第4話 お返しの時間




茉白が手際よくタオルや結仁の常備薬などの看病に必須な物を揃え、適当な処置をとった。


こんな贅沢、学校の人達に知られれでもすればきっとになるのだろう…。

大概は嘘に思われるかもしれないが…。


ひと段落着いた茉白がベットの隣に椅子を用意し座る。



「本当に何から何まで、悪いな…」


結仁は申し訳なさそうに言ったが、茉白は笑顔で首を振った。


「そんなこと言わないでください。先程も言いましたが、上田さんが元気になることが私にとって一番大事なことですから」


茉白はその言葉を真剣に伝えた。

その言葉に、結仁の胸が温かくなった。


「そういえば、こんな時間ですし。上田さん、食欲はありますか?」


茉白は突然思い立ったように言った。


「あるけど…?」


「上田さんは何か食べたいものとかありますか?作ってあげたいです」


透き通った声で茉白は言う。

驚いて、ばっと起き上がる結仁。

茉白の手料理には少しばかり気になる様子の結仁。


しかし、


「えっ?いや、そんなに気を使わなくても大丈夫だよ。」


結仁は慌てて答えたが、茉白の金眼はいつもより活き活きとエメラルド色に光輝かせていた。


「そんなこと言わずに。それと慌てて起きないでくださいよ。安静に安静に。」


茉白はそう言いながら、結仁の右肩を引っ張りそのまま元の位置に戻した。


「あ。すまん…。つい…」


はしゃぎ過ぎた姿を露にしてしまった結仁は少し恥じらいながら言った。


「とにかく、何か作ってみますね。キッチン、使わせていただいてもよろしいです?」


ニコッと微笑む。


「あぁ、構わないけど…」


「では、これを」


茉白は体温計を手渡した。


「熱を測ったら寝ていてくださいね。ご飯が出来たら起こします」


茉白はそう言うと、足早にキッチンに向かい始めた。結仁は少し驚きながらも、その後ろ姿を見つめた。

茉白が寝室を出る。


はぁーっと深いため息をつくと、言われた通りに結仁は体温計で熱を測った。


38度2分


結仁は引き気味に自分の体温に驚きながら体温計の電源を切り、ゆっくりとベットに横になった。


少し時間が経つとキッチンから、料理を作る音が。


と思いきや、


\\ガッシャーン!!//


急に大きな音が。


鍋を落としたかのような大きく響くような音がしたため、茉白に何かあったのかと心配し起き上がろうとすると、茉白が寝室の扉を開けひょこっと顔を出し動作の途中だった結仁と目が合う。


「上田さん、い、今のは!きっ…気にしないで寝てくださいっ!」


笑顔で言いながらも焦る茉白。結仁が口を開こうとするや否や出ていってしまった。


(今のはなんだったのだろうか…。)


それからキッチンから聞こえる音が一変し、次第に料理の香りが漂ってきた。


茉白が何を作っているのか気になりながらも、結仁は言われる通りにベットで休んでいた。


しばらくして、茉白が料理を持って戻ってきた。


「お待たせしました。簡単なものですが、どうぞ。風邪をひいた時にはこれが1番効くので。」


茉白は微笑みながら料理を差し出した。それはシンプルなお粥だった。


「おぉ、、本当にありがとな。いただきます」


結仁は茉白のお粥を一口頬張ると、その美味しさに感動した。


「すごく美味しいよ、東雲さん。ありがとう」


「よかったです。元気になってくれると嬉しいです」


茉白は嬉しそうに微笑んだ。結仁はその笑顔を見て、心がほっとするのを感じた。


「あっ、上田さん。体温、お幾つでしたか?」


茉白は体温計を手に取り、結仁の顔を覗き込むように聞いた。


「…37度5分だった」


結仁はお粥を頬張りながら答える。

そんな結仁を横目に、茉白は体温計の電源を入れ一瞬表示される測った温度の履歴に目をやる。


「あの…。私には38度越えの体温が見えたんですけど?」


嘘をついた結仁を少し睨みながら言った。

絶対バレるはずの分かりやすい嘘に動揺を隠しきれない結仁は料理を口に運ぶ手が早まる。


「…もう。今日はしっかり寝て、上田さんの免疫機能にしっかり働いてもらってくださいね」


小さく頷く結仁。

茉白は、はぁっと呆れ紛れに溜息をつきながら体温計を枕元に置いた。


少し間を置き、


「そういえば、ずっと思ってたんだが。なんで俺の家を知ってるのかが気になって。」


「えぇと、それはですね、帰宅時にポストを確認している上田さんを見かけたことがありまして…。それとなく階は覚えていたんですよ」


茉白は思い出すように言うと笑った。


(なんだ、東雲さんにはそんな時から知られていたのか)


