第11話 また明日



「東雲じゃん。おかえり」


結仁と茉白はマンションのロビーで偶然鉢合わせた。


茉白はまだ制服姿だ。

帰宅途中だったのだろうか。


「あ、上田くん。おかえりなさい。丁度上田くんの家に帰ろうとしてたんですよ」


茉白はニコッと笑う。


そのままエレベーターに乗り込み、結仁の家に一緒に帰った。


結仁は鍵を開け扉を開けると茉白はそそくさと家に上がり、


「お邪魔します」


と言って靴を脱ぎ揃える。


すると小走りでリビングに向かった。


そんな後ろ姿を見て結仁は少し微笑んだ。


そして結仁も家に入り、リビングに行くと茉白がソファに寝転がりくつろいでいた。


「ただいま〜…って東雲、帰ってきて早々くつろぎ過ぎだろ……」


呆れながら言った。


すると茉白はクッションに埋めていた顔を結仁の方に向けて笑いながら言った。


「えへへ……いいじゃないですか。今日も少し疲れましたもん」


そんな様子を見て結仁は優しく微笑んだ。


そして結仁が台所で夕飯の支度をしていると茉白がやって来た。


「今日も何か手伝えることありますか?」


少し申し訳なさそうに言う茉白に結仁は答える。


「じゃあ盛り付けの野菜切ってくれるか?」


すると茉白は嬉しそうに笑った。


「はい!」


慣れない手つきで包丁を握り、ゆっくりと野菜を切っていく茉白。


「…ちょっと厚くしすぎたかも…?あれ、薄くなっちゃった…」


ボソボソと独り言を言う茉白。


結仁は茉白の手つきを見て不安になりながらも、そのまま料理を続けた。


「そういえば、今日は何作るんですか?」


茉白が聞くと、結仁は少し照れくさそうに答えた。


「それは出来てからのお楽しみってことで」



そして二人は夕食を作り終えた。


二人で食卓につくと、結仁が先に手を合わせた。

それを見て茉白も真似るように手を合わせる。

そんな二人を見て思わず笑ってしまう結仁。

そして二人は同時に言う。


「「いただきます」」


そして食事が始まった。


結仁が作ったのはハンバーグだ。

それを口に運ぶと、茉白は目を輝かせた。


「美味しいです!とっても!」


茉白は興奮気味に言った。


結仁はそんな姿を見て笑う。


「ほんと、東雲って美味しそうに食べるよな」


また料理を口に運ぶ。

茉白はさらに目を輝かせた。


「…このまま料理まで覚えたら、俺もお役目御免か」


結仁は茉白を儚げに見つめる。


「…私に料理ができるとでも…?」


聞こえていたらしい。

茉白は怪訝そうに結仁の目を見つめた。


「それに、私が一人前になっても恩返しがまだなので、その時は覚悟しておいてくださいねっ」


茉白が悪戯っぽく笑う。

そんな茉白を見て結仁は嬉しそうに目を逸らす。


「…そうかよ」



他愛のない会話をしながら二人は食事を進めるのだった。


そして食器を片付けると、二人はソファに座る。


「外、だいぶ寒くなりましたね」


茉白が窓の外を見ながら言う。


「そうだな」


結仁は茉白に視線を移す。


「もう11月だからな」


「それに…テスト、ですね…」


茉白は少し嫌そうな顔をした。


(東雲でもテストは嫌なんだな)


結仁も心の内で共感した。

なぜなら、結仁の通う高校は地域の中で唯一の進学校であり、決して一筋縄ではいかないテストばかりであるためである。


そして試験で50位以内に入ると学校の掲示板に貼り出されるのだ。


結仁は少しばかり意外に思い軽く言った。


「どうせ東雲の事だし、学年一位なんだろ?」


茉白は少しムッと頬を膨らまし結仁の方を見た。


「簡単に言わないでくださいっ。かなり大変なんですよ…?」


「それはそうだろうな」


結仁は微笑んだ。

茉白の表情と言葉に日頃の努力を感じた。


「でも、そんな上田くんだって、50位以内じゃないですか」


茉白は結仁を見つめる。

その目は光のハイライトが綺麗に入り純粋さを際立たせている。


「…まあな。」


当然と言わんばかりの顔で頭を掻きながら言う。


「50位以内に入り続ける事が、一人暮らしをする条件だからな」


「…それじゃあ!今回も頑張らないとですね!」


茉白はそう言うとにっこりと笑った。


すると思い出したように口を開いた。


「あっそういえば。今週末は俺の家で勉強会することになったんだけど…」


茉白は嬉しそうに笑顔で言った。


「そうなんですね!楽しんでください!」


少し考える素振りを見せ、すぐに結仁の方を見る。


「…じゃあ、その日は私7時ぐらいに来ますねっ」


薄群青に光る純白髪を揺らしながら、結仁を見ると笑った。


話が早い。と思いながら結仁は口を開く。


「じゃあ、そういう事で」




時計の針は午後7時30分を指している。


茉白はゆっくりと立ち上がり、


「今日も早めに帰ります。…勉強頑張らないと…!」


静かに意気込んだ。


「…それにまだ互いに制服姿ですし」


「…確かに」


結仁は茉白を姿を見ると自分の服装を確認するように見た。


「じゃあ、私はこれで」


「おう、また明日な」


「はい!」


茉白を玄関まで送ると手を振って別れた。


また明日だって…。なんて思いながら恥ずかしそうに手を振った手を下ろす。


(また明日があるなんて贅沢だな。)


結仁は一人部屋の中で嬉しそうに笑った。


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