第14話 特別と好き



午後7時12分。


涼と志穏が帰った後も勉強を続けていた結仁は、茉白が来るのを待っていた。


\ピンポーン/


インターホンが鳴ったので、結仁は玄関へと向かう。

ドアを開けると茉白がいた。


「こんばんは」


茉白は微笑みながら挨拶する。


結仁もそれに返すように笑顔で答えた。


そして二人はリビングへと向かった。


「今日は勉強会でしたよね!勉強、捗りましたか?」


茉白はそう言ってソファに座ると結仁がさっきまで開いていたノートを見る。


結仁もその隣に座って、自分の問題集を開く。


「う〜ん……まあまあかな」


「ほう、なら今日はどんな勉強をしました?」


茉白は問題集を見ている結仁の顔を覗き込む。


「えっと……」


茉白が顔を近づけてきたので、少しドキッとした。そして顔が熱くなるのを感じた。


それを悟られないようにしながら結仁は答えた。


「……こんなのとか」


そう言ってノートを指さす。


そこには英語の問題文と結仁の解答が書かれていた。


応用問題ばかりで、多少間違っているところもあったがほとんどが正解している。


それを見た茉白は少し驚いた様子を見せる。


「よく頑張りましたね、えらいえらい」


茉白はそう言って結仁の頭を撫でる。


その行動にまた照れてしまうが、同時に嬉しかった。


「……やめろやめろっ!」


結仁は照れ隠しのために素っ気なく返す。

しかし内心ではとても喜んでいた。


そんな結仁の頭の中に涼の言葉が過る。



…「結仁って、東雲様に興味と言うか、は持ってるのか?」


茉白に好きという感情。

つまりは恋愛的に好きかどうかだ。


結仁は深呼吸をして茉白を見た。


「…東雲。」


「…?はい!なんですか?」


茉白の綺麗な金眼が結仁の目を貫く。


薄群青に光沢する白髪に白い肌に柔らかいタッチで弧を描く眉、長い睫毛。

エメラルドに反射する金眼を隔てるように伸びる形のいい鼻筋。

あどけなく甘い表情を作り出す小さな口。


目の前に立つだけで夢のように思わせる程の力を持つ茉白は、見れば見る程魅力的に感じる。


真面目に見ると茉白は本当に容姿が良すぎる。


きょとんとした表情に加えて首を傾げている茉白を見て、結仁はすぐ思った。


好意は寄せてる。

しかし、それは恋愛感情ではなく、ただ茉白を放っておけないだけなのだと。


結仁は大きく溜息をつくと口を開いた。


「…ったく、急に撫でるなよな?こんなのされたら誰でも好きって勘違いするだろ」


「じゃあ上田くんは勘違いするんですか?」


茉白は笑顔で聞く。


「…しないよ。2回目だし、もう慣れた」


少し呆れたように言う結仁。


「上田くんが大丈夫なら大丈夫ですねっ」


茉白はにっこりと微笑んだ。


「それに、こんなことするのは上田くんだけですからねっ」


茉白は悪戯に笑う。


「…そうかよ」


結仁は嬉しそうに、目を逸らして言った。


「…じゃあ、俺は夕飯の支度するから、今日はくつろいで待ってろ」


「ではお言葉に甘えてっ」


そう言うと茉白はソファに目掛け、小走りに駆けて行った。



--------



「ほんっと、東雲って美味そうに食べるよな」


料理を頬張る茉白を見て言う。


「だって、上田くんが作る料理が美味しすぎるんですもんっ!」


茉白は満足気に言う。


「…あっそう」


そんな茉白に少し嬉しさを感じつつもぶっきらぼうに返す。


そして自分の料理を食べ始める。


しばらく静かに食事が進む。



しばらくして、ふと勉強会での出来事を振り返り結仁は思ったことを口に出した。


「……なあ」


「はい?何ですか?」


茉白は首を傾げる。


「お前って俺のこと怖くないのか?」


そう聞くと茉白は不思議そうな顔をした。


どうやら意味がよくわかっていないらしい。


結仁は少し考え込んだ後、再び口を開いた。


「……いやさ……俺、目つき悪いし言葉遣いも荒いだろ?」


「はい、そうですね」


茉白はあっさり答える。


その反応に結仁は顔をしかめる。


そんな様子を気にせず、茉白は続けた。


「ですがそれがどうかしたんですか?別に気にすることでもないと思いますけど……」


「……そうか……」


「それに私は上田くんの目好きですよ!カッコいいじゃないですか!」


茉白はそう言って笑う。


その言葉に思わず照れてしまうが、すぐに平静を装う。


「……やっぱり、この話は無しだっ」


結仁はそう言って片付けに戻る。


茉白はそんな結仁の様子を微笑みながら見ていた。



午後9時36分。


しばらく勉強を進めていると、


「じゃあ、そろそろ帰りますね」


茉白がそう言って立ち上がる。


結仁もそれに続いて立ち上がった。


玄関まで一緒に行き、茉白は靴を履く。


扉に向かって歩き出したかと思うと、急に茉白は振り返った。


「いつも本当にありがとうございますっ」


「…急に改まってどうした?」


「いえ、別に何もありませんが」


すると、儚げな表情を見せた。


「上田くんって無愛想ですけど、頼り甲斐があって何より優しくて、」


突然、とびきりの笑顔を見せて結仁に言った。


「そんな上田くんのことが好きですよっ」


結仁は茉白の純粋無垢な表情を見てすぐに理解した。


この好きは恋愛感情じゃない。


"特別"


結仁のことを信頼した結果だ。


結仁は嬉しそうに笑った。


「…そうかよ。とにかく、明日からのテスト、頑張ろうぜ」


「はいっ!」


茉白は嬉しそうに返事をすると、手を振って家を出た。


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