と結仁も納得し、あ〜っと頷く。


「それにしても。上田さんのお部屋、綺麗にされているんですね」


細い声で呟く茉白。


「まあ、昔からこういう整理整頓は得意でな。」


茉白の作ったお粥を食べながら答える。

時折、美味いなと小声で言いながら。


「それに、お料理も作れてしまうなんて。上田さんは見かけと言動に依らず、女子力高いのですね」


ふふっと笑いながら鈴の音のような声で言うと、ピタッとお粥を口に運ぶ手が止まり結仁は照れながら、


「じょっ…?!女子力だなんて…!!関係ねぇよっ」


結仁は頭を掻きながら吐き捨てた。


「というか、だいたいそんな東雲様は男子の部屋に一人で、俺にとか心配はしなかったんですか」


結仁はしかめっ面で嫌味に言う。


結仁の言葉に茉白は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑みを浮かべた。


「上田さんがをする人じゃないって、わかっていますから」


茉白の真剣な金瞳が結仁を見つめる。結仁はその視線に少し照れながらも、何か特別な信頼を感じた。


「そうか…ありがとう」


少し悪く言ってしまったなと反省しつつ結仁は照れ隠しに顔を背けたが、茉白の言葉が心に響いた。


「それに、私も上田さんのことを信じていますから。それよりも、次からその呼び方しないんじゃなかったんですかっ!!」


茉白は恥ずかしそうに口を噤み頬を膨らませ、結仁を上目遣いで訴えかけた。


「悪い悪い」


結仁は少し笑った。

茉白はその言葉にサラサラとした純白の髪を靡かせそっぽを向く。

ちょっとした間があった後に


「…でもそうか、じゃあ安心だな」


結仁は少し照れ臭そうに言ったが、心の中では茉白の信頼に応えたいと思っていた。


その後、結仁はお粥を食べ終え、体も少し楽になったように感じた。


「ご馳走様。本当に美味しかったよ、ありがとう。これで少し休んだら、元気になると思う」


結仁は感謝の気持ちを込めて言った。


「お粗末さまでした。それは良かったです。でも、まだ無理しないでくださいね」


茉白は優しく言いながら、食器を片付け始めた。


「いや、これは俺が片付けるよ。もう十分助けてもらったから」


結仁は立ち上がろうとしたが、茉白はそれをあわあわと制止した。


「いいえ、私が勝手にしているだけですから。えっと…、上田さんはベットでゆっくり寝ててください」


茉白の決意が感じられる声に、結仁は黙って頷いた。


「わかった。ありがとうな」


結仁は茉白の背中を見つめながら、心から感謝の気持ちを感じていた。


茉白が食器を片付けている間、結仁はベッドに横たわり、少しの間休むことにした。茉白の存在が彼に安心感を与えていた。


しばらくして、茉白が片付けを終えて戻ってきた。


「これで大丈夫です。上田さん、何か他に必要なものはありますか?」


茉白は優しい声で問いかけた。


「いや、もう十分だよ。本当にありがとう」


結仁は微笑みながら答えた。


「それなら良かったです。でも、何かあったらすぐに言ってくださいね」


茉白は心配そうに言った。


「もちろん。」


茉白はしばらく結仁の顔を見つめていたが、ふと何かを思い出したように口を開いた。


「そうだ、上田さん。こんな大変な時に申し訳ないんですが、」


「何だ?」


結仁は興味深そうに茉白を見つめた。


「…実は、お部屋の片付け方…。もしよかったら、教えていただけませんか?あ…全然上田さんのご都合の合う日で良いのでっ…」


茉白は顔を伏せ気味に少し恥ずかしそうに言った。


「もちろんだよ。俺で良ければいつでも手伝うよ」


結仁は笑顔で答えた。


「本当ですか?ありがとうございます!」


茉白はぱあっと嬉しそうに微笑んだ。その笑顔に、結仁は心が温かくなるのを感じた。


「じゃあ、元気になり次第、休みに時間を作って一緒に片付けようか」


「はい、お願いします」


茉白は嬉しそうに頷いた。



こうして、また結仁と茉白の新たな交流が始まった。

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