第2話 

「……?」


 響希は日課のツクミルを開き、大画面に表示されている配信タイトルを見て首を傾げた。


【最高難易度ダンジョン】でっかい塔は強い塔【★10】


「最高難易度、ダンジョン……塔? 大抵のダンジョンが地下に存在する物ではありませんでしたか? 塔とは?」


 現状発見されているダンジョンは全て地下ダンジョンだったと記憶している響希は、疑問に思い配信を開いた。

 

『という事で、入って行きま~~す!』


 配信は丁度ダンジョン内に入る直前だった。画面に映った背景は夜空と建物。このダンジョンが外にあるのがすぐに理解出来た。

 もう一つ、「関係者以外立ち入り禁止」の看板が見え響希は珍しいと思った。今はほぼ全てのダンジョンは一般開放されていたからこそそう思った。

 そこでもう一度響希はタイトルを確認……しようとしてぴたりと画面に釘付けになった。


「え――?」

『うっっっわやっっば!!! めっっちゃ他のダンジョンと違うんだけど!! やべぇ!!!!』

[今までのダンジョンと全然違うな。異質]

[すっごい豪華]


 配信や、実際に響希が攻略してきた簡素なダンジョン達とは全く違う、力が入っている内装。

 端に見える上へと昇る階段、真っ赤な絨毯、天井から吊り下げられているシャンデリア。

 そして。


 正面にこれでもかと巨大にたてかけられている、骸の肖像画。


「ヒュッ――」


 知っている。知っている。知らないはずない。何故、何故これがここに。

 画面の光景に息を呑んだ響希はたらりと一筋の汗を流す。

 自我がある今、呪いで制限されていたとしても、前世で嫌という程染みついた恐怖はそう簡単には克服できるはずがなかった。

 

 魔王として造り上げられた後に作った拠点。自宅と呼べるものがそこにあったのだから。


『うっわ~~これ何? このダンジョンのボスだったりする?』

「あまりそれを、見ないでください……。もしこのダンジョンが私の城ならば、彼は死んでしまう」


 苦々しい思い出に弱々しい声が漏れる。前世で勇者呼ばれた人間達が響希がいた最上階に辿り着けず死んでいった事を知っている。自分が何もしなければこのまま無残に死ぬことは目に見えてわかった。


「私が責任をとらなくては」


 響希は椅子から立ち上がり左胸に手を沿える。前世の魔法を使い見た目をあの肖像画の主のように変化させる。

 人として名残の白銀の毛先をマントの中に入れ込む。骸の仮面を被る。獣のような手と足を作り身に着けていく。

 そうして出来上がった偽りの王の姿を鏡で響希は見る。


 ――…………人に見えない。


 目を閉じて自我を限りなく殺す。求められるは理想の王。魔王である事。


「我は王なり。世を統一した魔族の王、イージャなり」


<>


「げほっ、なん、だよこれぇ!!!」


 聞いてない!!!! と男は体の至る所から血を流しながら逃げる。逃げる度にガコンと罠が踏みそれが男を傷つけいく。少しずつ、ゆっくりと、確実に男を死に向かわせる。そこにモンスターの姿は何処にもない。

 一層目~四層目までモンスターは出ず、男は「これで最高難易度ダンジョンとか、意味わかんねぇ」と笑っていた。

 だが五層目に入ってから一変した。

 ガコン。男と視聴者以外の音が初めてダンジョン内で鳴った。その直後男の目の前を何かが通り過ぎた。


「は?」


 気づいた時には男の両腕の端から血が流れていた。

 全てのものが遅く見える加速能力を持つ男。その男が初めて己に何が起きたのか分からなかった。何が飛んできたのかも見えなかった。かろうじて残像が見えただけだった。

 飛んでいった方向を確認しようやく飛んできたものが理解出来た。

 矢だ。複数の矢じり背後の壁に突き刺さっていた。

 そこで男は理解した、「やばい」と。念の為と目に能力をかけていた、かけていたというのに回避出来ず、まともに視認できなかった。

 視聴者側も男と、罠を見て賑やかな状態から一転して困惑状態に変化した。

 男は有名配信主で実力者だった、攻略人数が少ない★9のダンジョンを最下層まで無傷で攻略したほどの実力者だった。その男が回避すら出来ず傷つく様子にこの最高難易度ダンジョンのやばさを理解した。


 慎重に逃げる男は罠を作動させていく、どこにあるかも分からない、攻撃が見えない。

 男は途中から能力を使い勢いよく逃げ出した。視聴者側から男は残像と時々赤色が画面に映る。

 四層、三層、二層——と来て男は倒れた。血だまりが段々と広くなっていき視聴者は[誰か運営に連絡!! 早く!][死ぬな、死ぬな!][誰か助けにいけないのか!?]と焦りのコメントが増えた。

 


「——息はあるか」


 声が聞こえた。感情のこもっていない声。

 

[誰?]

[助け? 助けに来てくれた?]


「侵入者用の罠でこうなるのであれば、貴様に我が城は攻略できまいよ」


 その言葉と共に画面に映った人型のモンスター。モンスターはあの肖像画の人物とそっくりだった。

 

 ——回復後入口まで転送。その後私の出番はありません。


 仮面の下で響希は考え、男の傷を癒していく。


「ひっ、ぃ」

「悪いようにはせん。大人しくせよ」


 怯える男の声に淡々と答える。もう少しで動ける程度まで傷を癒してから響希は転送魔法を唱える。


「お、おまえは……」

「貴様に我が名を知る価値など無し」


 男と配信道具全てが転送されたのを確認してから響希は呟いた。


「ナイトメア。何故、貴方がここにある……」


 作成者として取り壊しをしなくてはいけない。そう思いながら一先ずダンジョンから離れた。

 ここに留まっていると、何かよくない事が起きる気がしたから。

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