。
勉強に追われる毎日が続いていたためである。
茉白も同じように忙しそうで、結仁の家に来てくつろぐ時間が少し減っていた。
放課後、結仁は図書館で勉強をしていた。
数学の問題に頭を悩ませながらも、真剣に課題に取り組んでいた。
そんなとき、ふと周りを見渡すと偶然で茉白が図書館にいることに気づいた。
茉白は一人で勉強しているようで、真剣な表情でノートに向かっていた。
結仁は、彼女に声をかけるべきか迷ったが、結局そっと見守ることにした。
茉白がふと顔を上げて周囲を見回すと、茉白の目が結仁と合った。
「上田くんもここにいたんですね。」
茉白は静かに立ち上がり、結仁の席に近づいてきた。
「東雲もここで勉強中だったんだな。さすが学年一位。頑張ってるな。」
結仁は微笑みながら言った。
「はい、あと少しで終わりますし、少しも油断せず良い成績を取りたいと思って。」
茉白は頷き、結仁の隣に座った。
前回も学年1位にも関わらず、驕らず謙虚な姿に感心した。
しばらく隣り合わせで勉強していると、
「いいこと思いつきました」
希望に満ちた顔で言う。
「お勉強、一緒にするというのはどうでしょう?」
茉白は結仁に提案した。
「えっ、良いのか?俺、分からないところだらけで東雲の勉強の邪魔に…」
結仁は驚き、申し訳なさそうに言った。
「邪魔だなんて、、たまには私の事を頼ったらどうですかー?私、勉強には自信があるんです」
ニコッと笑うと顔の横にピースを添えた。
「私も教えながら勉強した方が早く身につきますし、」
「いや、でも…」
「上田くんに拒否権はありませんっ!今分からないところだらけなんですよね!では、今教えます!」
「拒否権、ないのかよ…」
結仁は茉白に押し切られた。
…結仁に拒否権はないらしい。
グイグイと茉白が結仁に近づく。
結仁のすぐ横には茉白の綺麗な純白髪をした頭が。
ほんのりと甘い香りがする。
「どれどれ…この数学の問題ですか」
「はいっ、そうです…」
結仁は緊張した。
「なぜ急に敬語を…?とにかくですね、ここはこの公式を使ってですね…、このように解いてあげるんです。これはこうして……」
素が不器用な割にとてもわかりやすい説明だった。
茉白は結仁のノートに手順を綺麗な丸文字で書き込んでいく。
自然と茉白の柔い肩が結仁の腕にもたれる。
次第に茉白は問題を解くのに夢中になり体を乗り出し始める。
「ちょっ…」
結仁は情けない声を出すも虚しく、茉白はルンルンで問題を解いている。
とうとう結仁のノートは茉白の純白髪の頭で見えなくなり、茉白はほぼ結仁の体の上で筆の動きと連動して動いていた。
結仁は顔を赤らめて恥ずかしそうに茉白の肩をトントンと叩き、
「…東雲、み、見えない…」
「あっ、ごめんなさい。とりあえずですね?、これはこうするんですよ。」
結仁は、振り返って結仁を見つめる茉白の目を見つめる。
「上田くん、私じゃなくてノートを見てください」
結仁は照れて、バッと目を逸らしノートに目をやった。
「そっ…?!そうだなっ!す、すまん…」
ノートには綺麗な丸文字で公式や説明書きがされている。
どれもわかりやすい。
しかし、まだ茉白は結仁の至近距離。
集中出来るはずがない。
「理解、出来ましたか?」
結仁の顔の前で首を傾げる茉白。
そんな茉白に一瞬目をやり、逸らす。
「わっ、分かったよ、理解した理解したっ!」
「その反応!理解出来てませんね??」
「いやっ…」
「上田くんが理解するまで続けますからね」
少し強目に言った。
またノートに書き込もうとする茉白に
「ちっ、違うんだ、」
結仁は口を開く。
「…?」
茉白の息遣いが分かるほどの至近距離で茉白は疑問そうに結仁の顔を見つめた。
「東雲…。あの…、近すぎる…んだが…。。」
茉白は少し時間を空け理解したのか、わっと乗り出した身を引っ込め顔を真っ赤にした。
すると、手で顔を覆い机に突っ伏した。
「…っ!!!ごっ、ごめんなさいっ…!夢中に、、なりすぎてました…っ」
結仁も少し顔を火照らせ目を逸らしながら言った。
「…悪気なかったのは知ってたし、な、なんか、悪いな…」
気まづい雰囲気が流れたが、それを切るように茉白が口を開く。
「…でも、この問題、理解していただけましたか、?」
結仁はノートを見つめ直し、静かに頷く。
「…東雲、説明上手いな」
少し間を空け、
「…分かりやすいよ」
すると、しきりに茉白の表情は明るくなった。
「じゃあ、こっちの英語の問題も頼んでいいか…?」
結仁は茉白の目を見て頼んだ。
茉白は嬉しそうに頷き
「はいっ!任せてください!」
と手で軽く拳を握り、決意に漲った声で言った。
二人の勉強は順調に捗り、茉白に教えてもらう度に結仁は次第に理解を深めるのだった。
茉白は結仁が苦手な箇所を理解するたびに嬉しそうな表情になり、結仁の心が温まった。
やがて、図書館が閉館する時間になり、二人は帰ることにした。
二人は並んで歩き始めた。
「今日は本当に楽しく勉強出来ました、上田くん。ありがとうございますっ」
茉白は何気なく感謝の気持ちを込めて言った。
「いやいや、俺の方が助かりすぎたくらいだ。一緒に勉強できて良かったよ。分からないところもできるようになったし」
結仁は素直な気持ちを伝えた。
少し歩く。
茉白は夢中になると、無敵になるらしい。
そして、茉白の前では俺に拒否権はないらしい。
結仁は今日も口をつく。
「東雲。今日は何を食べようか」
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