第8話 学生の本分



「んっ……」


結仁は目を覚ます。


いつもは目覚まし時計が鳴る前、10分前の午前5時20分にお弁当を作るため目を覚ます。


しかし、今日は目覚まし時計を見ると午前7時。


(完璧に寝落ちてた…!)


始業は午前8時30分で余裕があるが、お弁当を詰めている時間は無い。


「やばっ……寝過ぎた」


フローリングの床の上で、上半身だけベットにうつ伏せ状態の体勢から慌てて飛び起きると、目の前で寝ている茉白が目に入る。


「……ん?あれ……?」


寝ぼけた頭では状況の理解が追いつかない。

夢かと思い、結仁は目を開閉しながら目を凝らした。


すると、茉白の瞼がゆっくりと開く。


「んー……?あ、上田くんおはようございます……」


まだ眠そうに言う。

そして、可愛らしく欠伸をしながら言った。


「あ、上田くん……もしかして私……」


茉白が顔を真っ赤にしながら言う。


「……ああ、昨日俺がベットで寝かせたんだよな」


結仁は苦笑いして答えた。


「寝ちゃってたみたいですね……」


すると茉白は少し恥ずかしそうに言った。


「あの……その、ご、ご迷惑を……」


辛うじて開いた目を擦りながら茉白はゆっくりと頭を下げた。


「いや別に大丈夫。それに俺もいつの間にか寝てたし」


そう言うと茉白はまたゆっくりと頭を上げ、少し眠たげな顔つきで安心したように笑った。


「…こうしてる場合じゃない!色々やってたら遅刻するぞ!」


「…えっ?今何時です…?!」


「もう7時10分だって…!」


結仁は茉白の腕を引っ張り上げながら慌てて支度するように指示した。


茉白は一旦自分の家に戻り、登校の支度を済ませる。

結仁は登校の準備を朝食の準備も合わせて器用に行った。


そして結仁の家で合流し、二人は朝食を一緒に食べた。


こればかりは仕方が無いので、茉白と一緒に周りにバレないように遅く登校した。


ひと段落付き、朝休みを経て結仁は授業を受けていた。


すると隣の席の涼が小声で話しかけてきた。


「なあ結仁。お前、今日遅刻ギリギリに来たけど顔色良いし、朝からなんかいい事あった?」


涼はニヤニヤしながら言う。


「ああ……まあ」


結仁は少し恥ずかしそうに言った。

すると、涼がさらに続ける。


「ふーん?もしかして東雲様となんかあったとかー?」


結仁は内心とても驚き、涼を見る。


「…っ?!バカ言うな。あれっきりだよ」


すると、涼はニヤリと笑う。


「ほんとかなー?」


「ほんとだ。」


すると涼は結仁の肩をポンと叩くと言った。


「ま、いいや!明日からこんな遅刻ギリギリに来るなよっ!」


涼は明るく屈託のない笑顔で言う。

そんな涼を見て、思わず静かに笑ってしまう。


キーンコーンカーン……


授業終了のチャイムがなり、号令と共に授業が正式に終わった。


次の時間は選択科目だ。


結仁は、涼と志穏とは違う選択教科を取っているため教室が違う。


「よしっ!俺あっちの教室だから、じゃあまた後でな」


「私もあっちだから!」


そう言って教室を出る、涼と志穏に結仁は軽く手を挙げて応えた。


そして授業を受け、結仁は昼休みに入った。


昼食の時間。


今日の結仁にはお弁当が無いため購買に昼食を買いに行った。


今日は一段と混み合っている。

すると、結仁は後ろから肩を叩かれる。


「よっ!結仁!さっきぶりっ!」


振り返るとそこには涼がいた。


「おう」


軽く手を挙げて応えると、涼は嬉しそうに笑った。そして二人は一緒に列に並ぶ。


「お前が購買だなんて珍しいな。いつも美味しそうな弁当なのに」


涼が言う。


「確かに、そうだな」


結仁は軽く返すとすると今度は志穏が来た。


「お、結仁だ!わーい!」


志穏が結仁に抱きつく。


「……ちょっ…危ないだろ」


「ごめんっ躓いちゃって!」


志穏はふざけて言った。

結仁はいつものノリに合わせて対応する。

そんな結仁を見て二人は笑った。


そして無事昼食を買い終えた三人は中庭のベンチに座った。


購買で買ったパンを開ける。


「あ!そのパン美味しいよね〜」


志穏が結仁のパンを見て言った。

結仁が買ったのはカツサンドだった。

すると、涼もそれに同調したように言う。


「確かにそれ美味いよな!でも俺はこっちの焼きそばパン派だなー」


涼は片手に焼きそばパンを掲げながら言った。

そんな涼を見て二人は笑った。


そして三人は昼食を楽しんだ。


午後の授業も終わり放課後になった。


結仁は帰る支度をして教室を出る。


昇降口には涼と志穏が靴を履き替えて待っていた。


「結仁おそーい!」


志穏が指をさしながら言った。


「悪い。ちょっとな」


すると、志穏が涼の袖を引っ張る。


「ねえ!今から三人でカラオケ行かない?」


「おお!いいな!」


涼は乗り気だ。


しかし結仁は少し考えて言った。

テスト期間ももう少しで始まる。


「……ごめん、今日はやめとくよ」


志穏と涼は残念そうに、


「そっか……じゃあまた今度ね!」


そんな二人を見て結仁は申し訳なくなった。


「ああ……ごめんな」


そして三人は別れた。結仁は帰り道を歩いていた。


すると、後ろから声がした。


「あれ?上田くん?」


少し驚いた様子で言う茉白。


「あっ……。東雲か」


と結仁も返す。

そして茉白は結仁の隣を歩いてきた。

そのまま二人は無言のまま歩く。


しばらく歩いていると茉白が口を開いた。


「あの……今日は上田くんの家でご飯食べたら私の家で勉強します」


その言葉に結仁は小さく頷き答える。


「ああ……俺もそのつもりだよ。もうすぐでテスト期間だしな。」


そんな話をしているといつの間にか家の前に着いた。


今日もガチャリと音を立ててドアを開け、二人同じ宿の下に帰宅した。

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