第7話 曇り後、晴れ。
「…なあ、東雲。」
今日も結仁の家に夕飯を食べに来た茉白。
結仁は食器の水分を拭き取りながら、夕飯後の独特な温かい雰囲気が漂う中、ソファでくつろぐ茉白の背中に問いかけた。
「はい?なんでしょうか?」
「…改めて聞くけど、どうして俺なんか頼ってくれてるんだ?」
少しばかり、真剣に聞いた。
急な事に茉白は驚き、
「…もう、何を言い出すかと思えば…。声が暗かったので心配しましたよ…」
と茉白は少し心配そうに溜息をついて言った。
少し考えると、
「そうですね…、なんとなくでしょうか」
「なんとなくってなんだよ…。ったく…いつも思うが、俺が変質者だったらどうしてたんだ…」
結仁は食器の片付けを終え、茉白の隣に腰かけた。
「それは絶対ないって、信頼してるって言ったじゃないですか」
茉白は結仁に向かって白い頬を少し膨らましてムッとなった。
「いや、それとこれとは別だろ」
「…上田くんは変じゃないでしょう?それで良いんですっ!」
茉白は強目に言う。
「はいはい、分かったよ。」
結仁は軽くあしらい、ソファの肘掛けに頬杖をついた。
「むー……。……でも本当になんとなくなんです」
茉白は少し不貞腐れたように言った。
「……じゃあ、なんでここに?」
結仁は肘掛けから頬を離し、茉白に向き合った。
「…え?」
「……いや、そう言う意味じゃなくてだな、?なんで俺の提案をのんだのかなって…」
結仁がもう一度聞くと、茉白は少し間を置いてから言った。
「んー……、強いて言うならただ単に私が上田くんと居たいからですかね……」
茉白は微笑みながら言った。
結仁は何を言えばいいのか分からず、恥ずかしくなって顔をそむけた。
すると茉白は急にソファを立ち、少し頬を赤らめて俯いた。
「……やっぱり、今の無しで…。…っでも…今はそういう事にしといてあげます」
茉白は頬を赤らめたまま悪戯っぽく笑う。
すると途端に結仁の頭を撫でる。
「なっ!?……ちょっ!待っ……!!」
「あ、上田くん照れてるんですか?可愛いですね」
茉白は結仁の制止も聞かずにからかって楽しんでいる。
「…うっせえな!」
結仁は少しムキになって、恥ずかしさを誤魔化した。
そんな茉白の顔を見る。
茉白の金眼は少し優しい虚ろな目をしていた。
「あはっ!やっぱり上田くんは面白いですね……」
「…東雲、今絶対眠いだろ…」
茉白は何も言わずに笑顔になった。
結仁はそんな茉白の頬に触れようと手を伸ばしかけたが止めた。
だが茉白はすぐに表情を変えて言った。
「……でも本当にありがとうございます」
少し間を置いて、再び口を開いた。
「最初に会ったあの日のことやこの家に誘ってくれた事、今でも、上田くんには感謝してもしきれません」
茉白は真剣な眼差しで結仁を見つめた。
その金色の瞳の奥には優しさが込められていた。
「だから、私は少しでもいいから上田くんにお返しがしたいんです……」
茉白は結仁の伸ばしかけた手をギュッと握り、静かに目を伏せた。
その仕草はまるで祈りを捧げているようだった。
「……別にそんなの気にしなくていいんだよ」
結仁は照れながらも優しく茉白に語りかける。
その表情には強い意志が宿っていた。
「それに、東雲にはこの時間だけでも楽な東雲でいてもらいたいからな」
結仁もスっと立ち上がり茉白の頭に、ぽん、と手を乗せる。
すると、茉白は頭を結仁に差し出しながら呟いた。
「私って、そんなに無理してそうに見えますか…?」
茉白は何かを我慢するように言った。
「…いいや、でも楽しそうじゃないとは思う。そう言う面じゃ、無理してるのかもな」
茉白が結仁の手を握る。
その手は少し冷たく柔らかい感触。
結仁はこの少女に何かしてあげられることはないかと考える。
手の向こう側に寂しそうな表情を浮かべる茉白は黙ったままだった。
結仁は茉白の頭から手を離す。
そして茉白の手を握り返して下におろした。
すると顔を近づけて言う。
「…東雲。俺がその外面、引っ剥がしてやるよ」
力強い声音でぶっきらぼうに、でもどこか決意に漲った面持ちで茉白に言う。
「いつか絶対、その筋金入りの敬語も使わなくなるくらいに、それに変な気遣いだって出来なくなるくらいにさせてやる」
茉白は少し涙を浮かべ、目を細めニコッと笑った。
「…はい。是非お願いします。でも、ゆっくりでお願いしますね」
結仁は静かに頷く。
しばらく何も喋らず、でも、嫌にならない静寂が続いた。
ふと結仁は時計を見る。
午後9時23分。
結仁はハッと声を上げ、
「東雲っ…もうそろそろ帰…」
さっと茉白を見る。
「寝てる…」
ソファでクッションを抱えながら気持ちよさそうに寝ている茉白がいた。
「まったく、しょうがないな…」
茉白を抱き抱える。
軽くスっと持ち上がり、今にも腕の中で崩れてしまうくらいに柔らかい。
茉白の顔を見ると、これまた可愛らしい顔で寝ている。
いつも長い睫毛に囲われたエメラルドに輝く金眼は白に近い肌の色をした瞼に優しく包まれ、輝きを失ったがそれに変わる万人を癒すあどけない表情。
少しばかり背丈の足りない華奢な身体付きに、風に吹かれ飛ばされると思わせるほどの軽さ。
結仁の腕の中には正しく、純粋無垢な天使が宿っていた。
何やら、小さく寝言を言っている。
寝室に運ぶと結仁は茉白を結仁のベットに寝かせると、結仁はベットの隣のフローリングに座り茉白の顔を覗き込む。
なんとも無防備な表情。
純白の髪を食みながら、むにゃむにゃと寝ている。
結仁は手を伸ばすと食んでいる髪を退かし、茉白の頬に触れる。
柔らかく温かい。
そんな茉白は寝惚けて、結仁の手を握る。
(今後も東雲のために頑張らないとな…)
結仁はそう思いながら茉白を見て安心したように微笑み、そのまま寝てしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます